第550話 明確になる、かも
SIDE イシュド、フレア
「ベスト八を決める試合になったからか、多少なりとも観れる試合になってきたな」
イシュドからすると、基本的に身内以外の試合はそこまで興味がない。
ガルフたちより一学年上の三年生たちに関しても、在籍している学園……フラベルト学園の現三年生などには興味がなく、ダスティンぐらいしか注目してない。
だが、二年生だけではなく一年生と三年生の試合も、強者だけが生き残り始め、ある程度見応えのある試合が増え始めた。
「…………」
「もう直ぐヘレネが戦う試合が始まるけど、それが不安で静かになってんのか?」
「っ……はい」
自分の護衛騎士候補が負ける姿は見たくない!!! なんてしょうもない思いは彼女の心にない。
ただ……それはそれとして、友人でもある人物が強者と全力で戦うのは……結果も含めてドキドキバクバク不安になる。
「まっ、おもろそうな試合にはなりそうだからね……んで、ヘレネが負けそうって心配してんのか」
「いえ、そういう訳では…………ただ、フィリップさんはこう……どこか、掴みどころがない印象が強くて」
「掴みどころがない、ねぇ」
解らなくはないといった表情を浮かべるイシュド。
そして、解る解ると頷く周囲の学生たち。
「そうですわね」
「おっ、デカパイ」
最後に、完全に体が癒えたので観客席に来たミシェラが同意する。
「良い戦いだったじゃねぇの。根性が身に染みててたじゃねぇか」
「他にも褒めるところが…………まぁ、いいですわ」
ミシェラとしては、他にも褒めるところがあると言えるほどの戦いだったと自負している。
なのだが……あのイシュドが、一つでも褒めるところがあった。
それだけでもこれまでと比べて、自分が前に進めていると確認できたため、良しとした。
「フィリップは昔から……今みたいになる前までも、多少なりともそういったところがありましたの」
「そうなのですか?」
「いや、俺の方を見んな。俺は高等部からのあいつしか知らんっての。んで、そうなんかお前ら」
「「「「「「「「「「っっ!!!!????」」」」」」」」」」
イシュドとしては本当に気軽に、適当に声を掛けただけである。
会話内容が会話内容であり、誰も失言などをしていないため、一切の怒気や殺意は籠っていない。
(か、返さないと、だよな?)
あまりにも絡みがなく、耳に入っている内容が恐ろしいものばかりということもあり、全員心臓がビクッと跳ね上がっていた、
「あ、あぁ。そうだな」
「そういえば、昔からあったような」
「今よりも素直で前向きな性格ではあったけど……そういう部分もあったわね」
と、全員昔の……七、八年ほど前の記憶を掘り起こした結果、ミシェラと同じ記憶が掘り起こされた。
「ほ~~~ん…………んじゃあデカパイ、お前はフィリップとヘレネ、どっちが勝つと思う」
「サラッと難しい事を訊きますわね」
イシュドの言葉によって、フレアだけではなく他の学生たちの視線もミシェラに集中する。
とはいえ、そんな状況は社交界の華である彼女にとってはいつもの事であり、慌てた様子をみせることなく、じっくり考え込み始めた。
「………………………………………六対四で、フィリップが僅かに有利ですわね」
「…………」
六対四。
その割合を聞き、フレアはおおよそ自分の予想と当たっており、安堵の息を零す。
「理由は?」
「先程までの話通り、あの男の掴みどころがない部分。そこが、対峙する相手にとって非常に厄介な点ですわ」
「実体験か」
「…………実体験ですわね」
イシュドには普段から模擬戦などでフィリップに負けている姿を見られているため、ミシェラとしては否定のしようがなく、素直に認めるしかなかった。
(っっ、なんとなく……解ってはいたが)
(ミシェラさんが、自ら認めた……)
約一年ほど前までは、大多数の学生たちにとって実力はミシェラの方が上で、フィリップの方が下だった。
しかし昨年の激闘祭で、ミシェラは準決勝でフィリップに負けた。
その時、同学年の学生たちに与えた衝撃は計り知れなかった。
それでも……まだ一回、偶々だと考えられなくもなかったが……その時期以降もフィリップはイシュドという怪物と付き合い続けている。
本来は二年生から受けられる、学園に届く学生たちへの依頼も特例でイシュドたちと共に受けており、時にはそのイシュドがいないパーティーメンツでも依頼を受け……達成している。
そして今……彼らの目の前で、フィリップの口からフィリップと対峙した時、ここが厄介だと明確に口にした。
彼女がイシュドと絡むようになってから、明らかに交流の機会が減った彼らにとって、それはある意味貴重な証言と言えた。
(この次の、試合結果で……本当に)
前回の激闘祭で、ミシェラはフィリップに負けた。
今回は組み合わせ順的に、結果的にぶつかり合うことはなかった。
だが、試合結果だけの格付けであれば、次に行われる試合で差が明確になる。
場合によっては、彼らにとってイシュドよりもフィリップの方が訳の解らない、不気味な存在と捉えられる。




