第526話 十割、とは言えない
「いよいよですね」
「あぁ、そうだな」
全学年の二回戦目までが終了。
選手、観客たちにも昼休憩が入り、イシュドはフレアと共に闘技場からあまり遠過ぎない場所で昼食を食べていた。
(……まっ、気にしないでおいてやるか)
闘技場を出た時から感じる存在たち。
イシュドは普通に……友人や知人と接する時と同じ感覚で対応しているが、フレアは隣国の王女である。
普段は護衛であるルドラとヘレナが傍にいるが、今はイシュドしかいない。
二人よりもイシュドが傍にいる方が護衛力は高いものの、今回は激闘際という多くの人々が集まる場所ということもあり、バトレア王国としても万が一があってはいけないため、複数人の守護者を配置している。
「これまでの戦いはどうでしたか」
「三年の戦いはぼちぼちって感じだな。つっても、視た感じ……よっぽどの切り札とかなければ、優勝すんのはダスティンパイセンだろうけど」
あまりイシュドたちと関わることがなくなっても鍛錬と実践は十分過ぎるほど積んでおり、激闘祭終了後も今の成長速度を維持し続ければ……卒業する前に三次職に至るのも決して夢ではない。
といった速度で強くなっていることもあり、イシュドとしてはフラベルト学園の三年生がダスティンに勝つ姿が欠片も想像できない。
当然、三年生に知り合いがいないということもあり、欠片もフラベルト学園の三年生たちを応援しようという気持ちすら起きない。
「私から見ても、あの方は頭一つ抜けてました……しかし、絶対ではないかと」
「……言うじゃねぇの。まっ、武器と扱う属性の相性…………まだ使ってねぇスキルがどんなもんかにもよるが、他の三年が絶対に勝てねぇと断言するには早ぇか。少なくとも、二年と連中と比べれば、三年は最後だからってのもあるんだろうけど、全員気合入ってっからな」
今年が最後の激闘祭。
加えて……来年から、自分たちは本物の戦場に出るという思いから、腕や足の一本二本吹っ飛ぼうが、勝利を掴み取る!!!!! といった気迫を誰もが持ち、燃え滾らせていた。
実際のところ、所属する騎士団や魔術師団の配属先にもよるが、迎え入れる側としては、それぐらいの覚悟を持っている者たちが入団してくれるのは非常に嬉しく、期待を持てる。
「一年生はどうですか? 以前、イシュドさんが一度だけ一年生たちの面倒を見たことがあるとお聞きしましたが」
「……面倒を見たと言えば、そうなるか……ふっ。まぁ、面白い具合に仕上がってはいたな」
イシュドがまずは試合でボロカスにし、その上でメンタルまでボロボロのズタボロにしてから助言を伝えた効果があったのか……激闘祭に参加出来た面々は、あの時イシュドにズタボロにされた一年生たちだった。
「ちなみに、どの生徒が一番面白かったですか」
「そりゃあれだな、ルーディ・ランザスっつー、アドレアスのことが大好きな一年だな」
「ランザスと言いますと、公爵家の方ですね…………確かにあの方は一方的に勝利を収めていましたが……こう、パッと見のイメージとは異なる荒々しさがあったと言いますか」
「はっはっは!!!! やっぱりそうか。ありゃ俺もちとびっくりしたぜ。だから面白ぇんだけどな」
ルーディ・ランザスは先日、高貴なるお方であるアドレアスにイシュドというスーパー野蛮人が接触していることが非常に気に入らず、勝負を仕掛けてきた一年生たちのトップ。
結果としてイシュドへの貢物を用意した上で試合を行い、力尽きるまでズタボロにされ続けた。
(インテリクソメガネって感じのパツキンボンボンだけど、あの令嬢……セレイスだったか? の嬢ちゃんと同じく根性はあったからなぁ)
金髪をきっちり整えたクール眼鏡。
これはこれで王子、と捉えられるような印象を持つ一年生。
その戦闘スタイルは流麗と呼べる美しさと、冷酷と呼べるある種の熱さを有していた。
だが……今日、イシュドやフレアが観た彼の戦う姿は、それらに当てはまらないものであった。
「やはり、元々は違ったのですよね」
「そうだなぁ……少なくとも、俺と試合をした時は……少なくとも、技術に関しては冷静さを優先するもんだったな」
他の一年生たちと共に変態狂戦士に挑んだ際、ルーディは絶望的な状況を、高すぎる壁を前にしても打ちひしがれ、その場に止まってしまうことなく、それでも足掻くという選択を選んだ。
そういった熱さは有していたものの、それでも振るう細剣に関しては細剣という武器らしさが詰まったものだった。
「しかし、彼の細剣技は非常に荒々しく、その闘志までもが熱く燃え上がっていました」
「だな。けどまぁ、それで一回戦目と二回戦目も勝ってるからな」
「あれは……トーナメントを勝ち抜くための奇策なのでしょうか」
「………………」
参加する選手たちが他の参加者たちの戦いぶりを観れないため、普段のその人物からは考えられない戦法を行うことで、勝率を上げることが出来る。
イシュドとしては……その戦法を否定するつもりは全くない。
ただ、パツキンメガネがそれだけの為に、そういった戦法を取るとは思えなかった。




