第573話 どちらに進んでいても
SIDE イシュドと愉快な学友たち
「…………はっ!!!! やっぱそうなんだろうな」
観客席から二人の戦いを眺めているイシュドは嬉しそうな……実に狂戦士らしい笑みを浮かべていた。
「っっ……」
対して、ミシェラはイシュドの様に笑みを浮かべている余裕はなく、苦々しい表情を浮かべていた。
「うわちゃあ~~~~、こ~~~れはヤバいね」
ヘレネはヘレネで、脳内でアドレアスやディムナとの戦闘をイメージするも……速攻で負けることはないが、フィリップ以上に防御一辺倒になる気しかしない。
(集中力強化を上手く使えるようになったとしても、あれは…………使うだけじゃなくて、使い続けられないと話にならないね)
フィリップとの試合では持続的に、効果的に使えていたヘレネだが、あれはスキルを獲得した際に生じるフィーバータイムのようなものであり、一旦落ち着きを取り戻した今だと……実戦で使えるように一から積み重ねていかなければならない。
(せめて……あの攻撃魔法たちだけでも、対応出来るようにならなければ、なりませんね)
後衛の魔法職である自分がリング上の細剣士二人に勝てる可能性があるとは欠片も思っていないフレア。
ただ、少なくとも彼らが発動している攻撃魔法を取り除けるぐらいの腕前を手に入れなければならないと思う……だからこそ、あの二人のおかしさが際立つ。
「あの、イシュドさん。あのお二人は……その、今の道に進まずとも大成されましたよね」
「ん? あぁ、そうだろうな」
「それは、魔術師の道に進んでいても、ということですの、イシュド」
「そうに決まってんだろ、デカパイ」
解っている。
解ってはいるが、それでもこの場で一番の実力を持つ者の口から聞いておきたかった。
今のミシェラは、自身の悪口に欠片ほどの苛立ちを感じないほど焦りを感じていた。
(……まっ、解らんでもねぇな)
普段から共に訓練をしているのだから、アドレアスがここまで戦えるのは知ってて当然なのではないか? と思われるかもしれないが、ミシェラが風斬風弾の乱れ撃ちを隠していたように、全員ある程度手の内は隠していた。
とはいえ、ミシェラもアドレアスが武器と魔法を同時に扱えることぐらいは用意に想像出来ていた。
ただ、そのレベルが完全に彼女の想像を越えていた。
「家の……進路方向? がそうなのか、本人がその道しか進むつもりがなかったのかは知らねぇけど、あの二人なら魔法系の道に進んでたとしても大成出来るだけのセンスと才はある」
「やっぱりか~~。私はあんまり魔法職に詳しくないけど、あれだけ激しく動き回りながら魔法を撃てるって、魔法職からしたらこう……自信を砕かれるもの?」
ヘレネの問いに、彼女の周りにいる一部の学生たちが揃って頷く。
悔しくない訳ではない。
彼ら彼女たちは、魔術師の道に進むために、魔術師として大成するためにその道を邁進し続けていた。
だが、アドレアスとディムナは違う。
彼らはあくまで騎士職の方面で強くなるための研鑽を積み重ねてきていた。
しかし……今の二人のそれは、同年代の大半の魔法職たちをボコボコにズタボロ雑巾にするほどの腕前であった。
「あの二人はあれだな、ザ・王道って感じでハイスピードに成長してんな」
「……ですわね」
騎士が魔法に頼って良いのか!!!! という老害文句はさておき、戦う者にとって手札が増えるというのは良いことである。
そして細剣技と属性魔法は、貴族にとって王道のスキルであり、二人はそれらを組み合わせた戦闘スタイルを完全に自身のものにし、戦闘力を高めていた。
「んだ、デカパイ。お前アドレアスには完全に負けたと思ってんのか?」
「っっっ…………えぇ、そうですわね」
認めたくはない。
男女としての好意を持つ相手ではあるが、それよりも前に将来騎士になる身として、負けると思って良い相手など一人もいない。
それでも……現時点では敵わないと認めるのは、現実を受け入れられない駄々っ子であると判断。
「なんだ、解ってねぇのかよ」
そんな泥水を飲み込む気持ちで口にしたミシェラの気持ちを、鬼は小バカにするように笑った。
「なっ!!!??? あ、な……ど、どういう」
「おいおい、あんまりキレてっといつかのままプツンって血管切れて憤死するぜ?」
「だ、誰のせいで!!!!!!!」
勿論、イシュドのせいである。
だが当の本人はそこでその件に関する会話は打ち切ってしまった。
(こ、この男は~~~~~~~っっっ!!!!! ……しかし……先程、確か解ってねぇのか、と言いましたわよね。この変態狂戦士)
まだ若干顔から血が引いておらず、赤い状態が続いているも、冷静さを完全に失っていたわけではなかった。
解っていねぇのか……その言葉から紐解くに、現時点でのミシェラでも二人に対する突破口自体はあるということ。
(私が……あの二人に勝つには…………)
イシュドとたちあれはどうなのか、こうすればどうなるかなど、喋りながら試合を観戦するのは……正直なところ、少し楽しかった。
しかし、もう……ミシェラの視界にアドレアスとディムナの激闘は一切移っていなかった。




