第520話 関係ない
SIDE ガルフ
「はい、マジックポーション」
「ありがとうございます」
ガルフは治療室……に入ることはなく、部屋の前で一人の治癒師からマジックポーションを貰っていた。
「随分と面白いことをするのね」
「…………」
「もしかしてだけど、ガルフ君は騎士になるつもりがないの?」
治癒師の女性は、ガルフの戦い方を非難するつもりはない。
ただ、本当に騎士になりたいのであれば、あぁいった戦い方は好ましくない。
それは治癒師である彼女でも解る。
「……今は、解りません。ただ、僕が最優先すべきことは、今よりも強くなることなので」
ぺこりと頭を下げ、ガルフは控室へと戻っていった。
「…………あんな子と同じ世代に生まれた子たちは、可哀想としか言えないわね」
彼女は、ガルフのことを大して知らない。
多くを知らないが……それでも、ほんの少し話しただけで解ることがあった。
それは、ガルフは紛れもない強者であり、その強者という座に一切満足しておらず、胡坐をかいていない。
学生の中では強者、という立場になど欠片も興味はなく、本当の意味での強者を目指していることが解る。
(あっ、でも今の二年生にはズバ抜けて強い子が多いんだっけ……けど、確かそれって殆どフラベルト学園の生徒だったような………………う~~~~ん、可哀想ねぇ~~~~~)
彼女は、ガルフと同じ世代に生まれた学生たちを、ただただ可哀想だと思うのだった。
「…………」
「おぅ、おかえり。ガルフ」
「ただいま、フィリップ」
控室に戻ってきたということは、当然勝利したということ。
フィリップたちは解っていたことではあるが、ガルフが戻ってきたことに笑みを零し、双剣使いと同じ学園の者たちは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
「やや浮かない顔ですね、ガルフ」
「そうですわね。少しやり過ぎてしまいましたの?」
ガルフが闘気を使用したとなれば、力加減を間違えてしまい、武器ごと斬り裂いてしまってもおかしくない。
フィリップは直ぐに友人がやや浮かない顔をしてるのか察し……悪ガキの様な笑みを浮かべた。
「ガルフ、ぜ~~んぜん気にする必要なんざねぇんだよ」
「フィリップ……」
「別に卑怯な手を使ったんじゃねぇだろ?」
「うん」
「喧嘩を売られたとしても、うっかり虐めてしまったわけでもないんだろ」
「うん」
「じゃあ、な~~~~んにも気にする必要なんかねぇよ。戦いは主導権を握った奴のものなんだからよ」
「…………ありがとう、フィリップ」
「別に礼を言う必要なんかないっての。俺はただ当たり前の事を言っただけだからな」
変わらず悪ガキの様な笑みを浮かべるフィリップに……ガルフの事が気に入らなかった者たちの視線が集まる。
(単純だねぇ。その方がやりやすくて助かるんだけどな)
フィリップは、今更自分の評価がどうなろうが、正直どうでも良い。
実家に……正確には、父親に重すぎる迷惑を掛けなければ、それで良いと思っている。
(にしても、ガルフの奴……激闘祭の舞台でも、同じことをするか……気合の入りようが違うね~~)
事前に話を聞いていた訳ではないが、戻ってきた時の表情から、なんとなく何をしたのか理解していたフィリップ。
「……あの男が言う、特権ですからね」
ミシェラも事情を理解し、特にガルフを非難することはなかった。
彼女はどちらかといえば憧れの先輩と同じく、騎士として活躍する道に進もうとしているタイプ。
ただ……目標の一つとして、自分にデカパイという……事実ではあるが、あまりにもデリカシーの欠片もないあだ名をつけた男、イシュドをぶった斬るという目的がある。
その目的を達成するためには、並みのことをしていては絶対にたどり着けない。
(……私もやろうかしら)
ガルフより、フィリップよりも騎士道精神を持つミシェラだが、時にはそれよりも優先すべきことがあることを知っている。
「ガルフ」
「久しぶりですね、ディムナさん」
「あぁ、そうだな…………何を、悩んでいる」
サンバル学園に所属しているディムナにとって、ガルフは……こと激闘祭においては敵である。
だからこそ、サンバル学園の者たちはディムナの行動に驚きを隠せず、三年生となったダスティン・ワビルは小さくため息を吐きながらも苦笑いを浮かべていた。
「………………強くなるためには、相手の覚悟も利用しても良いのかなって思って」
「ふむ、なるほど……覚悟を利用する、か…………………………なるほど」
話の流れで、なんとなく頷き、なるほどと呟いているわけではない。
覚悟を利用する。
その言葉から、ガルフが何をしたのか、ディムナはある程度把握した。
「何も気にすることはないだろう。あえて問題を上げるとすれば、それは……相手がガルフ、お前の前に立つ意味を理解していないということだ」
「………………?????」
なんとなく、褒められていることは理解出来る。
ただ、自分のことなのに、目の前の友人? が語る内容が全く理解できなかった。
ちなみに、控室にいる殆どの者たちが理解出来ておらず、数名だけがディムナの言葉を把握できていた。
把握した上で……なるほどと思いながら、苦笑いを零すのだった。




