第514話 イシュド、じゃないから
最初はバイロンとロッソだけで行われていた話し合いだが、他の教師たちも参加し始めた。
「やはりメインの武器を使わないという戦法は」
「とはいえ、それが感覚を研ぎ澄ませる手段として適しているのは間違いない」
「メンタルケア、か……もっと早く、せめてイシュド君がエキシビションマッチで勝利してからでも考えてもおくべきでしたね」
「ていうより、そんなんで心が折れてるようじゃ、将来的に約に立たないことが確定してるわけだし、放っておいて良いんじゃないの?」
「放っておいても、そいつらが全員騎士団に就けないわけではない。なにより、教師であればそういった事に関しても導かなければならない」
ガルフたちの行動をどうするか、どう考えるかについて話が盛り上がるものの、これといった解決策は中々浮かばない。
「ガルフが悪いという訳ではないが、平民に手を抜かれている、というのが彼らにとってはくるものがあるはずだ」
「それは解らなくもないですが……~~~~っっ、難しいですね」
難しい。
もう教師たちの口から何度零れたか分からない。
教師たちは基本的に貴族出身の者が多く、相手に嘗められる……手を抜かれるという行為に、どれだけの理由があろうとも、どれほどの屈辱を受けるのか解る部分がある。
ただ……ガルフたちが今の現状に満足せず、更に上を目指そうとする姿勢は、非常に好ましい。
中には、だとしても平民が貴族の令息や令嬢に対してそんな行為を、と考える悪い意味で貴族らしい教師もいるが……イシュドが与えた影響は学生だけではなく、教師にまで及んでいる。
そのため、ここでガルフに対する否定的な意見を口にすれば、白い目を向けられるのは解り切っていた。
「てか、俺が聞いた感じの話だと、逆に生徒たちのモチベーションって盛り上がってるって聞いてたんすけど、違うんすか?」
「そういえば私もそんな話を聞いたわね。というか、多分実力に関しては今の三年生たちが二年生の時と比べて上がってると思うのだけれど……それって、少なからずイシュドの存在による影響があるわよね」
「…………イシュド君じゃないから、なのかもしれませんね」
「フィレッツ先生、イシュド君ではないから、というのはどういう事でしょうか」
今回の話題には、生徒からの質問に答えていたため、途中から参加したフィレッツもいた。
「イシュド君は、同級生たちにとって、ある意味同級生ではありませんね」
「実力的に、という意味ですね」
「えぇ、その通りです。正直なところ、彼と一対一で戦えば、私たちでも敵わない可能性は十分あり得ます」
フィレッツの言葉に、反論する教師は一人もいなかった。
実際に見た者はいないが、イシュドが実家の若手騎士と共にとはいえ、Aランクドラゴンを討伐したという情報もある。
たとえタッグで挑んだとしても、教師たちでさえ勝てる保証はない。
「そのため、同級生たちからしても、イシュド君であればと、ある種の諦めに近い感情を持つでしょう」
「手加減されても仕方ないと」
「というか、イシュドの場合手加減してないと、うっかり殺してしまうかもしれないっすからね」
さすがにそんな事はしないだろうと思いたい教師たち。
ただ、イシュドが実行するか否かはさておき、うっかりしてしまった場合、それが十分起こり得るのは忘れていない。
「けど、イシュドじゃなくてガルフやフィリップたち……同級生だけど、イシュドほどかけ離れた存在じゃないから、上がってた向上心もバキッと折れて、腐り始めると」
「あくまで私の見解ではありますけどね」
問題が明確になってきた……と思ったのもつかの間。
結局のところ、ガルフたちと選抜戦でぶつかるからこそ起こる問題。
解決の糸口にはならなかった。
「……お前らそんなんで国や民を守れるのかって言葉じゃあ、盛り返してくれないっすかね~~」
「悪くはないだろう。だが、まだ足りない…………そういえば、私が担任を務めている一年生のクラスでは、一部の生徒たちがイシュドに自分たちの行動に関してカッコ悪いと言われたことがあるそうだ」
バイロンは内容を知っているが、初耳の教師たちが多かった。
しかし、サラッと内容を聞くだけで……少なくとも今回の話し合いに参加している教師たちは、イシュドが伝えたカッコ悪いという言葉に、大いに賛同だった。
「間違いないねぇ~~。それはカッコ悪いわ……それじゃあ、それも奮い立たせる為の言葉として伝えようかしら?」
「伝え方次第とは思いますが…………そうですね。有効打にはなるかと思われます」
「………………」
「バイロン先生はどうなさいますか」
「……彼らが口にしている事は、突き詰めればガルフたちを選抜戦に参加させないでほしい……という内容だと思うのだが、皆さんはどう思いますか」
バイロンの問いに、全員が……それこそ、悪い意味で貴族らしいところがある教師たちも同じ意見だった。
「では、そこを利用しようかと思います」
利用方法を聞いた教師たちは、新人もベテランも関係なく、全員「おぉ~~~~」と感嘆の声を零し、翌日決行することを決めた。




