第509話 卒業する頃には……
(ふ~~~~ん…………確かに、バイロン先生が言ってたっぽいな)
現在校内の選抜戦を観戦しているイシュド。
リングでは友人であるフィリップと同じ二年生が戦っている。
フィリップもイシュドと共に行動しているメンツの一人であり、ときおりぶつくさ文句を言いながらも、なんだかんだで共に試合を行い、強敵と断言できるモンスターとの戦いに挑んでいる。
相変わらずおちゃらけた雰囲気、態度は変わらないものの……経験を積めば、自然と身についてしまう者がある。
それは……強者が纏う空気。
フィリップ自身は気付いておらず、同じように変化しつつあるガルフたちも気付いていない。
だが、フィリップたちは確実にそういった雰囲気を……同世代の者たちからすれば、格が違うと感じてしまう雰囲気を纏っていた。
(気合が入ってる。けど、熱すぎる訳じゃねぇ、やけくそでもねぇ……ちゃんと、勝とうとしてる動きだな…………フィリップ相手に、それが出来るか…………本当に、育ってんね~~~)
フィリップにも強者が身に纏う空気がある。
ただ、ガルフやミシェラたちと違い、そのおちゃらけた態度もあり、戦ってみなければ解らない部分がある。
しかし……戦いが続けば続くほど、ガルフやダスティンとは違った意味で堅さを感じる。
数分も戦い続ければ、勝てないと悟ってしまう。
ただ、それでもフィリップの対戦相手は淡々と僅かな隙を伺っていた。
「一撃を狙ってるのかしら」
「みてぇだな。冷静に狙ってんなら悪くねぇけど……足りねぇな」
イシュドが言い終えたタイミングで対戦相手の令息が双剣技のスキル技を発動しようとしたが、フィリップは加速して一瞬で距離を詰め、腹に蹴りを叩き込んだ。
スキル技が中断され、ダメージを受けたことで令息の動きは止まり、その隙にフィリップの刃が首筋に添えられた。
「そこまで!!!! 勝者、フィリップ・ゲルギオス!!!!!」
「撒き餌さが足りなかったな」
隙と判断した瞬間に効果力の一撃を叩き込む。
その戦法自体は非常に理に適っている。
しかし、双剣使いの令息とフィリップの力量差では、ただ隙を狙うだけでは攻撃が当たることはない。
本命を当てるための過程となる攻撃が必要だった。
「本命とは異なる攻撃ですわよね…………まぁ、難しい話でしょうね。私としましては、隙を見つけた瞬間に仕掛けること自体は悪いとは思いませんわ」
「ほ~~~ん……なんか理由があんだな」
「あなたとの模擬戦ではそれが意味をなさないのでしょうけど、あの男はわざと隙を見せるのが上手いのですわ。加えて、本当に隙があったとしても、そこを狙われてることに直ぐ気付き、修正しますの」
「……そういえばそんな事があったような気がしなくもないな」
「イシュドの場合、反射でどうにか出来てしまうからね。僕としては、身内の中で勝つことが一番厄介なのはフィリップだと思ってるよ」
イシュド、ミシェラの二人と共に校内選抜戦を観戦しているアドレアス。
総合的な戦闘力はガルフが一番上だと認識している。
しかし、戦い辛さという点に関してはフィリップが群を抜いていた。
「ガルフほど身体能力を高められれば、無理やりなんとかする事が出来るのだろうけど、私にはそこまでのものがない」
「本当に目敏いのですわ」
「眼が良いって素直に認めとけ、デカパイ……そこに関しちゃあ、俺も結構びっくりしてっからな」
イシュドから見て、フィリップはズバ抜けたセンスの持ち主であり、なんだかんだで訓練に付いてくるだけの根性がある。
そこら辺に関してもイシュドは十分評価しているが、最近そこに加え……五感も鋭くなり始めていた。
(モンスターを狩る際、斥候の役割を担ってるからか? だからって、直ぐに順応できるもんじゃねぇと思うんだが………………こうなってくると、フィリップの戦闘力が底上げされそうだな)
現時点では、フィリップは対人戦に関しては上手い部分が光ていた。
ただ、やや攻撃力が物足りない部分がある。
しかし……光る部分が更に輝きを増せば、足りない攻撃力を補うことが出来る。
(あのスキルを先に手にするのはアドレアスかと思ってるんだが……先か後かは置いといて、フィリップも手に入れる可能性は十分にありそうだな)
友人たちが予想外の成長を果たすかもしれない。
そうなれば、他の者たちも触発され、更に研鑽されていく。
(ふふ。そうなれば、卒業するころには……良い感じに育ってるかもな)
「「っ!!??」」
背筋に冷たさを感じ、ぶるりと震えるアドレアスとミシェラ。
「い、イシュド。何か……考えたりしたかい?」
「あん? 別に大したこと考えてねぇぞ。フィリップはフィリップで磨いてんな~~って思っただけだ」
「……本当ですの?」
「本当だっつーの。おっ、次はガルフの番だな」
堂々した態度で現れたガルフ。
その頼もしい表情にミシェラたちは嬉しそうな表情を浮かべる。
そして……そんなガルフの態度に、他の学生たちが野次を飛ばすことはなかった。
この場に彼の友人である狂戦士、イシュドがいるというのもあるが、彼らも実際にその眼でガルフの実力を見ていた。
もう……ガルフは侮られる存在ではなくなっていた。




