第553話 もしかしたら、乗ってないかも
SIDE イシュド、フレア、ミシェラ
「っ…………あの男、勝つ気はありますの?」
フィリップ対ヘレネの第三準々決勝が始まってから、まだ数分も経っていない。
しかし、傍から見てフィリップの動きは……どう見ても勝つためのそれとは思えない。
「落ち着けってのデカパイ。まだ試合は始まったばっかだろうが」
「だとしてもですわ。二人とも接近戦タイプである以上、魔力量やスタミナに大きな差は生まれない。スタミナ切れを狙おうとしても、逆に自分の首を絞める可能性の方が高いですわ」
もしフィリップがヘレネのスタミナ切れを狙って戦っていたとしても、ミシェラはその戦闘プランに文句を言うつもりはない。
それも戦法の一つだと思えるほど、ヘレネは自分たちと変わらない戦闘力を有していると認識している。
だからこそ、序盤であっても仕掛けるべきところでは仕掛けなければ、勝利を掴み取ることは出来ない……というのが、ミシェラの見解であった。
「そりゃまぁ間違ってねぇな。ただ…………観た感じ、割とフィリップの奴が戸惑ってんのかもな~~~」
「戸惑ってる? ……あの男がですの?」
クールという言葉は到底似合わず、ちゃらんぽらんという言葉の方がよく似合う男。
それがフィリップ・ゲルギオス。
しかし、戦闘に限ればその限りではない……普段から共に行動しているメンツの中では、アドレアスとルドラについで冷静な頭を有している。
そこまでフィリップのことを認めているからこそ、ミシェラはあの男が戸惑っているかもしれないという可能性を直ぐに飲み込めなかった。
「そうだ。あの感じ……なんとなく、隠してる感じがするんだよなぁ」
「それは、ルドラが発する圧に何かを感じている、ということでしょうか」
「多分な。ぶっ殺してでもって感じでマジの殺気を零してるとかはなさそうだが、普段行ってる模擬戦時とかとのギャップがあるのかもな」
「…………そんなものに苦しむような細い神経をしてないと思いますけれど」
その感覚、ギャップはミシェラも解っている。
これまで何度も感じてきたことはあるが、それをフィリップが理解していないとは、到底思えない。
「ふ~~~~ん」
「……なんですの。気持ち悪い笑みを浮かべて」
「いやいやいや、デカパイがフィリップの奴を庇うっつーか、褒めたりすんのは珍しいなと思ってよ。ボコすかに罵倒することはあっても、そういうのはあんまりねぇじゃんよ」
「っっっ、そ、そんな事どうでも良いでしょう!!!」
言われてみればその通り。
一応仲間と呼べなくもない人物のことを褒めることは何も悪くはないが、それでも自分でもらしくないことをしたと思い、何故か恥ずかしさで顔が赤くなる。
「へいへい……まっ、これまでの試合と違って明確に勝つビジョンが見えないからか、相手に一撃で自分を粉砕出来る力を持ってるからか……そこら辺が主な理由なんじゃねぇかな」
「……私の記憶が正しければ、フィリップさんは自分を粉砕してしまうであろうパワーを持つモンスターと対峙し、互角に渡り合っていたと記憶していますが」
フィリップはミノタウロス戦以降も依頼でパワータイプのモンスターと対峙した経験は何度もあり、その度に上手く対応し続け……自身でもダメージを与えてきていた。
「そりゃ相手がモンスターだからな……一人で戦ってるわけじゃねぇっていうのもあるだろうけど……あんま気持ちが乗ってないかもな。んで、逆にヘレネの奴は……多分イブキにさっきのルドラの話を聞いてやる気が限界突破してそうだ」
「なるほど…………って、ちょっと待ちなさい」
「んだよ、デカパイ」
「あまり気持ちが乗っていないとは、どういうことですの」
フィリップが本気で勝利を摘まみ取ろうとするヘレネが迸らせる圧に戸惑っているかもしれないという話は、ひとまず解らなくもないという形で落ち着いた。
だが、イシュドの予想の中に含まれていた、試合に対してあまり気持ちが乗っていないという内容に関して……ミシェラは一瞬に複数の感情が溢れ、美しい顔がぐしゃっと歪んだ。
「ぶっ!!! だっはっは!!!!! おいおいデカパイ、おもろい顔になってんぞ!!」
一般的な学生たちであれば、品のない顔になってますよ……などと口にすることは出来ず、複数個ある感情の内の一つである怒りに気圧されてしまう。
しかし、そこで面白い顔になっていると堂々と口にし、爆笑するのがイシュド。
普段のミシェラであれば、まずは本当にそうなっていたとしても、乙女の顔を見て笑うなと言いたいところ。
なのだが……今のミシェラは、そんな事はどうでもよくなるぐらいに感情が集中してしまっている問題がある。
「イシュド……フィリップが、この試合に……いえ。この大会に対して気分が乗っていないというのは、どういうことですの」
「おいおいデカパイ、今度は怖ぇ顔になってんぞ。つか、どれもこれもあくまで俺の予想だっつーの」
「では、その予想を口にした責任を取りなさい」
聞くまで絶対に引き下がらない。
顔にそう書いてあるように見え、イシュドは大きなため息を零しながらも、あくまで自身の見解を語り始めた。




