第497話 思考を変える
カッコよさというのがどれだけ重要な要素なのかをあれこれ話し合った後、バイロンッは一つの用紙をテーブルの上に置いた。
「なんすか、それ」
「もし、お前が今回の激闘祭終了後の変則試合に出てくれた場合、学園が提供するリストだ」
「ふ~~~~~~ん…………………………この中の、どれか一つと」
「そうだ」
リストにはAランクモンスターの素材や魔石、Bランクモンスターであれば纏めて十数以上。
モンスターの素材だけではなく、高ランクの武器やマジックアイテムなども記されていた。
(この中から一つって言っても、用意するのは楽じゃねぇだろうし…………学園長の爺さんがポケットマネーから出したのか、それとも俺の試合に興味がある権力者からとりま金を提供したのか……どちらにしろ、学園としては変則試合を行いたいって方向で決まったんだな)
イシュドとしても、それ相応の報酬を用意してくれたのであれば、受けるのもやぶさかではない。
「……これ、いつまでにって決めといた方が良いっすよね」
「そうだな。とはいえ、中々決まらなくとも、多少は時間が掛かるだろうが、必ず渡す」
「そうっすか……んじゃあ、とりあえずこのリストは貰っといても良いっすか」
「あぁ。だが、あまり他人に見せるなよ」
イシュドという人間の特異性を考えれば、物で釣ってでも試合をしてもらった方が、学園や学生たちにとって利がある。
ただ、それはそれとして、一生徒をそこまで学園が贔屓していると知られるのはあまりよろしくない。
「解ってますよ」
「……イシュド。変則試合……受けてくれると捉えていいのだな」
「ふふ。そうっすね、とりあえず受けるのは確定と考えてもらっていいっすよ」
笑みを浮かべながら返事をし、イシュドはガルフたちが待つ訓練場へと向かった。
「…………ふぅーーーーーー。ひとまず、問題はクリアしたな」
バイロンとしては、イシュドが変則試合を受けてくれるのか否か。
それが現在抱えている仕事の中で一番大きいため、それが解消されたことで安堵の息が零れた。
「遅かったですわね」
「ちょっと話し込んでな」
「……ちなみに、どういった事を話してましたの」
訓練場に到着したイシュドに声を掛けてきたのは模擬戦前から気合が入り、薄っすらと汗を流すミシェラ。
話せなければそれでも構わないが、それでもイシュドとバイロンが二人で話す内容となれば、どうしても気になりはする。
「カッコよさってなんなのか、みたいなガキっぽい内容を学生と教師で真剣に話し合ってただけだ」
「カッコよさ……つまり、昨日の件に関わる内容ということですわね」
「多少な。つっても、そんな深く関わってるわけじゃあ……いや、割と関わってんのか?」
割と、どころではなくがっつり関わっていた。
「っ、詳しく聞いてもいいかしら」
「別に構わねぇけど……体温めたんだろ。せっかくだ、アドレアスと一緒にこい」
「アドレアス様」
「もちろん、共に戦うおう。ミシェラさん」
お前はしっかり準備運動しなくていいのか、とは誰もツッコまない。
何故なら……その程度のハンデがあったところで、戦況が大きく変わることはない。
「「はぁ、はぁ……っ」」
「ん~~~……あれだな。今までより、連携のキレは増したかもな」
結果、いつも通りイシュドの圧勝で終了。
それでも、イシュドは確かに二人の成長を感じ取った。
「そう、ですのね……それは、良かったですわ」
これから二年生となり、依頼も正式に受けられる。
アドレアスと組んで何かと戦うことが増えることを考えれば、連携のキレが増すのはミシェラにとって嬉しい成長だった。
「ところで、その……カッコよさという、話ですけれど」
「あぁ、それか………………俺は狂戦士だが、一応バカじゃねぇつもりだ」
彼の言葉に、全員苦笑いや渋い表情を浮かべながら頷いた。
「だからな、本来なら学園に入学してからもそうなのかもしれんが、学園を卒業して現場に入れば、綺麗事だけじゃやっていけねぇんだろ」
「…………状況によりますが、その可能性は否定できませんわ」
「やっぱりか。まっ、そういうわけだから、そんなカッコよさってのが重要って思われそうだが……アドレアス、お前はそういった現状をなるべく変えたいんだったよな」
「あぁ……その通りだよ」
トーンが一つ下がり、言葉に力が籠っていた。
それだけでアドレアスがどれだけ本気なのかが解る。
「言っとくが、お前が騎士として活動する間に……生きてる間に……改革? ってやつが終わるかはしらん。終わらねぇ可能性も全然あるだろうな。ただ、少しずつでも部下や下の人間を正しく評価できる人間がいれば、徐々に……徐々にだが、染まった思考を変えることが出来る筈だ」
「思考を変える……」
「良い言い方をすれば改革。悪ぃ言い方をすりゃあ、思考の上書き……洗脳だな」
「っ、ふふ。本当に悪い言い方だね」
勘弁してほしいと思いつつも、アドレアスはイシュドの言葉を否定するつもりはなく……それほどの意識を持って取り組まなければならないことを解っていた。
「諦めるか?」
「まさか……私は諦めないよ」
「ふっ、そうか。んじゃ、学園にいる間ぐらいは斬り合ってやるよ」
手招きするイシュドに、アドレアスは笑みを浮かべながら細剣の柄を掴み、鼓動を高鳴らせて勝利を掴むためにその切っ先を伸ばした。




