第544話 最も熱さを伝える
SIDE イシュド、フレア
「おっほ~~~~~~!!! 良いね良いね、超良いね」
「っっっ……い、イシュドさん……今、イブキさんは……細剣の刃を」
「おぅ、そうだな。がっつり両手で止めたな」
イシュドはイブキの真剣白刃取りに興奮しており、フレアはまさかの止め方に驚きを隠せない。
(刃を両手で……旋風を纏ってるのは、両手に魔力を纏うことでなんとか出来るとは思いますが、それでもルドラは今回のトーナメントの為に考えた技を使ったはず……なのに)
どういった流れで真剣白刃取りまで至ったのか、フレアはある程度理解していた。
後衛職でありながら理解は出来たが、それはそれとして納得出来るかはまた別問題だった。
「納得いかねぇか?」
「……ひとまず、驚きは隠せません。ルドラは、あの一瞬で十以上の突きを放つ技を仕掛けようとしていたはずです」
「良く見えてんじゃねぇか。おそらくそうだろうな。イブキは小太刀の一刀流よりも素手で戦う方がまだ上手く戦えるってので投げたんだろうけど、ルドラの奴はあっさり躱しやがった。んで……イブキでも、あの連続突きを全部躱すのはムズいだろうな」
「っ、それではどうして、イブキさんは躱すのではなく、両手の平で受け止めることが出来たのですか!?」
フレアからすれば、受け止めるというのは避けるという行動よりも難易度が高いという印象が強い。
事実、パワータイプではない接近職たちはそのように考える。
しかし、パワータイプではあるがイシュドだが、ある程度把握していた。
「小太刀の投擲で仕掛けてくる範囲を想定。んで、後は最初にくる一突き目を見極めることだけに全神経を集中させる、ってところじゃねぇの? 多少は切れたみてぇだけど」
「っ…………それは、彼女が侍であることに、関係してるのでしょうか」
「あぁ~~~、どうなんだろうな。そこは…………あっ、もしかしたら関係してんのかもな」
「そ、それはどのような」
「まっ、それは後にしようぜ。もう……試合も佳境だ」
「っっ」
改めてリングに視線を向けると、そこには激しい拳撃戦が行われていた。
「っ、ふんッッッ!!!!」
「ぐっっっ!! ッ!! なん、のッッ!!!!!」
ルドラは細剣を真剣白刃取りされた瞬間、強烈な前蹴りを腹に叩き込まれたが、本能がそうくることを察ししており……咄嗟に腹に魔力を集中させていた。
それもあって大きく蹴り飛ばされ、結果として吐血までしたものの、内臓を大きく損傷して強制的にリタイア……とはならなかた。
その後、イブキは手に入れた細剣を即座に捨て、まだリングの上にある小太刀を拾おうとはせずに速攻で距離を詰め、拳を突き出した。
(良いね良いね……俺が教えたこと、良い感じに吸収してくれてんじゃねぇの)
イブキはイシュドと出会う前から太刀や小太刀だけではなく、徒手格闘の技術を身に着けていた。
しかし、それはあくまで大和的な動きが元となった格闘技術。
対してイシュドが教えたのはフットワークを軸とした打撃技術。
リングはそれなりに広く、逃げようと思えば逃げられてしまうため、そうはさせない足運びの技術も必要。
(二人とも……熱ぃ……クソ熱ぃじゃねぇの)
当然、その技術はイブキだけではなく、ルドラにも伝えられている。
習い始めたのはイブキの方が早いが、二人ともまだ習い始めて一年も経っていない。
となれば大きく力量差が付くことはない。
両者ジャブが接近を牽制し、フックが頭部を吹き飛ばさんと振るわれる。
ボディーが体をくの字に曲げようと迫り、勢いそのまま宙で身を捻る流れになるが、一撃で引導を渡すアッパーが振り上げられる。
「シッッッ!!!!」
「っっっっ、ぬぅうううんッッッ!!!!!」
「ぐっっっ!!!!」
イブキはアッパーを放った勢いそのまま身を捻り、上から蹴りを叩き込むも、ルドラは右腕でなんとか堪える。
そしてがら空きとなった腹に、ブロードジャブが叩き込まれた。
(っ、見破られてたか!)
ルドラの左拳は確かにイブキの腹に叩き込まれたが、そのまま腹を抉り潰すような感触が伝わってこず……代わりに硬質な魔力を感じとった。
(さすがに、隙が大き過ぎたか!!)
当たれば終わらせられると思った空中での回転蹴り。
防いだ腕をミシミシと言わせるダメージは与えたものの、咄嗟に予想した通りの攻撃が腹に炸裂。
先程イブキが叩き込んだ前蹴りほどではないが、それでも受けたダメージは決して安くない。
(まだ、まだだッッッッ!!!!!!!!)
(魔力が尽きたとしても、勝つのは、私だァアアアアアアアッッッ!!!!!)
二人の頭から、自身の手から離れた本来の得物を回収しようとする意思は、欠片もなかった。
今更必要ない。
回収する度に動けば鋭い拳が、旋風の蹴りが叩き込まれる。
本気で勝とうとするならば……策さえ練れば、本来の得物を回収した方が良いという意見もある。
しかし、観客とは単純なもの。
「「ぉおおおおああああああああああああーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」」
「「「「「「「「「「「「「ーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」
勝つために己の炎を極限まで燃やし、それを拳に込めて殴り合い、蹴りを、肘を叩き込もうとする。
己の身一つで戦うその姿は、観客たちに最も熱さを伝える試合内容と言えた。
だが……その真夏を越えるほどの熱さも、いずれは終わりが迎えにくる。




