第529話 違う
SIDE ガルフ、ミシェラ
「「…………」」
三回戦……注目の試合に、始まる前から観客たちは大きな盛り上がりを見せていた。
ミシェラは同級生や後輩の女子たち、他学園の女子生徒も彼女に声援を送っていた。
彼女の美しく気高い容姿も相まって、当然男性人気も高い。
だがガルフも人気なら負けておらず、冒険者たちから野太い声援が送られ……男女関係なく、平民からの声援は非常に熱いものがある。
そんな開始前から盛り上がりを見せるガルフ対、ミシェラ。
当の二人は……自分たちに向けられる歓声に応える素振りなどは一切せず、ただ……これから始まる戦いに集中していた。
(……去年までと違い、風格すら感じますわね)
普段から顔を合わせ、共に食事を食べて語らい……刃を重ね合わせている存在。
普段は本当の意味で優しい雰囲気を持つ物腰の低い好青年。
訓練場で刃をぶつけ合う時も、学生……自分と同じ年の男の子、と感じることの方が多い。
ただ……今、リングの上で相対する彼が纏う雰囲気は、普段のそれとは全く違っていた。
去年は惜しくもベスト八で敗れてしまったが、それでも闘気を会得したのが試合中でなければ、優勝していたのではないかと言われている。
そんな本物であったダークホースが、今は立派な優勝候補へと成長。
(けれど、関係ありませんわ。合法的に、あの男をぶった斬れるチャンス……それを邪魔するのであれば、容赦なくぶった斬るのみですわ)
これがあくまで試合なのは当然理解している。
イシュドほど、あからさまに零して良い存在でないのは解っている。
それでも……頭の中に、心に躊躇が残っていて勝てるほど甘い相手出ない事の方が、よっぽど身に染みていた。
(やっぱり……いつもとは、違う)
ガルフの眼には、耳には……意識には、既にミシェラしか映っていなかった。
普段のミシェラはイシュドに対してこそぷりぷりぷんすかしているところはあるが、イシュドが絡まないと……少なくとも、ガルフにとっては同じ歳だがお姉さん味がある人物だと思っている。
そんな事を聞くと彼女は否定しそうではあるが、彼女が二つ上の先輩であったクリスティールに憧れていたように、ミシェラも一つ下の後輩であるセレイスに憧れている。
なんとなく自分にも憧れる者がいるのだなといった程度の認識ではなく、これまで何度も交流しており、世話を焼いたこともある。
そういった彼女の積み重ねがあるからこそ、この世界に関して知らないことが多いガルフにとって、より広く……深く知っているミシェラは、姉の様な感覚があった。
だが、今自分の目の前に立っている女性は……そんな普段の彼女とは違う。
(慢心は、余裕は捨てるんだ。僕と、ミシェラさんとでは、積み重ねてきた時間が違うんだから)
イシュドが聞けば、質も関係あるぜと口にするだろう。
加えて、ガルフも決して少なくない時間を積み重ねてきたからこそ、フラベルト学園に入学することが出来た。
それでも……ミシェラやアドレアス、イブキたちと刃を重ね合わせる際、ときおり物理的な重さとは違う重圧を感じることがある。
同じことが出来るか、同じ一撃を出せるかと問われれば、ガルフは本能的に首を横に振る。
そして、ガルフにはミシェラを尊敬している点があった。
それは……イシュドを、本気でぶった斬ろうとしている点。
ガルフの目標は、あくまでイシュドという親友の隣に並び立ち、彼が背中を預けられる人間になること。
しかし、ミシェラは変革の狂戦士であるイシュドを、文字通りぶった斬ることを目標としている。
つまり、彼女はあのイシュドに勝とうとしているのだ。
親友という立場であるガルフではあるが、それでもあのイシュドに本気で勝とうとする彼女の本気の心に、彼は敬意を持っていた。
(気を抜けば、負ける……だから、これまでと変わらない。叩き潰すッッ!!!!)
殺気と闘志、どちらの感情の方が優れているかなど、測ることは出来ない。
多くの意見が飛び出て、躱されるだろうが……それでも、明確な結論が出されることはない。
ただ……この試合、その勝負、その激闘だけに限っては、その勝敗によって限定的に証明される。
「それでは…………始めッッッ!!!!!!!」
「「ーーーーーーーッッッ!!!!」」
歓声を分断するような開始の合図と共に、双剣士と闘剣士は様子見などせず地を蹴り、互いの得物を重ね合わせた。
ロングソードと双剣。
武器の中では比較的軽い部類に入る筈の衝突音が、今日一番ではないかと感じてしまう程……戦いに深く関わる者たちであれば、それだけで両者のこの試合に対する気合の入れ具合が解る。
「ぐっっっ、ッ!!!!」
魔力を纏い、身体強化を発動した状態だけでは、闘剣士であるガルフのパワーに軍配が上がるも、ミシェラはこれまでガルフと相対してきた学生たちと違い、そのまま壁端まで吹き飛ばされることはなく耐えきる。
そして速攻で再度距離を詰めると、途中で足裏から風を噴射して加速し、いきなりガルフの背後を取ったのだった。




