第535話 片隅に置いていれば
「そこまで!!! 勝者、ガルフ!!!!!!!!!」
ミシェラの気合、策を全て読み切ったガルフの振り向き鉄槌が脇腹にぶち込まれたことで、肋骨がバキボキに砕かれ、二度目の壁衝突。
再度吐血しながらも、ミシェラはまだ……まだこれからだと立ち上がろうとしたが、カウント六のところで魔力の消費による疲労と積み重なり、意識を失った。
フラベルト学園の学生同士の対決は、ガルフの勝利によって終了。
その後、一部の生徒は最後の方の流れに引いていたが、直ぐにイシュドとフレアが両者に向けて拍手を行い、波紋のように広がり……無事、終了した。
SIDE イシュド、フレア
「凄まじい戦い、でしたね」
「だな……二人とも、良い戦いしてくれたぜ、マジでよ」
「……私としては、途中のガルフさんの受け止め方が印象に残りました」
終了後、当然観客たちは先ほどの話題で盛り上がっていた。
「あぁ~~、あれね。ありゃ良かった……肉を切らせて骨を断つってな。まっ、あの感じだとガルフが骨を切られてデカパイが肉を潰されたって感じだけどな」
実際のところ、ガルフは肉だけではなく骨が一部切り裂かれており、普通であれば……並ではない痛みでのたうち回る。
だが、そこは激しいバトル中ということもあり、アドレナリンパワーでなんとかある程度抑えられていた。
「イシュドなりに考えての行動だったんだろうな」
「……闘気の消費を渋っていましたね」
「闘気は体力を消耗するみてぇだからな。傷と消費した魔力はどうにでもなるが、体力はどうしようもねぇ。そういう意味だと……トーナメントって部隊じゃあ、闘気は切り札と同時に諸刃の剣になってるな」
「諸刃の剣…………だからこそ、ガルフさんは大きな傷を負ってでも、ミシェラのさんの動きを止めるという選択を選んだと」
「おそらくな。効果は見ての通り、形勢を逆転させた。闘気を使い続ければ上手く躱され流され続ける可能性があったのを考えりゃあ、ダメージはあれど最適解だったかもな」
ミシェラの性格上、それはしない!! と考えられなくもないが、闘気という力がどれほどの者か……少なくとも、去年大会を観にきていた者たちは良く知っていた。
上へ登る為にプライドを捨てるか、それとも捨てても構わないプライドを捨てず、敢えて挑むか……どちらを選んでも、彼女らしいと言える。
「まさかの選択に驚いてしまった……勝負の分け目はそこだったでしょうか」
「そうだな。斬撃が蹴りかっていう選択肢の迷いもあるだろうが、ガルフが受け止めてからの行動を先に決めてたんなら、驚かなくても決まって可能性はあるだろうな」
「では、受け止められた時点でミシェラさんが致命打を食らうことは決まっていたと」
「いいや、そうとは限らねぇ」
「「「「「「っ!!!???」」」」」」
多くの学生たちは、ガルフが自身の身を犠牲にした防御を行った瞬間に決着への道が始まったと思っていたため、周囲の学生たちは一斉に耳をイシュドとフレアの会話に向ける。
「あそこでデカパイの頭の中に、ガルフが何かしらの手段を用いて自分の攻撃を止めるかもしれないって考えを片隅に留めていりゃあ、まだ勝負は解らなかったはずだ」
「なるほど…………しかし、貫かれても止められる、というのを見せられると……」
「あぁ~~~~~……普通の人間からすりゃあ、そうなんかもな……そうだなぁ……そういう部分を話をすんなら、あれだな。途中までは、デカパイの方が気力や精神面ではガルフを上回ってた……それは間違いねぇ」
解説に関しては当事者にしか解らない部分はあるため、イシュドも断言することは多くないが、ここに関してはキッパリと断言した。
「ミシェラの奴は、ガルフを殺す気で挑んでた」
「っ、やはり……そうだったのですね」
フレアもイシュドと何度か共に討伐依頼を受ける中で、殺意を持った者と持たない者の差というのが、なんとなく把握できるようになっていた。
だが、イシュドの言葉を聞くまで、まさかと思い、受け入れられなかった。
「殺してでも勝つのと、憎いから殺すってのはまた違ぇぞ」
「っ……顔に出ていたでしょうか」
「もろに出てたな」
「………………違いは、相手に経緯があるか否か、でしょうか」
「そこは解ってんだな。まぁ、人によって解らねぇ奴は説明しても解らねぇだろうが……殺気を持ち、零して戦うのと本気で相手を殺すのは違ぇんだよ……実戦と、身内同士でのマジな戦いを繰り返いてりゃあ、気付けんのかもな」
けらけらと笑うイシュドに、学生たちは己のこれまでを振り返る。
多くの学生たちは思う……これまで、手を抜いたことはなかったと。
真面目にやってこなかった訳ではないと。
だが、実際問題として、彼ら彼女たちの手を抜かない真面目な努力と実戦では……ミシェラたちや平民のガルフには背中にすら手が届かなかった。
「見てる先が同じでも、この一戦にぶつける思いが違った。だからこそ、デカパイが勝つって未来は全然あったんだよ…………ただ、ガルフの野郎が途中で理解しちまったんだろうな」
「……ミシェラさんの方が、この一戦に懸ける思いを、出し切ろうとする力を、ですね」
「そうだ。その差を恥じたのかどうかまでは知らねぇけど、それでスイッチが入ったんだろうよ。目の前の強者に勝つために余裕を残して勝てないってな……んでスイッチが入った瞬間、イシュドの覚悟がデカパイの本気を上回った」
イシュドが語る内容に、ミシェラを推す、憧れる学生たちは、何も言えなかった。
何故なら……珍しく言葉には出来ないが反論の気持ちが残るということはなく、綺麗に納得してしまったからであった。




