第四話
翌朝、オルスはあくびをしながら、兵舎のドアを開ける。
「おっ、勇者様のご登場だ」
仲間達が茶化してくる。寝不足の顔、目が赤く腫れていた。
「そこの掲示板見ろよ。この三日間は訓練はないそうだ」
「こんなじゃ、剣もまともに振れねえよ。なあ、オルス。朝まで飲みまくったのか?」
「いや、すぐに家に帰ってきたよ。共同墓地には行ってきたのか?」
「ああ。一つの墓に十人は埋葬されている。今も、遺体を運んでいるよ。まだまだ増える。南西の森にできているよ」
「そうか……」
「行くのか?」
「見張りが終わったらな」
「お前は今日、見張り塔からただ見ているだけだろ。俺がやっておいてやる。行って来いよ」
仲間は酒瓶をくれた。
「ありがとう」
オルスはそのまま、南西の森へと歩いていく。森の中に入ると、一気にひんやりとした空気に変わった。反射的に目配りをしていた。わずかな草の揺れも、すぐにロングソードを掴んでしまう自分がいた。
一度立ち止まる。耳を澄ます。微風がオルスの体を通り過ぎ、葉を揺らす。少し肌寒く感じた。それだけだった。オルスはまた歩き出す。ロングソードから手は離れていた。
向こう側に日の光が見えた。そこは平原で、一面がよく見渡せる。目の前に、墓があった。
土が盛られ、部隊ごとに専門の武器が突き刺さっている。
「テッド」
杖が刺さっている墓に、テッドがいた。昨日、城に置いてあった高級ワインを、杖にかけていた。
「こんな事しても、喜ばねえよな。こいつらだって、死ぬ覚悟で戦ってくれたんだ。なのに、俺達だけが英雄扱いだ」
「みんな、泣いていた。酒場で仲間の為に飲み続けたみたいだ。あいつららしいよ」
オルスの頬に、雫がこぼれる。指先で拭い。顔を上げた。テッドも同じように、顔を上げた。いつの間にか曇天になっていた。
「こりゃ、一雨くるな」
やがて雨粒が、二人の体を濡らしていく。二人は無言のまま、城へと帰っていった。
「オルス、準備はいいか?」
馬車の前で、ウラシュが質問をしてきた。
「はい」
「では行くぞ」
二人が馬車へと乗ると、ゆっくりと動き出した。
さて、勇者は一人だけです。でも、魔王達と戦ったのは、兵士達です。
本来なら、彼らも勇者です。ですが、いつか忘れ去られてしまうのでしょう。
オルスだけが、語り続けられてしまう。誰かが伝え続けていかない限り。
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