第508話 逆にチャンスなのでは
「てわけで、これを貰っても良いっすかね」
「あぁ、分かった」
応接室の一室にいるイシュドとバイロン。
イシュドがエキシビションマッチを受ける代わりに、彼が満足する物を提供する。
学園が用意できる物の中から、イシュドはこれだという物を選び、担任教師であるバイロンに伝えた。
「ところで、これは何に使うんだ?」
「特に考えてないっす。まっ、武器の素材になるのは間違いないっすけど」
「それはそうだろうな……ガルフが優勝した場合、何かしらの形に変えて渡すのか?」
イシュドは、基本的に友人たちに対して特定の誰かを贔屓していない。
ただ、担任教師であるバイロンは……イシュドがガルフの成長に一番期待していることは見抜いていた。
「ん~~~~……それはありっちゃありっすね。けど、やっぱりあれっすか、教師としては、学生が強力な武器を持ってたら、ある意味心配っすか?」
イシュドが選んだ素材を元に武器を造る場合、最低でもランク六の武器が出来上がる。
現時点の実力を考えれば、ガルフが持つにはまだ早過ぎると断言できる。
「…………ガルフであれば慢心しないだろうという思いがあるが、そうだな……まだ持つには早いと思う。ところで、今年の二年生……誰が優勝するとイシュドは予想している」
教師たちの間では、二年生の部ではフラベルト学園が優勝を貰う!!! と宣言している者が多い。
それも致し方ないことではあった。
そもそもな話、去年の激闘祭トーナメントでは、決勝戦へ自学園の生徒同士の戦いであった。
アドレアスは予想通りとして、フィリップがそこに到達したのは教師たちにとっても予想外であり、更に優勝してしまったのも予想外の出来事であった。
なにはともあれ、結果的に自学園の生徒が優勝したのは間違いなく、教師たちは大いに喜んだ。
そして、今回も前年優勝者と準優勝者が参加。
惜しくもベスト四で敗退したものの、ミシェラにも期待が持てる。
なにより……全開の激闘祭では惜しくもベスト八の結果で終わってしまったが、その大会で闘気という強力な武器を得たガルフがいる。
不幸にも潰し合いが起きなければ、寧ろフラベルト学園の優勝は固いと考えられていた。
「そうっすね~~~…………やっぱ、一撃の威力……殺傷力はイブキが一番だけど、継続した攻撃力だとガルフだし……他学園だと、ディムナも油断できない相手っすからね~~」
「ふむ、そうだな。教師たちの間でも、彼が一番の壁になるだろうと考えられている」
やや……やや、調子に乗っている、浮かれているところがあるフラベルト学園の教師たち。
ただ、やはりそれは仕方ないことであった。
いくらイシュドというそこら辺の騎士を纏めて蹴散らせる実力を持つ男と共に行動しているとはいえ、ガルフたちが潜り抜けてきた戦場は……学生が、一年生が耐えられるものではない。
しかし、フィリップたちは見事耐え抜き、生き抜き!! 今に至る。
「まっ、他の学園の事は知らないんで、割とどうなるか解らないっすからね」
「ほぅ……友人たち、もしくは一時関わっていたディムナが勝つとは断言しないのだな」
「八割ぐらいはそうなると思ってるっすよ。けど、去年の激闘祭で俺の、レグラ家の力を知らしめたじゃないっすか」
「そうだな。それに影響を受けたのが、ガルフたちだけとは限らないんじゃないっすか」
イシュドとしても、やはりガルフたちの誰かが優勝すると予想している。
だが、あり得ないと思われることが起こる。
それはイシュドの前世でも起こっており、イシュドがこの世界に来てから何度も見て、体験してきた。
「……そうだな。他学園の二年生にとっては、今年……そして来年の激闘祭が分かれ目になるだろう」
「ふ~~ん? なんでっすか」
話が長くなりそうだと思い、イシュドはアイテムバッグから皿を二つとクッキーを取り出した。
「いただこう……美味いな。お前がこの学園に来たことで、数名の生徒たちが同世代の者たちと比べ、二回りほど大きな実力を身に着けた。イシュドは知らないと思うが、他の生徒たちも例年以上の早さで力を付け始めている」
「へぇ~~~、それはそれは……そいつも、俺が与えた影響なんすか?」
「そう思って構わないだろう。つまり、それだけフラベルト学園の二年生たちの実力が底上げされている。気の毒ではあるが、他学園の学生たちは激闘際に出場する権利を得たとしても、活躍出来るか非常に怪しい」
「あぁ~~~~、はいはい、なるほど。つまり、今のままじゃ就職先にアピール出来ないってことか」
「簡単に言ってしまうとそういう事だ。騎士団としても、可能であれば優秀な卒業生を迎え入れたい。最初から勝てないと諦め、勝つ気がない戦いをしてしまえば、それが本性なのだと捉えられてしまう」
「……つまり、それってある意味チャンスじゃないんすか?」
そもそもガルフやミシェラ、フィリップたちに勝つことが難しい状態。
だが、そこで最後まで諦めずに戦えば、それだけで評価を上げられるチャンスとなる。
イシュドからすれば、それは普段の激闘祭と比べれば良い意味でチャンスが巡ってくるのではないかと思えた。
「イシュドもレグラ家から出てきて、もう一年が経つだろう。同世代たちの中に、そういった強い心を持っている者が多くないことを知っているだろう」
「っすねぇ~~~~。ったく、貴族の誇りやプライドがどうたらって語るんだったら、こういう時に発揮しろよって感じっすけどね」
大きな声では言えないものの、バイロンもその点に関しては深く同意するのだった。




