27 アウリオンラジオ・2
「……あ。復旧した? 復旧したみたいです。良かったー」
「リスナーの諸君、始まって早々に放送が途切れてびっくりさせてしまったね。どうやら南西の方角で誰かが強力な雷撃魔法を使用したようだ。それで電波が乱れてしまったらしい」
「もう大丈夫です。すみませんでした」
「おや? なぜツバサが謝るんだい?」
「え? うーん、こういうときは謝るものだと思ってました」
「我々にはどうにもできん問題だ。仕方あるまいよ」
「はぁ……そうですか。そうですね。こういうところは異世界的な感覚だな」
「まぁ、俺の美声を聞くはずが、不快なノイズを聞く羽目になった乙女たちには申し訳なく思うがね! 待たせてしまった分、存分に堪能してくれたまえ!」
「あ、ハイ」
「はは、気を取り直していこう。挨拶からいくぞ! アウリオンラジオ昼の部! 虹の日のパーソナリティ、陽気な王宮理容師・カエルムだよ。ごきげんよう、麗しき乙女たち」
「え、えっと、こんにちは。記憶喪失の異世界人、ツバサです。本当は光の日の夜の担当なんですけど、今日はピーコックさんが体調不良でお休みなのでオレが代わりに来ました。頑張ります」
「急な出演依頼だったのに、ありがとう。よろしくね。でもピーちゃんの体調不良は嘘だよ。今日はお見合いさ」
「ちょ、バラしていいんですか!?」
「はーはっは、いいのさ! 破談になってほしいからね。ピーちゃん、一人だけ抜け駆けはさせないぞ! このラジオで新婚のノロケ話なんてさせない! 断固阻止させてもらおう!」
「うわぁ、ひどい理由」
「というわけで、彼女の体調を心配するお便りは不要さ! 俺へのラブレターならいつでも歓迎だがね!」
「無茶苦茶だな、この人。えっと、ピーコックさんのことはそっとしておいてあげて下さい。……あ、スタッフさんからカンペが出ました。『早くお便りを読むように』って感じかな?」
「ふむ、任せたまえ! ラジオネーム“ウサギの涙”さんから。『みなさん、こんにちは。勇気を振り絞って初めて投稿します。ズバリ、恋の相談です』……どうやら女の子みたいだよ!」
「こんにちは。初のお便り、ありがとうございます。でもいいのかな。男二人で聞いちゃって」
「何の問題もない! 得意分野だ!」
「すみません、不安しかないです。でも、続きを聞かせてもらえますか?」
「心得た! 『わたしは今年の春に王立学院に入学したのですが、同期生の男の子に一目惚れをしてしまいました。背が高くて、明るくて、優しくって……とってもカッコいい人です。おまけにすっごく強いんです!』 なんと! 俺のような若者が今年の学院にいるのだな。惚れてしまうのも無理ない。なんと罪深い……俺」
「スルー検定中だと思えばいいかな。学院の生徒さんか。もしかしたらオレも会ったことあるかも?」
「案外想い人がツバサのことかもしれないぞ?」
「はは……背が高いと強いという時点でないですね」
「それは残念。『でも、彼には好きな女の子がいるみたいです。いつもその子ににこにこと話しかけています。その女の子の性格のことはよく存じ上げませんが、とても綺麗で優秀な子です。彼女のような子が彼のタイプなら、平凡なわたしは全然相手にされないと思います。この片想い、胸にしまっておくべきか、玉砕覚悟で告白すべきか悩んでいます。彼に迷惑はかけたくないし、かといって諦める方法も分かりません。どうすればいいでしょうか?』……だって。切ないねぇ、ツバサ」
「…………」
「どうしたんだい? 放送事故だと思われるよ」
「あ、ごめんなさい。何でもないです。片想いか。それはシンドいですね。カエルムさんならどうしますか?」
「無論、突撃する」
「わぁ、潔いというべきか、なんというか」
「自分の心に正直に生きるべきだ。今この瞬間に感じたことは、今この瞬間に吐き出す。特に恋愛は早い者勝ちだからね。情熱的にアプローチすれば、もしかしたら想いが通じるかもしれない」
「おお、格好いいですね」
「だろう? ツバサならどうする?」
「オレは……そうですね。相手に他に好きな人がいるって確定しているなら、諦めちゃうかな。告白もせずに胸に秘めておく。相手と気まずくなっちゃうのも嫌だから」
「むぅ、奥ゆかしいんだな」
「ヘタレとも言いますね。いや、オレは自分が恋していた記憶がないんで、全部想像なんですけど。オレとカエルムさんの考え方が全然違うように、こういうのって人それぞれだと思う。正解はないんだ。“ウサギの涙”さんが後悔しないような選択ができることを祈っています」
「良いことを言うじゃないか!」
「そ、そうですか? なんかちょっと恥ずかしいな。ん……あ、えっと? 少々お待ちください。緊急のニュースがあるみたい。さっきの電波障害と関係あるのかな?」
「ほう? ……これは心配だ。電波障害とは関係なさそうなんだが、大事件だよ。原稿は俺が読もう」
「あ、お願いします」
「六日前、ディレー王国の勇者タウロが殺害された。下手人は十番目の魔王子、オクト。一対一の一騎打ちだったようだ」
「え? 勇者が負けて……殺された?」
「その後オクトは聖剣エルナトを奪い、ディレー王国から姿を消したらしい。どうやらこの魔王子は単独で王国に侵入したようだな。魔王軍に占拠されたという情報はないが……被害は甚大だ。かの国は今、大混乱に陥っているだろう」
「で、ですよね。えっと、詳しい被害状況はまだ分かってないみたいです。カエルムさん、すみません、ディレー王国というのはアウリオンから近いんですか?」
「大陸の西の端だね。アウリオンとは隣接していない。それでも今後、いろいろと影響が出てくると思う。我が王国は聖剣を有していながら、現在は勇者がいない。もしもオクトの目的が聖剣の奪取にあるのなら、狙われても不思議ではないな」
「え、そんな……」
「しかぁし! 王都民の諸君、いや、アウリオンに暮らす全ての者たち! 不安だろうが、どうか落ち着いて行動してほしい! 幸か不幸か先のアポロ戦線を顧みて、我が王国の軍備は増強傾向にある! 魔王子一人に後れを取ることはないだろう! 我々は苦渋の歴史を持つゆえに、二度と聖剣を奪われることはない!」
「安心していいんですね?」
「もちろんさ!」
「……なんか、カエルムさんにそう言ってもらえると、大丈夫な気がしてきますね。死ぬ気がしない」
「だろう? 俺ほど頼りになる男もいまい」
「実際に王国を守って下さるのは軍の方々ですけどね」
「言うじゃないか、ツバサ――」




