第566話 だからこそ、負けられない
「アドレアス様と、ディムナ、さんが……」
一年生トーナメントの第四準々決勝で行われる組み合わせを思い出し、学生たちは一瞬にしてさきほどまでの熱が冷めた。
「イシュド、あなたはどちらが勝つと思いますの」
周囲の学生たちが真っ先に気になるであろう質問を、躊躇なくぶっこむミシェラ。
「さぁ………………どっちだろうな」
「…………そういうレベル、ということですのね」
「個人的には、な」
自分で考えろよとは思いつつも、仕方ねぇな精神で考えた。
考えはしたが……それでも、どちらが勝つかハッキリとした予想は思い浮かばなかった。
「二人とも武器は細剣。んで、アドレアスは風でディムナは雷。多少違ぇところはあるが、大まかな部分は同じだ」
「似たタイプで、同じ技量の高さだからこそ……ね。普段から共に訓練をしてないディムナのそういうところも解りますの?」
「解るだろ。つか、あいつの立場になって考えてみろよ……お前らに負けてられっか?」
「………………絶対に、負けてられませんわね」
ミシェラたちの傍には、イシュドという人間がいる。
模擬戦や試合では容赦なくボコボコにしてくるが、それでも解らないところは訊けば教えてくれる。
なんなら、自分から訊かなくても教えてくれることは多々ある。
だが、ディムナの傍にイシュドはいない。
ダスティンという共にイシュドからの訓練を受けた同じ学園の者はいるが、彼は一学年上の三年生。
ディムナの直ぐ近くにいるわけではない。
だからこそ……だからこそ、ディムナはガルフたちに後れを取るわけにはいかない。
イシュドという例外で異常な変態狂戦士がいないという事を、負けた時に理由にしたくない……勝てない理由にしたくない。
「だろ。そんなのはアドレアスも解ってるだろうから、一方的な試合にはならねぇだろうよ」
「……勝敗を分けるとすれば、魔力操作と細剣の腕前以外の点、ですわね」
「聞かずとも解るようになってきたじゃねぇの、デカパイ」
「それぐらいは解りますわ。ただ、それ以外の部分で競ったとしても………………それが、明確な分かれ目に繋がるとは思えませんの」
「ふ~~~~ん……良いじゃねぇの。良い感じに感覚が養われてんじゃんか」
「えっと、イシュドさん。何故メイン武器以外の手札を使用しても、勝敗へと繋がらないのですか?」
フレアは自分が接近戦に関してはド素人だと認識しているため、躊躇うことなく全てを尋ねる。
「メインで扱う属性によって、その人間の危機に対する突破方法がある程度別けられるんだよ。言っとくが、先に例外はあるって言っとくぞ」
「は、はい」
「基本的な五属性の中で、風魔法と雷魔法をメインに扱う人間は、不意に降りかかる危機に対して、反射的に回避する癖がある……って言い方はあれか。回避出来てしまうんだよ」
「つまり……奇襲を仕掛けられても、反射的に躱すことが出来てしまう、と」
「絶対って訳じゃねぇだろうけど、モンスターや実家の色んな騎士たちと戦ってきた感じ、そんな風に分かれてんなと思ってよ」
「……因みにですが、他の三つの属性の方々は、危機に対してどの様に対応なさるのですか?」
「火と土は力づくで対応する。んで、水は受け流す」
「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」
話を聞いていた学生たちは、これまでの記憶を全力で掘り返す。
掘り返した結果「いや、それってやっぱりイシュドの主観でしかないよね」といった言葉や考えは、一切出てこなかった。
何故なら……とりあえずその場にいる学生たちは、全員イシュドの言葉に身に覚えがあったから。
勿論、ミシェラにも身に覚えがあり、無言で固まってしまっていた。
(……こいつら、絶対じゃねぇって言ってんだけど聞いてなかったのか?)
表情を見れば、全員思い当たる節があるというのが解る。
ただ、イシュドの考えはあくまでそういった例が多いだけ。
騎士の道に進む者であれば、一度はそういった経験することがあるため、場合によっては統計などを利用した詐欺と捉えられてもおかしくない。
なのだが……それを語るのが並みの学生が千人いてもあっさりと蹴散らしてしまう変態狂戦士であるため、全員完全に信じ込んでしまった。
「となりますと、どれだけ最後まで気を抜かなかった方が勝つ、ということですか?」
「それも一つの要因だな。後は、どっちが相手の動きを読み切るか。意識外からの攻撃に相手がどう反応するか解ってれば、それを布石にして強烈な一撃を叩き込むことも出来る」
「っ……あなた、本当に狂戦士なのによく考えてますわね」
「お前らが考えてねぇだけだら。ちゃんと対モンスター戦でも対人戦でも良いけど苦戦した戦いの内容とか振り返ってのか?」
「ぐっ、それは……最近になってからですわ」
「……疑問なんだけどさ、お前ら社会的な意味で戦闘職を目指してんのに、そういうのを話し合うの楽しくねぇのか?」
「その点に関しては、大なり小なりといったところではなくて?」
「…………デカパイは置いといて、そうじゃねぇ連中たちはそもそも戦いに向いてないんじゃねぇのか」
「「「「「「「「「「っっっ!!!!!?????」」」」」」」」」」
最後の一言による、学生たちに超特大の轟雷が落とされた。




