第541話 静寂
(面白くなってきやがったじゃねぇの)
ルドラが、普段の練習では見せていなかった手札を切った。
風突のガトリング砲。
初手で当てることは出来なかったことを考えると、切り損だと思われるかもしれない。
だが、イシュドの考えは違った。
「緊張感は良いんだが……ちと進まなさそうだな」
「進まない、ですか?」
「あぁ、そうだ。あの風突の連射は良かった。対応はされたが、間違いなくイブキの足を止めた。それだけでもあの技を切った甲斐があるってもんだ」
手札を見せることで、相手の動きを縛る。
風突ガトリング砲は構えだけを視ると、接近戦での連続突きが繰り出されるのか、それとも渾身の一突きが放たれるのか。
もしくは、風突ガトリング砲が放たれるのか。
構え一つで、その三つの攻撃方法を警戒しなければならなくなる。
イブキが次の行動にブレーキが掛かれば、逆に攻めることが可能。
「ただ、イブキは攻撃を捌くのが上手い。デカパイの奴も負けてねぇが、捌く技術はイブキの方が上だ」
「それは……やはり、侍だからでしょうか」
「ん~~~~~~~~……………………まっ、一つの理由ではあるかもな」
そこに関しては、イシュドも明確な理由が解っていない。
イブキの強さに繋がり、もしかしたら弱点を晒すことになるかもしれないため、自分の予想を語らなかった。
「……武道、だったでしょうか。そもそも私たちと比べて戦いに対する考え方? が違っていた様な……………………ダメですね。やはり私では、これといった内容が思いつきません」
「別に良いんじゃねぇの。答えに辿り着かなかったとしても、後衛職は……魔術師は考えてなんぼの職業だろ。それが出来なきゃ話になんねぇってもんだ」
「「「「「「…………」」」」」」
イシュドとフレアの周りには多くの学生がおり、当然その中には魔術師を目指す者たちもいる。
彼らからすれば、変態狂戦士のお前に言われたくないとツッコみたい。
普段彼と関わりのない学生たちからすれば、イシュドは実力こそ自分たちよりはるかに上の存在で、教師たちより上かもしれない……だが、野蛮である。
野蛮であり、テストの点数こそ取れてはいるが、知的な部分はないと勝手に思っていた。
しかし……今日、目の前で試合に関するあれこれをフレアと共に話し合っている。
なんなら、イシュドがフレアに対して説明している事の方が多い。
なんなら、彼らもイシュドの説明を聞いて何度もなるほど~~~~、と頷いていた。
(きょ、狂戦士じゃねぇのかよ)
(こ、この人がおかしいの? それともレグラ家がおかしいの???)
(なんで狂戦士の癖にそこまで後衛職視点で考えられるんだよ!! どういう頭のつくりしてんだ!!??)
どれだけ頭を振り絞っても言い返せる言葉が浮かぶわけもなく、彼らは黙って変態狂戦士の話を聞くしかなかった。
「……っ、捌く技術が高いとなると、やはりルドラの方が不利になりそうですね」
「攻撃が当たらねぇ時間は続くだろうな。だが、ルドラの読み具合を考えると、やっぱ解らねぇと思うぞ。ほら」
「っ…………すぅーーーー、はぁーーーーーー……」
視線の先で、自分を守れる騎士になるため邁進している騎士が戦っている。
目を背けてはならない。
イシュドに尋ね、学ぶのは問題ない。
ただ……護衛騎士候補の彼の勝利を願うことを止めてはならなかった。
(……息が、詰まる)
既にルドラとの試合が始まって数分が経過。
イブキはルドラの風突を対応し続け、ルドラもイブキの風斬波をなんとか読み続けていた。
イシュドと同じスタイルでイブキの動きを読んでいるルドラではあるが、決してどれも余裕の回避ではない。
(風を纏える私の方が速いはずなのだが……これが、武道……侍っ)
これまでの試合……特にガルフとミシェラの戦いと比べれば、戦いのペースが遅いと感じる。
だが、二人の表情は真剣そのもの。
これまでリングの上で心を燃やし、己の全てをぶつけんと吼えてきた生徒たちが本当の意味で真剣ではなかった、という意味ではない。
ただ……これまでのどの戦いよりも空気が張り詰めている。
動きが少ない試合というのは、観客たちからすれば退屈に思えてしまうものであり、貴族の学生たちが参加する試合であっても……その退屈さに怒号が飛ぶことは珍しくない。
しかし……飛ばない。
寧ろ時間が過ぎるごとに観客たちの口数は少なくなっていき、二人への歓声すら薄れていく。
(……こういった試合の場合、どうなるのかは知らねぇけど、野次を飛ばす奴が一人もいねぇ…………へっ。マジで知らんけどよ……良い空気をつくってんじゃねぇか、二人とも)
戦闘に関わっているもの。
一定レベル以上の者たちや、戦闘職ではない者でも目の肥えている玄人たちであれば、硬直の裏で殺し合う二人の幻影が見える。
そのはずが、今はさほど目が肥えていない感覚たちにも、二人の小さな動きから飛び出す殺気に、攻撃を感じ取れる。
(さてさて……こうなると、どっちが先に動いて……どっちの方が先に決まるのか。それ次第で、勝負は決まりそうだな)
イシュドの好みとしては、イシュドとミシェラの試合の様な最初から最後までバチバチに戦り合い続ける試合が好みではある。
だがしかし……いつ、どのタイミングへと決着へと近づくカウントダウンが始まるのか解らない戦いというのも、また味なものであった。




