第528話 噛み合えば
「結局のところ、イシュドさんはどちらが勝つと思いますか」
昼食を食べ終え、闘技場へ戻る変態狂戦士とお姫様。
相変わらずフレアはイシュドの予想が気になっていた。
「……逆に、あんたはどう思うんだ、フレア。ガルフとデカパイ、どっちが勝つか」
次に行われる試合で、ようやく身内同士が激突する。
イシュドたちにとっても……今回の激闘祭を見ている観客たちにとっても、注目度の高い一戦となる。
「………………どうしても、イシュドさんが有利、という印象を持ってしまいます」
「だろうな」
ミシェラが学生の中でも一学年上の三年生たちを含めたとしても、強者というのは紛れもない事実。
だが、ガルフはそんなエリート令嬢や他のエリートたちの意識外から突然現れたダークホース。
しかも……それは去年までの話。
今は去年の激闘祭で手に入れた闘気の扱いに慣れ、応用技まで扱い、身体能力や技術も順調に成長している。
もう、彼は貴族の子供たちの中に入っても、反論の余地がないほどの強者へと至っていた。
「闘気という力でも、差を開く要因になるかと。加えて、単純な身体能力でも、ガルフさんの方が上回っているかと」
元々ガルフにはイシュドと出会う前にフラベルト学園から合格を貰えるほどの身体能力は有していた。
入学当時は多少なりともミシェラに分があったが、それでもまだ二人が学生という立場を考えれば、ひっくり返る可能性は大いになる。
そして、その可能性をイシュドが後押しし、少なくともパワーという点に関しては間違いなくガルフが上回った。
「技術の差と風……そして手数。この点はミシェラさんが上回っている点だと思いますが……」
「その手札でガルフを突破できるイメージは湧かねぇってこったな」
イシュドの言葉に、フレアはこの場にいないミシェラに申し訳ない気持ちを抱きながらも、小さく頷いた。
フレアは大量の魔力を有する魔術師。
接近戦は基本的に専門外であり、あれこれ語るのは二人に失礼だと思うが……それでも留学してから何度も二人が鍛錬を、模擬戦を積み重ねていく姿を見ていた。
そんな近くで見ていた立場から見ると、やはり五分五分とは言えない。
「まっ、そんなもんだろ。俺も似たような考えしか浮かばねぇよ。まぁ……デカパイに全く勝ち目がねぇとは思わんけどな」
「っ、つまり、ミシェラさんが勝つイメージは浮かぶと」
「……ハッキリと浮かぶかって言われっと、そりゃノーだな。ただ、そこに繋がるだろう切っ掛けぐらいはな」
それはなんなのか、と尋ねたいという気持ちがお姫様の顔に思いっ切り出てるのを知っているため、そのまま自身の考えを語り続ける。
「技術に関しちゃあ、確かにガルフも上がってる。それにロングソードと双剣じゃあ、比べるどころが違ぇってのもあるから、そこの差に関しちゃあんまり関係ねぇだろうな。ただ、魔力操作の練度に関しちゃあ、やっぱデカパイの方が上だ」
ガルフの方が大きく劣っているというわけではないものの、それでも侯爵家に生まれて早い段階から本格的に指導を受けてきたこともあり、そこには……見た目では解り辛い一朝一夕の差がある。
ガルフがどれだけ努力家と言えど、ミシェラとて怠けるウサギではないため、中々埋まることはない。
「一年前と比べて二人とも強くなった……んで、別にバカ程の差はねぇ。そこら辺が後々響いてくることは十分あり得る」
「となると……ミシェラさんですと、一瞬の加速、などでしょうか」
「…………はっ!! 考えられるようになったんじゃねぇの、お姫様」
「半年はイシュドさんたちと共にいますので」
普段はフレアの隣にいるルドラとヘレナは目の前のやり取りに慣れてしまったものの、他のカルドブラ王国の者たちがイシュドのあまりに気安い言葉、対応を見れば卒倒するか、その場でバトル待ったなし。
しかし、当のお姫様はそんなイシュドの対応を好ましく思っていた。
「それもそうか。んでだ、その加速と一瞬の隙。もしくはガルフのやつが解っていても動けない瞬間とかと噛み合えば、そっから好転してもおかしくねぇ。つか、首とか心臓に添えられりゃあ、それで終わるしな」
闘気という強力な武器にも防具にもなる力がある以上、急所を狙っても防がれてしまう可能性はある。
ただ、他の学生からすればチートだろと言いたくなる闘気という力も、決して無限に使えるわけではない。
ガス欠になってしまえば、自爆同然の状態となり、一気に対戦相手の方が有利になる。
そのため、噛み合うタイミング次第ではそういった決着も起こりうる。
「つっても、ガルフがどういった戦法を取るか次第じゃあ、パッと見はワンサイドゲームって感じになってもおかしくないけどな」
「…………そう聞くと、始まる前から試合の主導権はガルフさんが握ってるみたいですね」
「間違っちゃいねぇよ。そこに関して思うところはあるだろうが、認められないほど薄い人間じゃねぇから安心しろ」
結局闘技場に戻るまで、イシュドは二人の試合に関して明確に勝敗を断言することはなかった。
だが、フレアはそれこそ彼が二人を認めている証拠なのだと感じ取った。




