第572話 重なる思考
SIDE アドレアス、ディムナ
(まさか同じタイミングで同じ事を考えるなんてね)
一度ディムナから距離を取ったアドレアス。
ディムナが放つ突きを手のひらで迎え入れ、貫かれることを覚悟で得物を奪おうとしたが、奇しくもディムナも同じ事を考えおり、二人ともそれに気付いて距離を取った。
(……知ってはいたが、変わったな)
追い詰められてから、であればそういった行動を取るのも、ディムナとしては解る。
しかし、これまでアドレアスに抱いていた印象では、まだ序盤も序盤の段階でダメージ覚悟で相手の武器を奪おうとする行動に出るとは思えなかった。
「…………ふっ。楽しいな、アドレアス」
「ふっ、ふっふっふ。そうだね……私も楽しいよ、ディムナ」
両者、共に先へ進み、リベンジを果たしたい相手がいる。
こんなところでは終われない……それでも、共に似たスタイルであり、実力も近いことから序盤から火花を散らす戦いとなった。
元から互いに実力は認め合っていたからこそ、今……改めて対戦相手と対峙することに、楽しさを感じていた。
「それじゃあ、戦ろうか」
「あぁ、そうだな」
序章は、あくまで序章。
人によってはそれだけでも、自分は敵わないと思ってしまうほどの戦いだったが……二人にとって、あれはただのウォーミングアップ。
当然勝機を探ってはいたが、それでも本番ではない。
「「ーーーーッッ!!!!!」」
再度、一瞬で距離を詰めた二人。
先程までの様に突きを軸とした高度な刺し合いではなく、互いにダメージを覚悟のうえで繰り結ぶ距離での剣戟。
「ッ、ふッッ!!! っ、破ッッ!!!!!」
「ーーッ、疾ッ!!! っ!? ッッッ、チッ!! ふんッッ!!!!」
突きだけではなく払い。
そして両者……共に纏う旋風を、雷を利用して小さな風弾や雷針を飛ばし合う。
超スピードで斬り結ぶ彼だからこそ、そういった細かい嫌がらせが響いてくる。
「「「「「「「「「「ーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」」」」」」」」」」
今のところ、嫌がらせ攻撃によるダメージはないものの、それでも共にダメージ覚悟で斬り結ばなければ倒せないと判断したことで、二人の体に鮮血が飛び始める。
先程の鋭く、芸術の様な美しさすら感じさせる刺し合いでも盛り上がっていた観客たちだが、一段と鋭く……そして過激になった二人の戦いを観て、熱が高まらないわけがなかった。
だが、そんな周囲の高まり、熱気など二人には関係なかった。
何故なら……二人は既に、周囲の引っ張りなど無意味なほどに熱く滾っていた。
(さて、どう、しようか)
心は熱く燃え滾らせながらも、アドレアスはクールに勝機を考えていた。
万が一の可能性は考えていたが、幸いにもスピードは互角といっても問題ない。
他の部分に関しても、差は極僅かなもの。
細剣技スキルの練度も殆ど同等のものと思われるが、二人とも今のところ殆ど使用していない。
ディムナが三連突きを一度、アドレアスが光閃の連続使用を一度行ったのみ。
二人ともひたすらハイレベルであり、どのステータスも高水準だからこそ、あまり後隙を残すスキル技を使えない。
隙を作ろうと細剣を振るいながら風弾や風針をぶつけるが、これまた同じタイミングで仕掛けてしまったため、共にアドバンテージをつくることが出来なかった。
(下げられないのが、また、ね)
細かな攻撃とはいえ、それでも魔力を消費することに変わりはない。
であれば使わなければ良いのではないかと思われるかもしれないが、互いが互いの嫌がらせに対して完璧に対応してしまうからこそ、解ることがある。
今、ここでその嫌がらせを止めてしまえば、どこかで自身のリズムを狂わせる切っ掛けになってしまうと。
しかし、このままいけば消耗戦になってしまう。
それもまた一つの戦法であることはアドレアスも理解している。
だが、それはある種無意味な考えだと解っていた。
序盤が終る際、互いにダメージ覚悟で相手の得物を奪おうとした。
その一手を実行するという事は、ダメージを負う前提でで勝利へ手を伸ばす覚悟が出来ているということ。
消耗戦狙いなど……互いに眼中にない。
(で、あれば)
(それしか、ない)
ディムナもアドレアスと同じく、このままでは時間と体力、魔力だけが消耗すると考えていた。
だからか……二人は今回も同じタイミングで同じ考えへと至り、戦闘スタイルを変えた。
((ッ、話が早いッッッ!!!!!!!!!!!))
二人は既に魔剣士の領域へ至っている。
魔法も使える剣士……ではなく、得物を振るいながら魔法を発動出来る剣士。
ただその技術を持っているだけではなく、これまた学生が至れる魔剣士の枠を大きく超えている。
先ほどまで放っていた風弾は風玉に……雷針は雷槍へと変化。
そこら辺の魔術師見習いたちが自信喪失してしまいかねない程、潤沢な魔力を使って攻撃魔法を連続使用。
そして、二人の剣戟も更に激しく荒々しく変化。
「…………はっ!!!! やっぱそうなんだろうな」
だが、先程までの剣戟とは異なり、二人の体に切傷が刻まれる回数が激減していた。




