第505話 投資
「イシュド」
「ん? なんすか、バイロン先生」
座学の授業終わり、担任教師であるバイロンに呼び留められたイシュド。
「一年生たちの面倒を見てくれたようだが、彼らに何を伝えたのだ?」
「…………もしかして、なんか面倒なことになってるっすか?」
基本的に自己中心的な思考で動いているイシュドだが、担任教師であるバイロンには一定の敬意を持っている。
そんな彼に迷惑を掛けてしまったとなると、イシュドとしても多少は申し訳なさを感じる。
「いや、そういう訳ではない。ただ聞いた話なのだが、一部の生徒たちのやる気が尋常ではないらしくてな」
「へぇ~~~~……とりあえず良い事、なんすよね?」
「そうだな。良い事ではある。とはいえ、その熱が普通ではなくてな。中等部の三年時の様子を比べても、明らかに熱の大きさが異なるらしい」
「ふ~~~~ん」
「良い事ではあるから、イシュドが彼らに何を伝えたのかと思ってな」
イシュドとしては、特に隠す内容ではないため、あったことをそのまま話した。
「って感じっす。俺としては、ちょっとアドバイス? を伝えただけっすよ」
「そうか……解った。そうなると、同じようなことで熱を灯すのは難しいか……時間を取らせて悪かったな」
バイロンはイシュドの性格をある程度理解している。
もし、イシュドに他の生徒たちにも同じような体験をさせてあげてくれないかと頼めば、ルーディたちが必死にかき集めた金で購入した妖刀並みの高級品を用意する必要がある。
そんな事をしていれば、バイロンたちの……学園の運用資金ががっつり削られてしまう。
(その辺りをなんとか解決出来ないものか…………)
バイロンは教師である。
教え子たちがより良い道へ進むためなら良き機会を与えたいが……金は有限であり、湧いて出てくるものではなかった。
「教師たちとしては、再度イシュドに模擬戦? 相手をしてほしいだろうね」
「んで、バイロン先生は俺がそれを受けないってのを解ってたってことか」
「伊達にあなたの面倒を一年もしてないということですわね」
訓練場へ移動し、アドレアスたちは素振りを……イシュドは特注のダンベルで筋トレを行っていた。
ちなみに、担任教師に関しては一年の頃から卒業まで変わることはない。
「……やっぱり、教師って大変なんだ、ね」
「数十人の面倒を見なければ、ならないの、ですからね…………そういえば、イシュド。あなたらなら、何か、これといった……案が、あるのでは、なくて?」
「あ? 悪い意味でバカな奴らの目を覚ます的なことか?」
「えぇ、そうですわ」
ミシェラは……解っているのか解っていないのか、自分たちの後輩であるセレイスやルーディたちが悪い意味でバカということに関して、サラッと否定しなかった。
「どうだろうなぁ………………騎士としては首を傾げるようなやんちゃな先生が、バカみたいに強ければ、その先生がこの前の俺みたいになるんじゃねぇの?」
「……そのバカみたいな強さ、とは、どれほどのものですの?」
「…………学生じゃなくて教師って考えっと、二十代前半で四次職に就いてれば良いんじゃねぇの」
「「「「…………」」」」
イシュドの言葉に、ガルフ以外の四人はドン引き……もしくは呆れた表情を浮かべる。
「イシュド~~~、そりゃ厳しいが過ぎるってもんじゃねぇか?」
「んでだよ。俺が今三次職なんだから、教師でインパクトある内容ってなると、そうなるもんじゃねぇの?」
「間違ってはいないと、思うけどよ、でもそれを達成しようとしたら、十中八九死なねぇか?」
「その通りですわ」
珍しくフィリップの考えに同意するミシェラ。
「別に俺も死なねぇとは思ってねぇよ。けど、攻略難易度が高いダンジョンに潜り続けてりゃあ、達成出来なくはねぇんじゃないか?」
イシュドはこう見えてダンジョンという魔境を探索した経験がない。
だが、興味はあるので情報はそれなりに頭に入っていた。
「……それが死ねって、言ってるようなもんじゃ、ないのか?」
「死ぬ可能性はあるだろうな。けど、遭遇するモンスターをぶっ殺す最短ルートを頭に叩き込んで、サーチ&デストロイを繰り返してればいけんじゃねぇの? ほら、ぶっ殺したモンスターの素材で得た金とかを全部強くなるための道具に回してればいけんだろ」
「…………なんとなく意味は、解りますけれど、それが出来るか、出来ないかはまた別問題では、なくて?」
イシュドが語る内容を実行しようとするならば、単純な強さだけではなく、モンスターの行動パターンなども叩き込んでおく必要がある。
いき過ぎているバカでなければ不可能ではないが、四次職に到達するまでそれが続けられるかというと……先に体や心がイカれる可能性は十分考えられる。
「かもな。けど、高等部を卒業する前から教師になることを考えてる奴がいれば、そういう道に進んでも、良いんじゃねぇの? 学生の時点から誰かに何かを教える職に就こうって奴は、稀も稀だろ」
「……………………それはそうかも、しれません、わね」
これまで出会ってきた同世代の者たちを振り返るも、確かに幼い頃からそういった考えを持つ者はいなかった。
「んで、学園がそういう存在を必要としてんなら、その……一応騎士にはなった奴? に、投資してやれば良いんだよ。そしたら死ぬ可能性も幾分か下がるだろ」
いったい幾ら投資しなければならないのか……そこまではイシュドもパッと思いつかない。
ただ……毎回イシュドに頼み込む額と比べれば、安くなるのは間違いなかった。




