第512話 事実、下がることはない
「二人とも、お疲れさん」
「おぅ」
「うん」
イシュドの元に戻ってきた二人。
本日は最後にイブキの選抜戦が残っている。
「……ガルフ。あの戦いは、どういう理由であぁいった戦い方をしていましたの」
イシュドとの会話で、ある程度察することは出来た。
ただ、ミシェラとしてはガルフ本人の口から聞きたかった。
「今より強くなるためには、どうすれば良いのかを考えました」
語られたのは、二人が戻ってくるまでに三人で語っていた内容と同じものだった。
選抜戦という場所であれば、対戦相手は本気で……自分の全てを懸けて勝とうとしてくる。
徒手格闘で挑むのは、刃との距離を縮め、少しでも緊張感を高め、感覚を研ぎ澄ませるため。
どれも……自身を高める糧とするものであった。
「って感じだよ……やっぱり、ミシェラさんとしては、あまり良くないって思うかな」
「そうですわね…………ですが、イシュド風に言うならば、それは強者の特権の様なものなのでしょう」
「おっ、解ってんじゃねぇかデカパ~~イ。別にガルフは対戦相手をいたぶって嬲り殺そうとしてた訳じゃねぇんだ。マナー違反みてぇな事はしてねぇからな」
「……なぁイシュド、別にガルフの行動を批判するわけじゃねぇんだけどよ、ガルフのあの行動で対戦相手の心はある意味嬲り殺されたんじゃねぇのか?」
実際にあの戦い方をされた場合、プライドがズタボロになるのは間違いなかった。
「しゃあねぇんじゃねぇの? 違反するようなことじゃなきゃ、別にリングでなにやっても構わねぇだろ。それに、今回の事であれこれ意見が出るなら、学園側が始まる前に対処しておかなきゃならねぇだろ」
「そうだね。正直なところ、それには同意する部分が大きいかな」
強くなっている。
自分たちだけではなく、同学年の者たちの多くが確実に強くなっていた。
アドレアスはそこまで詳しくないものの、フラベルト学園の生徒たちの方が、他学園の生徒よりも成長していると感じた。
それでも……今日、リングに上がる生徒たちの戦いぶりを観た限り……自分たちが苦戦する、張り合えるような者たちは一人もいない。
ハッキリ言ってしまえば、格が違う状態だった。
「今回の様なことを危惧するなら、ガルフ君たちを無条件で参加させるべきだからね」
「……なぁ、アドレアス。それって俺も入ってるのか?」
「当然だろう、フィリップ。さっきの試合、調整するために早く終わらせなかっただろう」
「はぁ~~~~、なんでそこまでバレてんだよ」
フィリップも一応参加するつもりではあり、友人たちも参加する手前、情けない姿は見せたくないという思いがある。
そのため、ガルフほどではないにしろ、フィリップも感覚を研ぎ澄ませるために対戦相手を使っていた。
「ミシェラさんも、終わらせようと思えば素早く終わらせられるでしょう」
「えぇ……そうですわね………………はぁ~~~~~」
正直なところ、ミシェラとしてもそのやり方はありだなと思った。
普段行っている試合や模擬戦。
授業で行っているものとでは、勝利に対する気持ちや姿勢、貪欲さが異なる。
間違いなく、選抜戦に参加する時の方が勝利に対して本気であり、実践に近い感覚が強まる。
ミシェラたちからすれば……そういった感覚を感じれば、少しは自分の糧になる。
とはいえ、ミシェラは侯爵家の令嬢である。
「ふふ、悩ましいところだよね。私たちがやってしまうと、ね」
「ですわね」
「ん? 別に問題ねぇ……あぁ~~~、そういう事か。ふ~~~ん…………クソ面倒だな」
「理解してくれたようでなによりですわ」
ミシェラとしては「んな事、いちいち気にしなくて良いだろうが」と言われるのかと思っており、イシュドがそこに理解を示してくれたのは少々意外だった。
「あれだろ、実家に迷惑を掛けるのがってことだろ」
「簡単に言ってしまうとそういう事ですわ」
「お前ら、普段からきっちりしてるんだし、これぐらいは別に大丈夫なんじゃねぇのか?」
フィリップは……一年前と比べればまとも寄りになったものの、まだちゃらんぽらんな奴という印象があるため、選抜戦の舞台で対戦相手を糧にするような真似をしたところで特に公爵家は迷惑をこうむることはない。
だが、ミシェラやアドレアスの場合はそうはいかない。
二人の場合はこれまで侯爵家の令嬢として、王子としてその評価に相応しい生き方をしてきた。
だからこそ、そういった事をしてしまった場合、自身の評価が下がるだけではなく、実家の評判まで下げてしまう可能性が大いにある。
「……あなたは下がるものがなくて羨ましいですわ」
「…………なぁ、イシュド。俺って今喧嘩売られてる?」
「それに関しちゃあ、割と事実なんじゃねぇの?」
一見、喧嘩を売っているように思われるミシェラの言葉だが、フィリップに下がるほどの評価が……彼自身の評価が下がったとしても、ゲルギオス家にまで迷惑が掛からないのは事実だった。
「二人もガルフやフィリップと同じようにやりてぇなら、対戦相手や他の観戦者にバレないようにやってみりゃ良いんじゃねぇか?」
「バレないように……」
それもまた一つの技量なのかと思い、二人とも真剣に考え込むのだった。




