第537話 次は……
SIDE ミシェラ
「うっ…………っ!!!???」
「もう起きたのね」
「ここは……っっ……」
目が覚めたミシェラ。
治癒師のお姉さんによって傷は既に完治している。
しかし、まだガルフによって打ち込まれた痛みは残っていた。
「あまり無理しないようにね。おそらく、彼の攻撃は傷自体が治っても、痛みが引かないタイプだから」
「……そう、みたいですね」
ガルフとのガチバトルは、今回が初。
そのため、ミシェラとしてはガルフの本気の攻撃を受けるのも、当然初めてである。
「聞いた話ではあるけど、とても高評価らしいわよ。今大会の中では三年生たちの試合を除いて、今回の試合が一番だって」
「それでも、負けは負けですわ」
治癒師の慰めを即座に切り捨てるミシェラ。
やれやれといった表情を浮かべるお姉さんだが、暴れ出さないだけまだ良いと思えてしまう。
中には自身が試合に負けたという現状を受けいられられず、医務室で暴れ出す者もいる。
ただ……本当に暴れた場合、レグラ家に仕えるリベヌと似たような実力を持つお姉さんに取り押さえられてしまう。
「それに、今大会での一番はこれから更新されていくかと」
「……随分と謙虚なのね」
「…………悔しさは、ありますわ。けれど……途中から、ようやくガルフは私のことを倒す気に、潰す気になりましたの……本当の意味で彼の本気を引き出せたのであれば、多少の悔いは晴れます」
「ふ~~~ん? かなり高くガルフ君のことを評価してるのね。まぁ、闘気を使える同級生なら当たり前かしら」
「まだ彼の事を見下している学生がいれば、それはただのバカですわ。もしくは……本当の意味で、本気で騎士になる気がない者たちですわ」
やはりと言うべきか、ミシェラはミシェラであの変態狂戦士と共に行動する時間が長く、やや思考力が似てきているところがあった。
「ガルフは……優しいんですの」
「……なるほどね」
治癒師のお姉さんとしては、激闘際の試合という基本的には出場者たちにとって自分の学生人生を懸けて戦う試合で、それをアップに使ってしまう者が優しいのかと疑問に思ってしまう。
ただ、身内には優しく、そうではない者には厳しい……もしくは興味がないという知人がいるため、ミシェラが嘘を言っているとは思わなかった。
(闘気の消費を抑えようとしていたのでしょうね…………ふふ、だからってあのような真似を……誰に似たのやら)
今後の試合を考えれば、なるべく闘気の消費を抑えたいというガルフの考えは解っていた。
しかし、それを実行するために刃を体で止めてしまうという発想は思いつかなかった。
「そして、私もまだまだ甘かった……見下してはいませんけれど、彼の覚悟を侮ってましたわ」
「風刃は腕に敢えて突き刺させて止めたんだったわね。そういう発想は、あなたたちと仲良くしているバーサーカーさんの知恵かしら?」
「………………??? どう、でしょうか」
誰に似たのやらとは思ったものの、実際にイシュドがガルフにそのような戦法を教えていたかと言われると……記憶になかった。
「あら、そうじゃないの?」
「……そういった戦い方を教えてる姿は、見たことがありませんわ」
「そうなのね。それじゃあ……ガルフ君が、ミシェラさんにどう勝つか……振り絞って考えた行動ってことね」
「……そうなのかも、しれませんわね」
それはそれで嬉しい事だった。
負けはしたが、悪くない戦いだった……そう思った瞬間、最後の最後に起こったやり取りを思い出す。
「って、ガルフ……なんで、私の最後の行動が読めましたのよ」
「どういうやり取りをしたの?」
ミシェラから細かく聞いた治癒師は……ガルフの行動ではなく、ミシェラの行動にドン引きしていた。
「はぁ~~~~~~。それで、まずリングに上がる前に私が止めてもおかしくなかったわ」
「うっ」
ミシェラとしても無茶をした自覚はあるため、お姉さんの言葉に反論することは出来ない。
「けど、そうね。確かに、ミシェラさんの作戦、動き方は良かったと思うわ」
「……あの動きに関しては、私も良かったと思えましたの。なのにガルフは……まるでそうなることが解ってたような動きでカウンターを合わせてきましたの」
「………………それじゃあ、答えは一つね。ガルフ君が、ミシェラさんならこうするって信じてたのよ」
「私を、信じてた、ですの?」
「そうよ。まともに立てないからって風の力で無理やり復帰するような……それこそ、狂戦士的な執念が宿った復帰をしてきたんだから、馬鹿正直に真正面から攻めてくることはないって思えたんじゃないかしら」
「うっっ……」
これまた否定できないことを言われ、言葉が詰まるミシェラ。
イシュドと似ている行動をしてしまった。
それに関しては色々と思うところがあるが……そういった意味で読まれたのであれば、それもまた悪い気はしなかった。
ただ、反省点がない試合ではなかった。
「……ふぅーーーーー。ひとまず、次にガルフとこういった舞台で戦うことがあれば、認識を変えなければなりませんわ」
「どういった風にかしら?」
「体のどこかを突き刺したぐらいでは勝てない。四肢の一つを切り落としたとしても、油断はしないと」
立派な……立派な覚悟ではあるが、学生たちの治療を務めるお姉さんとしては、ほどほどにしてほしいものだった。




