第542話 緊迫からの解放
SIDE イブキ、ルドラ
(正直なところ、もう少し……攻め込めると思っていたのですが……やはり、模擬戦と本番は違うものですね)
今回の試合、イブキは普段使っている刀ではなく、小太刀の二刀流というスタイルでリングの上に上がった。
それは想定外の内容ではあったが、それでもルドラはこれまで双剣使いの相手にも勝利を収めてきていたこともあり、相手の方が手数が多くとも戦りようはあると考えていた。
しかし、見当たらない。
隠していた技を使って圧を与えても、放つ風突や風斬波を全て対応されてしまう。
(……試合と、思ってはならなさそうですね)
だからといって、負けて良い理由にはならない。
自国ではなく、留学先での戦い。
ルドラの目的はフレアの身の安全を守ることではあるが……それはそれとして、フレアなの護衛騎士候補として、情けない姿を見せるわけにはいかない。
(並ではない……イシュドが認めた学生の一人……それは解ってたはずだったのだけど…………それでも、認識が甘かった)
普段の刀とは違い、小太刀の二刀流というスタイルで攻めれば、手数の多さで戦況を有利に進めることが出来ると考えていた。
それは小細工ではなく、付け焼き刃の戦闘スタイルでもない。
だからこそ、ルドラという実力者を抑えることが出来ている。
そう……抑えられてはいるが、それ以上攻め込むことはできていない。
理由は至極単純。
ダメージを与えようと更に踏み込めば、手痛いカウンターを受ける可能性が高いと、これまでの経験から本能が叫んでいた。
(このままでは、ただ時間だけが過ぎていくだけ…………っ、情けない……それでも、侍かッ!!)
元々、誇りを持っていた。
武家に生まれたことに……自身が進む道に、誇りを持っていたイブキ。
ただ、異国の土地に来てから、その気持ちは更に大きくなった。
侍に、強い関心を持つ同学年の男がいる。
彼自身も非常に強い……狂戦士である彼は、性格次第では狂戦士以外の職業を見下していてもおかしくないほど強い。
それでも……別大陸にいる存在に、侍という職業にではなく、侍という存在に強い興味と敬意を持っている。
「「………………」」
護衛対象守る存在として。
誇り高き侍として、両者の覚悟はほぼ同時に決まった。
トーナメントというのは、基本的に一日の間に複数回戦わなければならない。
この戦いを勝ち抜いたとして、優勝するためには後二つほど山場を越えなければならない。
その為には体力をどれだけ残せておけるか……余力の残し方が重要である。
その考え自体は間違っておらず、寧ろ全面的に正しい。
正しいのだが、その正しさを持ち続けて勝てるほど……今回のトーナメントは甘くない。
「「ーーーーーーッッ!!!!」」
駆けだしたのは、ほぼ同時であった。
先に空を切ったのはルドラの細剣であり、風突ガトリング砲が繰り出された。
それをイブキは最小限の動きで躱そうとする。
結果的に頬が薄皮一つ切れて血が流れるも、構わず接近。
容赦なく振るわれる鋭い斬撃がルドラに迫るが、一太刀目を交わすと同時に細剣を振り、二太刀目を牽制。
「ッ!! せやッッッ!!!!」
「ぐっ!! ッ、ハッッ!!!!!!」
静寂が完全に破られてから数十分。
行われている戦闘内容自体は先ほどまでとさほど変わらない。
変わらないように思われるが……あっという間に二人の体は切傷だらけになった。
「「「「「「「「「「「「ーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」」」」」」」」」
静寂から一転して激闘へ。
多少の傷を負うことなど構わない超接戦が行われ、緊迫した空気に押し黙っていた観客たちの熱が一気に開放された。
有無を言わせぬ二人の緊張感故に、野次などが飛び交うことはなかったが、それと同時にあまりの緊張感と重苦しさに熱を放出し続けられなくなっていた。
そこからの解放ということもあってか、会場は今日一番の雄叫びを揺れが起こる。
「っっっーーーーー……」
「おい、目を離すなよ王女様」
「えぇ……勿論です」
イブキ、ルドラ……両者、覚悟を決めたからこその戦いが今、始まった。
(時期というのは、この事を言ってたのですね)
彼女は、フレアは魔術師である。
接近戦タイプではないが、今目の前で行われている試合と先ほどまでの試合……何が違うか、それは理解出来ていた。
先を見ていない。
ただ目の前の相手に勝つために、敬意を表して多少の傷などクソ喰らえだと、そんな傷など百も承知で更に一歩踏み出す戦い。
(っ、ルドラ……あなたの勝利を、心の底から願っています!!!)
フレアは護衛候補の……友人の勝利を願い、胸の前で両手を重ね合わせる。
だが、願うあまり目を閉じることはない。
イシュドという変態狂戦士に言われたから、ではない。
願う以上……必ず、ルドラの勝利をその眼に焼き付ける為だった。
「っ、ッ!!! っ!!?? ふんッッッ!!!!」
「っ!!!???」
まだ、終わってはいない。
それでも……賭けに出たルドラが、一歩勝利へと手を伸ばし始めた。




