第556話 日頃の行いは……ともかく
SIDE フィリップ、ヘレネ
「どうしたん、だいッ!!! このままじゃ、終わらないよッ!!!!」
既に試合が始まってから五分以上が経過。
開始から激しく動き回っているヘレネだが、動きのキレは全く失われていない。
観客たちから見れば、もしフィリップがヘレネのスタミナ切れを狙おうとしているならば、間違いなく無意味だと思えるほど。
「いやぁ~~、せっかくの、美女とのダンス、だしな。早く早くと、終わらせる、のは……よろしくないと、思ってよ」
「はっ!!! それは、光栄、ねッッ!!!」
挑発とも捉えられるフィリップだが、彼は……特にミシェラと話してる時などは、よくトラッシュトークになりがち。
そのため、ヘレネとしてもそこまで気にする必要はないと解っていた。
(ん~~~、解っちゃいたけど、この程度じゃ、乱れてくれない、か)
イシュドの予想通り、試合が始まってから攻めに関してあまり積極的ではないフィリップだが、それでもこの試合に負けても良いという思いはなかった。
ただただ、この試合で……どうすれば勝てるのか、明確なビジョンを探していた。
(しっかし、本当に、良い動きを、すんな~~)
連続で振り回される大剣から、纏っていた岩石が飛び散るも、フィリップは必要なところだけを弾き飛ばし、無傷で対応。
(やっぱ、あれか。控室で、ルドラが取った行動、っていうか……信念? を、聞いて、バチバチに、盛り上がってる……燃え上がってるから、か…………本当に、あちぃな~~~~~)
再度大剣に岩石を纏わせて強度を上げる……と思わせて、今度は鞘の様な形のまま投げ飛ばす。
フィリップはあっさりと岩石鞘を躱すが、逃げた先には大斬波が放たれていた。
「っと」
間に合わないと判断したフィリップは即座に切り替え、雷を纏った短剣で大斬波を斜めに捉え……そのまま最小限の力で逸らし、迫るヘレネから雷速の駆け足で退避。
(さて、とりあえずこのまま続けても、だし、深く踏み込んだとしても、だよな。そんなら……お?)
再びヘレネがフィリップとの距離を詰めようとした瞬間、今度はフィリップの方から距離を詰めた。
「っっ!! ふふっ、やっと、その気になったわね!!!!」
ヘレネの脇を通り抜けるように雷が通り、彼女の体に切傷を刻む。
丁度ロックアーマーが纏われていない箇所を的中。
この試合のファーストヒットである。
「まっ、そういうこった、な」
先程までとは異なり、ゆるりゆらゆらとヘレネの猛撃を対応するのではなく、フィリップの方からも積極的に距離を詰め始める。
勿論、攻めると見せかけて大斬を躱し、弾き続けることもあるが……数十秒後には、再びロックアーマーが施されていない箇所に切傷が刻まれた。
(っ、また……警戒していたはずなのに、こうもあっさり)
遠距離攻撃を飛ばさないのであれば、フィリップがヘレネにダメージを与える方法は超接近からの斬撃しかない。
そうなると、小回りに関しては劣っているヘレネの方が不利ではある。
だが、そんなことはヘレネも重々承知しているからこそ、そもそも大剣よりも内側に入らせないように行動しており、入られても対処することを忘れないように徹底している。
徹底しているのだが……既に、二度の切傷を食らってしまった。
ロックアーマーがない部分にも魔力は纏われており、短剣という得物のため、傷口は深くない。
流れる血の量も今のところ問題ではない……問題なのは、フィリップが攻撃を当て始めたこと。
「っ、ふんッッ!!!!!!」
三度目の切傷。
またも警戒していた範囲を掻い潜られ、ロックアーマーを纏っていない箇所に切傷を受けてしまう。
ただ、今回は彼が自身の右か左か……抜けた先を把握し、即座に脚を踏みしめて地面から岩槍を生やした。
丁度フィリップが抜けた進行方向の地面から突出した岩槍。
魔法を発動したわけではないため、ロックランスより強度などは劣るものの、頑強な肉体を持っていないフィリップにはそこそこ痛いダメージが入る。
しかし……岩槍が生える瞬間、フィリップは横に跳んで足裏や脚が串刺しになるのを回避。
(っ!? これも……あんなにあっさり)
こういった状況に備えて用意していた手だったが、フィリップはまるでそうなることが解っていたかのようにあっさりと躱してみせた。
「あれを躱すなんて、本当に凄いわね」
「そりゃどうも」
「なんで回避できたのか、是非教えてほしいところね」
攻める気持ちが薄れたわけではない。
だが明らかに流れが解った。
何故変わったのか、その要因の欠片だけでも知り、勝利へと繋げたい。
「さぁ、なんでだろうな? あれだよあれ、日頃の行いが素晴らしいからってやつだな」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくならないかしら?」
「………………うん、そうだな」
不良行為を行っているわけではないが、優等生らしい行動を取っているかた問われれば、嘘でも頷けるところがないため、フィリップはあっさりとちょっと恥ずかしいと認めた。
「とはいえ、あれなんじゃないかね……大和の言葉で、塵も積もればなんとやらってやつ、かもな」
「っっ!!!!」
語気に闘志がない。
それでも流れるような動きで再び距離を詰める。
先程までヘレネが主導権を握っていたのが嘘かのように、大半の学生たちが信じられないという表情を浮かべる。
そして……観客たちは前年度の優勝者が本領発揮し始めたのかと、逆転への流れに興奮し、フィリップへの声援を飛ばし始めた。




