第513話 自覚はある
SIDE バイロン
「ふぅーーー……」
ある日の職員室。
そこには、悩ましい表情を浮かべるバイロンがいた。
「どしたんすか、バイロン先輩。そんな難しい顔して」
「ロッソか。少し、最近の選抜戦についてな」
「選抜戦? …………なんか問題でもありましたっけ?」
ロッソの記憶では、特に誰かが反則行為を行ったという報告は一度も聞いていない。
「……ガルフたちのことで少しな」
「? あいつらは……問題を起こすようなタイプではなくないっすか?」
イシュドであれば、法律やルールに反しない範囲での問題を起こしそうというイメージを教師たちから持たれている。
しかし、彼と共に行動しているガルフたちに関しては、イシュドと共に行動するようになって強くはなったが、その性格や行動が似てきているとは思われていない。
「そうだな。問題というには、あいつらに失礼だったな。とはいえ、他の生徒たち……選抜戦で彼らと当たった生徒たちから、少し苦情が出てきていてな」
「苦情? あいつらが強すぎて選抜戦に絶対負けるから、除外してほしいとかっすか?」
「………………」
「えっ、マジなんすか、バイロン先輩」
本当に事実であれば、ロッソはその生徒たちをシバき回さなければならないと思った。
選抜戦に参加する者たちの進路は、基本的に騎士と魔術師。
つまり、将来国や街、民を守る為に活動する職に就く。
にもかかわらず、そのような腑抜けたことを口にする者たちがいるのであれば、ガッツリ残業してでも鍛えなおさなければならない。
「いや、正確に言うと違う。ただ、そういった事に繋がりかねないということだ」
「……すいません、つまりどういう事っすか?」
「ここ最近……解りやすい例で言うと、ガルフがロングソードを使わず、素手で戦っているらしい」
「へぇ~~~。確か闘剣士っすよね。だったら、別に素手で戦うのは別におかしくないっすけど」
珍しい職業の情報までは頭にないものの、闘剣士ぐらいの情報は覚えているロッソ。
ロッソの言う通り、メインはロングソードであるものの、体技やその他の短剣技や双剣技などのスキルも体得できる職業である。
「そうだな。しかしな、ガルフのメイン武器はやはりロングソードなんだ。だが、そのロングソードを使わず素手で戦おうとしているのだ」
「……あぁ~~~~、なるほど。つまり、ガルフから嘗められてると感じてるってことっすね…………あれ? けど、ガルフってそういう性格の持ち主じゃない気がするんすけど。イシュドなら、試合前に挑発されたから素手で潰すとかはやりそうっすけど」
ガルフへの印象と、イシュドへの印象。
ロッソのイメージに、こっそり聞き耳を立てていた教師たちも同意だった。
平民だからか、元々彼の性格からか、そういった態度を対戦相手に……人に取るような生徒には見えない。
「ガルフとしては、少しでも自分を高める為に素手で戦っているそうだ」
「………………はは、なるほど~~~。いやぁ~~~、そういう事を思いついちゃうか……それって、イシュドからアドバイスを受けての行動なんすか?」
「そうではないらしい。ガルフが自分で思いつき、行動に移したらしい」
「あっはっは!!! そういう事なんすね~。そう考えると、ガルフって割とイシュドに似てきたんすかね」
「……そう捉えられることもできるかもしれないな」
素手で戦えば、攻撃するには武器を相手に近づかなければならない。
当然リーチは不利になるため、武道家などでなければ基本的にはデメリットしかない戦法である。
「加えて、ガルフに関しては闘気を使っていないようだ」
「でしょうね~~。闘気まで使ったら、高めるための試合でならないでしょうしね」
折角素手で戦っても、闘気を使ってしまえば意味がない。
それこそ、ある意味挑発だと捉えられてもおかしくない。
「んで、選抜戦で戦った連中から苦情がきてると」
「そうだ」
「ん~~~~……………………難しいっすね~~」
ロッソとしては、ガルフの姿勢を咎めるつもりは欠片もない。
寧ろ好ましく思っている。
ただ、ロッソも自身が教育者だという自覚はあり、他の生徒たちのことを蔑ろにするわけにはいかない。
「無視すれば良い、とは言わないんだな」
「これでも一応教師っすからね。つっても、俺としてはガルフとかフィリップたちとか? が貪欲に強くなろうとしてる姿勢が悪いとは全然思わないんで……あれっすかね。なんとかメンタルケア? するしかないんすかね」
「……学生とはいえ、まだ子供ではあるからな……むぅ…………」
バイロンたちからすれば、高等部の学生たちもまだまだ子供である。
それは間違いないのだが、後二年も経てば現場に出て戦い、守らなければならない。
少なくとも……三年生に上がるまでには、最低でも下を向くことだけに集中しないように精神をどうにかしなければならない。
(……………………いや、これは私たちがどうにかしなければならない問題だ)
ある意味元凶と言えるかもしれない人物の顔が思い浮かぶも、バイロンは教師としての責務を全うするため、元凶に頼るという案を放棄した。




