第546話 巡り合えるのか
SIDE イシュド、フレア
「良い戦いだったぜ、二人とも…………なぁ、女王様」
「えぇ……本当に、素晴らしい戦いでした」
護衛騎士候補であるルドラの戦いということもあり、完全に試合が終わった後……フレアは堪えきれず、涙を零した。
それは護衛騎士候補が負けたからか、それとも意識を失ったにもかかわらず起き上がり、勝利を掴み取ろうとしたからか…………それが解らない者は、彼らの周辺にはいなかった。
「にしてもまぁ、あれだ……女王様よ」
「な、なんでしょうか」
「ルドラは護衛騎士候補として……いや、既に護衛騎士と言っても良いか? 良い意味で、お前に忠誠を誓ってるよ」
「それは……どういうことでしょうか」
嬉しい内容ではあるが、どこからその話に繋がるか解らない。
「多分だぜ。俺も途中で集中して確認したからあれだけどルドラの奴、イブキの方に近づく中で、絶対にフレア様を守るって口にしてたぜ」
「えっ」
「多分、声には出てなかった。ただ口が動いてただけだが、形的に……多分、合ってると思うぜ」
訳解らない狂戦士のくせに、読唇術まで出来るのかよ!!!!! と、ツッコめる者はこの場にいなかった。
と言うより……そんな考えになる者が一人もおらず、別のことで頭が一杯だった。
「……っ、ルドラ………………私は、あなたの事を、誇りに、思います」
気を失ってでも、主人を守るために動く。
それがどれほど凄まじく、素晴らしい事なのか解らない者は、この場にいない。
多くの学生たちは、イシュドが語る通り現時点で既に護衛騎士と呼べると感じるほどルドラに忠誠心を抱かれているフレアを心の底から羨ましく感じた。
それと同時に、将来へのある期待と不安を抱えた。
騎士や魔術師たちは、基本的に騎士団や魔術師団へ就職していく。
ただ、親の意思や家の意向など関係なく、元から騎士や魔術師になりたいと思って生きてきた者たちは……心のどこかで、誰かに仕える騎士や魔術師なりたいという思いを持っていた。
民を守る騎士や魔術師になるのではなく、誰か一人を……主人と決めた人物を守る騎士や魔術師になる。
その選択に、良いも悪いもない。
(……あそこまで……守りたいと思えるほどの人に、巡り合えるのかな)
(いつか、とは思っているけど………………どうなんだろう)
期待と不安を同時に抱きはしたが、学生たちの多くは不安の割合の方が大きかった。
「そうしときな……心の底から忠誠を誓ってるってのは、誰でも言葉にすることは出来るだろうよ。んで、別に言葉にすんのが悪いってわけじゃねぇし……あのまんまぶっ倒れてたとしても、あんたに対する気持ちが嘘ってわけでもねぇ」
イシュドの視線は……リングに向けられていた。
ミシェラほどではないにしろ重症ではあったため、意識を失ったルドラは既に医務室へと運ばれていた。
(……本当に凄ぇよ、ルドラ)
イシュドの目には、先程まで意識を失いながらも立ち上がったルドラの姿が残り続けていた。
「その言葉を、覚悟を行動に表せられるのは、努力や気持ちどうこうで出来るものじゃねぇ……と、俺は思う」
「で、では……ルドラのあの行動は、奇跡、だと?」
「そうだな。ただ、偶然の奇跡じゃねぇ。必然的な奇跡、だろうな」
耳を傾けていた学生たちの中で、一部の者たちは理解出来ずに首を傾げるが、その他の学生たちは、変態狂戦士が何を言いたいのかなんとなく解る。
すると、彼らの目にはイシュドと同じく、先程まで無意識の状態で体を起こしたルドラの幻影が思い浮かんでいた。
(っ…………って、なんで狂戦士のこいつがそんな事解るんだ?)
(少し前から思ってたけど、なんか、この人おかしくない?)
(学生…………本当に、高等部の学生、なんだよな)
言ってることは、大体正しい。
正しいと解るのだが、なんでそんな事まで解るんだよとツッコみたくなるところが多々ある。
一部の学生は、顔は自分たちと同年だなと思いつつも、本当は自分たちより歳上なんじゃないかと思い始めた。
「良かったなぁ~~、フレア。護衛騎士候補ではあっけど、ヘレネと同じでほぼ決まってるようなもんなんだろ」
「は、はい。そうです」
「んじゃあ、今日の試合で興味を持っちまった連中でも、手は出せねぇだろうよ」
そもそもな話として、ルドラはフレアの護衛騎士候補……つまり、他国の王女の護衛騎士候補。
そんな人物をスカウトしようとすれば、最悪国際問題に発展しかねない。
ただ……今回、そこにもう一つの問題が追加された。
(いやしねぇだろうけど……もし近づこうとすりゃあ、あれこれ整えてぶっ潰さねぇとな)
それは、スカウト行為によってイシュドの怒りを買うという問題。
今回の試合で、改めてルドラの強さの源はフレアに対する忠誠心であることが解った。
それがある限り、ルドラはまだまだこれから強くなる。
そんなルドラから強さの源を奪うことなど言語道断。
ガルフやイブキ、ミシェラのようにいつか本気で……というのは同じ他国の護衛騎士だからという理由で難しそうではあるが、それでも本来得られたはずの強さを奪おうとするなど、変革の狂戦士が許すはずがなかった。




