第531話 肥えている
SIDE イシュド、フレア
「イシュドさん、これは……」
フレアの目の前で行われている試合内容は、少し前までイシュドが語っていた内容とは真逆のものだった。
闘気という力を有するガルフが主導権を握り、彼が有利な戦況が続く。
ただ、ガルフとて完璧な剣士ではなく、戦い方や隙……諸々のタイミングを見逃さなければ、ミシェラにも勝機は十分ある。
といった内容が、イシュドが語っていた内容だった。
しかし、今現在リングの上で行われている激闘では……明らかに、ミシェラの方が主導権を握っていた。
勿論、ミシェラにとって余裕など欠片もない激闘であることに変わりはない。
審判が自身の勝利宣言を告げるまで、緊張の糸を張り続けなければならない。
それでも……序盤、試合の主導権を握ったのは間違いなくミシェラであった。
「ふっ、はっはっは!!!!!! おいおい、クソやるじゃねぇのデカパイ……良いねぇ~~~。勝つためなら、プライドなんてクソ喰らえってか? 良いぜ良いぜ……やれるなら、そのままやってみろ」
「………………」
「ん? どうしたよ、王女様」
「その……あまりがっかりされてないと言いますか」
先程までイシュドが語っていた展開とは、真逆の展開となっていた。
その流れに、フレアであれば間違いなく恥ずかしさを覚える。
それはもう、両手で顔を覆い隠し、試合など見れないほど縮こまってしまう。
だが、イシュドからはそういった様子が欠片も感じられない。
「そりゃそうだろう。予想なんてあくまで予想だ。俺は別に未来視が出来るわけじゃないんだ」
「それは……そう、ですね」
「つっても、イシュドの方が有利で主導権を握るだろうって予想してたのは本気だ……だからこそ、デカパイの奴がその予想を裏切ってくれたとなりゃあ、そりゃ嬉しいつーか盛り上がるもんだろ」
「な、なる、ほど?」
解るような解らないような感覚のフレア。
そして、周囲のフラベルト学園の学生たちは、あのイシュドが普段から共に行動することは多いものの、仲は決して良くないミシェラを褒めていることに小さくない衝撃を受けていた。
「あの動き、俺らとの訓練ではしてなかった……いや、部分部分ではやってたか? とりあえずあそこまでの繋ぎは見せてなかったってことは、他の時間で積み重ねてきたんだろうな」
「…………そういえば、先程ミシェラさんがプライドを…………捨てて戦っているようなことをおっしゃっていましたが、そうなのですか?」
「勘だ勘。いちいち真に受けるな。ただ、俺にはそう見えるってだけの話だ」
やはり、どう考えても他国とはいえ王女に向ける言葉遣いではない。
とはいえ……周囲の学生たちも、フレアの気持ちに賛同してしまう。
あのイシュドがそう言ってるのだから、おそらくそうなのだろうと……彼の全学生を圧倒する実力が、本人の考えを無視して説得力を持たせてしまっている。
「デカパイは騎士になろうとしてんだろ。それなら、勝てるながっつり斬り合って勝ちたいもんだろ。そっちの方が形だけのアピールとしては良いだろうからな」
「試合という場で立ち会った結果、ミシェラさんは……不用意に接近戦を続けるのは無理と判断したと」
「パワーに関しちゃあ、闘気とか抜きにしてガルフの奴が上回ってるからな……闘気の攻撃を受けりゃあ、ガードが意味をなさなくなるだろうよ」
「「「「「…………」」」」」
イシュドの解説に、何人かの生徒はドン引きしていた。
ミシェラは……ガルフほど露骨ではなかったが、選抜戦では敢えてスピードを武器に戦わず、何度かパワー勝負を仕掛けていた。
結果……技術を織り交ぜることはあったが、何度も相手の土俵で勝利を収めていた。
決してスピード、切れ味だけの双剣士ではないミシェラ。
それを身に染みて知っているからこそ、そのミシェラの防御を無視するガルフの力に、もはや嫉妬する気すら起きない。
「ただ、ミシェラはミシェラでこの形になるまで、上手いことガルフがここぞという場面で闘気を使う瞬間を見抜いて対処してやがった……まだ、眼も技術もミシェラの方が肥えてるってこったな」
「……二人が出会ってからの、知ってからの月日は変わらないと思いますが」
「ミシェラに関しちゃあ、実家の騎士とか他の家の騎士志望の連中とかとなんでも戦り合ってるから、ロングソードの対処が慣れてんだろうな。全く対峙したことがない剣術とかならともかく、ガルフはパワーはあるが、それでも何かしら飛び抜けた部分がある剣技を持ってるわけじゃねぇ」
「つまり、これまで対峙してきたロングソード使いたちとの経験が生きているため、軌道や……機会を得るための動きを把握しやすいと」
「闘気みてぇなものじゃなくても、ミシェラを倒すために切り札の一つや二つ備えてから挑んだ連中だっているだろうからな……まっ、あいつのザ・お嬢様な態度を見る限り、全部ぶった斬ってきたんだろうけどな」
脳裏に思い浮かぶ光景に、イシュドはからかうような笑みを零してしまう。
周囲にはまさにイシュドが口にした令息たちがおり、何名かが応援を止めてうずくまっていた。
「…………このまま決着、となるのでしょうか」
「さぁな……ただ、この状況がどれだけ長引くかによっちゃあ、それが決着へのルートに繋がるかもな」
親友が不利な状況に立たされている。
そんな戦況を前にしても、イシュドは変わらず笑っている。
実はガルフのことを内心小バカにしていた、なんてことはない。
ただ、ここで敗北を知るというのも、親友の為になる。
本当にガルフという強敵をミシェラが乗り越えれば……彼女の刃が自身をぶった斬ろうとする刃に近づいている証明にもなるため、どういった結果に転ぼうと、イシュドにとっては美味しいものだった。




