第534話 誰よりも、信じている
(惜しい……惜しいなら、こうすれば良いッッッ!!!!!)
ガルフは自身の気持ちを、考えを恥じた。
目の前の強敵、ミシェラは文字通り全力で……本気で自分を倒そうと動き、風刃や風脚を振るっている。
ガルフの闘気の消耗を……せめて、無駄遣いを抑えたいという考え自体は正しい。
リングで負った傷は降りれば回復してもらえる。
消費した魔力もポーションを飲んで元通りになるが、体力まではどうにもならない。
まだまだ強敵と戦わなければならないことを考えれば、寧ろそういった考えにならない方がおかしい。
おかしいのだが……それでこの戦いに負けてしまっては、元も子もない。
だからこそ、ガルフは体力ではなく、己の体を削ることを選んだ。
「なっ!!??」
突き迫るミシェラの風刃に対し、ガルフは左腕を犠牲にした。
魔力は纏われているものの、ミシェラの風突はそれだけでは守れず、当然ガルフの左腕は貫かれてしまった。
だが、それがガルフの目的だった。
(う、動かないっ!!!)
貫かれた瞬間、体を駆け走る痛みに堪え、力を籠める。
するとあら不思議……左腕を貫いたはずの風刃が引き抜けなくなってしまった。
「ーーーーーーーーっっっ!!!!!!??????」
抜けなくなった……それがあれば、後は終わりだった。
今度はミシェラの体に強烈な轟脚が叩き込まれた。
「っ!!!!!!!???????」
次の瞬間、先程のガルフと同じく、全身を走るような痛みが背中を襲い、地面に倒れる。
「がはっ!!!!」
「一……二……」
吐血とカウントが同時に行われ、着々とミシェラの背後に敗北が迫る。
「はぁ、はぁ……っ」
リングの上に立つガルフに疲れがにじみ出ており、貫かれた左腕からは血が滴り流れる。
(……こういう、時って……下手に、抜かない方が良いん、だっけ)
教えられたおぼろげな内容を思い出し、ガルフは敢えて今も左腕を貫いたままの双剣を引き抜かない。
(必要なら……今度は、右腕でも構わない)
カウントダウンが続く中、ガルフの覚悟は更に固まりつつあった。
リングの外で苦しむミシェラは、続行可能だとは思えないほどの吐血を零していた。
まず、ガルフの闘気を纏った全力の前蹴り。
防御力のステータスは低いミシェラにとって、腹に風を集中させていたとしてもダメージは免れないほどの重さと威力を秘めた一撃。
全力に旋風を纏いはしていたが、集中させるのは一瞬遅れてしまい、腹部を槍が抜き抜け……それでいて重さが残るダメージを食らった。
(ぐっ、っ!!!??? はぁ、はぁ、まだ……片方は、私の、手にある)
「五……六……七」
(っっ!!! 動きなさい、動きなさい!!!!! 私の体っっ!!!!!!)
ガルフの轟脚による蹴りが致命打となったが、更に壁の衝突……これもミシェラが簡単にリングへ戻れない要因の一つとなっていた。
高等部の衝撃によって軽くではあるが脳が揺れている。
本来であれば小さな揺れであり、一応即座に立ち上がることは出来る。
だが、立ち上がれないほどの重傷を食らい、その追撃に揺れというダブルパンチを食らってしまい、平衡感覚が直ぐに戻らない。
「八……九」
(っ、そうよ!!!!!!!)
何かを思いついたミシェラは思いつくかもわからない賭けをその場で結構。
残っている魔力を消費して無理やり自身を浮かせ……無理やり、リングへと舞い戻った。
「はぁ、はぁ……これで、まだ……戦れますわ」
残った風をギプス代わりにし、なんとか両の脚でリングに立つミシェラ。
その姿に、観客たちからは、小さな悲鳴が零れる。
ミシェラが轟脚を食らって壁に叩きつけられ、大量の血を吐いた時には大きな悲鳴が零れたが、今度はどれも小さかった。
もう十分だと、これ以上はと……称賛と、もし戦い続けた場合のみ起こる悲劇に対する言葉が零れる。
「どうしましたの、ガルフ。私は……まだ、戦れます、わ」
「えぇ…………そうですね……では」
駆け出すガルフの姿に、悲鳴が起きる。
結果は、火を見るよりも明らかである……が、会場の優れた戦闘者たちは、まだ確実に勝負が……死合いが終わっていないことに気付いていた。
「ーーーーーーッッッ!!!!!!」
(今ッッ!!!!!)
振り下ろされるガルフの斬撃を冷静に把握。
ミシェラは体の各場所に溜めていた風ジェットを発動し、無理やりガルフの斬撃を回避し、背後に回った。
彼女の刃には……まだ、旋風が纏われていた。
思った。
観客たちは、ミシェラのファンたちは……ここからの逆転があるのかと期待を高まらせ、ミシェラへの声援を爆発させる。
体を捻り、双剣を逆手に持った付きだが、位置はジャスト……そのまま貫けば肺をぶち抜く。
形勢逆転が十分にあり得るクリティカルスティング。
「ーーーーーーーーっっっ!!!!!!??????」
だが、彼女がただ根性と精神力を振り絞っただけではないと誰よりも信じていた男が瞬時に身を捻り、左拳による鉄槌を脇腹に叩き込み……再度、壁端まで吹き飛ばした。




