第567話 壁が多すぎる
SIDE フィリップ、ヘレネ
「あぁ~~~~、死ぬかと思ったぜ~~~」
治癒室へと送られたフィリップはヘレネと共にポーションを服用し、全快していた。
「よく言うよ。殆ど攻撃を躱してたじゃん」
「あんな良い蹴りかましといてよく言うぜ」
ヘレネの言う通り、フィリップは彼女の攻撃を殆ど回避していた。
ただ、フィリップの言葉もその通りであり、叩き込むことに成功した蹴りは……場合によっては敗北に直結していてもおかしくなかった。
「やっぱり蹴りがぶち込まれたからだったのねぇ。多分、折れてるだけじゃなくて、一部が内臓に刺さってたはずよ」
「うわぁ~~~~、やっぱりか……って、んな事まで解るんすか」
「人によるけど、こういう仕事をしてれば解るようになるものよ」
効率良く治すためには、患者が体のどの部分が重点的にやられているかを見極めるのも重要な点。
彼女は戦場に出ることもあって、その効率がそこら辺の治癒師よりも数倍以上は上である。
「それで、話しぶりだと勝ったのはあなたみたいね、フィリップ」
「本当になんとかかんとかってところっすけどね。二回も賭けにでたし」
「ちゃらんぽらん坊ちゃんにとって、賭けは娯楽と一緒じゃなくて?」
「んな感じで賭けてたら、それこそ絶対に逆になってるっすよ」
カジノで遊んだりするのが割と好きなフィリップだが、戦闘での賭けと娯楽との賭けはまた別物。
治癒師の女性も冗談で言っただけであり、もう……本当の意味でちゃらんぽらん坊ちゃんだとは思っていない。
「ふふ、それもそうね。それじゃあ、この勢いのまま前回と同じく優勝かしら?」
「勘弁してくださいよ。前回だって苦労してるし、運だってあったんすよ」
「前回と言うと、途中でガルフとディムナ・カイスという学生が引き分けになって、フィリップとアドレアス様による事実上の決勝戦が行われたんだっけ?」
「そういう事。本当ならアドレアスに勝っても、その後にガルフかディムナの奴と戦わなきゃならなかったんだぜ? マジで勘弁してくれって話だっつーの」
これは冗談ではなく、マジの本音であった。
それまでの試合に関しては、正直なところ……イシュドとの訓練もあり、楽勝……そこまで苦戦するような戦いではないものばかり。
唯一あったのがミシェラとの試合だけで、壁を二つ越えれば終わりが見えた(イシュドとのスペシャルマッチは除く)。
ただ、ヘレネとの一戦はフィリップの中で当然、激闘とカウントしている。
だからこそ……今回の激闘祭は、フィリップにとって本気でキツイ。
「んで、今回はヘレネとの試合が終わっても、準決勝でアドレアスかディムナだろ……その試合に勝てたとしても、ガルフかイブキとの決勝戦が待ってんだぜ? マ~~~~~~ジでキツ過ぎるっつーのって話っすよ」
「…………ちょっと、否定できないね」
トーナメントに参加するのはそういう事である、と切り捨ててしまうことは出来る。
ただ、ヘレネは頭の中で準々決勝まで残ったメンツを思い浮かべ……結果、そういう事だと切り捨てることは出来なかった。
(ガルフにミシェラさん、ルドラにイブキさん、フィリップにディムナさんにアドレアス様…………改めて、早々たるメンツよね)
一人以外は、普段から共に行動している者たちばかり。
なのだが、トーナメントの八強にそれらのメンツが残っていると……そこに自分ではなく別の誰かがいるとすると、その人物に果てしなく同情する。
「前年度の優勝者なんだし、君に応援してる……もとい、賭けてる人たちは多いはずよ?」
「勘弁してもろてって感じっすね。元の俺を考えれば、そもそも俺に賭けるってのがナンセンスだと思うんすけど」
「大半の人たちが君の正確な過去なんて知らないからね~~。当然と言えば当然の選択でしょう」
「…………」
傷や魔力量は回復したが、ちゃんと疲労は残っているため、碌な反論内容が思い浮かばない。
「そういえば、次に戦うのはアドレアス様とディムナ君な訳だけど、フィリップ君としてはどちらの方が良いのかしら?」
「それは私も気になるね」
「良いもクソもあるかって感じなんすけど」
言葉を選ばず即答したフィリップ。
それほどまでに、彼からすればアドレアスもディムナも悪い意味で大差ない対戦相手となる超強敵。
「それじゃあ、どちらの方が勝ち上がってきそうかしら」
「………………頭脳戦を制した方、じゃないっすかね」
イシュドと同じく、フィリップもアドレアスとディムナが本気で戦った場合、どちらが勝つか本当に予想出来ない。
アドレアスは普段から共に知っているからこそ解っている恐ろしさがある。
対してディムナはガルフとイシュドというイレギュラーと出会った事で、堅い頭がそれなりにほぐれている。
持ち手札がどれぐらい増えたのか解らないことに加え、頭が柔らかくなったことによるアドバンテージも恐ろしい。
王子も貴公子も恐ろしいことに変わりないため、フィリップは口にこそ出さないが、去年の様になってはくれないかと祈っていた。




