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汀線とのこと


 ふと思ったのだが、プレイヤーを倒したところで経験値がほとんどなかったのが気になる。

 まぁ今回は完全にクレマシオンたちから喧嘩を吹きかけてきたのであってもなくてもいいのだけど。


「イベント中はそういうのがないんじゃないですかね? ほら前のイベントもプレイヤーを倒しましたけど、経験値ほとんどありませんでしたから」


 そうセイフウが言う。そういえばこの子たちもあのチーム戦に参加してたらしい。

 なんでそういった曖昧な表現なのかというと、あの日双子は大会後半戦で決着がついた後、すぐにログアウトしたんだと。


「シャミセンさん、とりあえずお返ししますね」


 セイフウがトレードで、オレがやった回復ポーションを送ってきた。


「私も、[玉兎の法衣]をお返しします」


 そう言いながら、メイゲツが羽織っていた[玉兎の法衣]を脱ごうとしているのをオレは制止する。


「いや、イベントが終わるまで装備しててくれ。セイフウの回復はメイゲツの魔法があるしな」


 [玉兎の法衣]の効果なら、メイゲツ自身の回復はあまりしなくても大丈夫だとは思う。

 逆にMP回復ポーションは多めに持っておいたほうがいいだろう。

 さいわい、メイゲツ自身が法術士だからということもあって、白水からMP自動回復の装飾品をもらっていたようだ。

 それを自作で作れるのだから、白水さんのDEX、ハンパねぇ。…………


「そういう線で行くのなら、しばらくお借りしていますね」


 メイゲツは虚空にウィンドゥを表示させた。


「えっと、私のは自動で回復するから、補助を多くしたらいいかな」


 チラリとメイゲツのウィンドゥを見ると、回復系の魔法をストックに入れていた。回復のほかにもステータス上昇の補助系魔法もある。


「セイフウが攻撃で、メイゲツが補助か……」


 なんかイメージどおりだな。



「そういえば、もう十四時間くらい経ってるんですね」


 セイフウが言うように、クエストの残り時間は[57:37]と表記されている。


「でもここってボス部屋とかじゃないですよね? なんでモンスターが出てこないんでしょうか?」


 メイゲツが怪訝な表情でオレに視線を向ける。


「あぁ、なんかそういう場所があるんだろ」


 オレはそう言いながら、メッセージボックスを調べてみた。



[ビコウさまからメッセージが届いています]



 やっぱり。ビコウが去ってからすぐ、彼女からメッセージが届いている。

 オレはどうにもビコウからなにかしらアクションがあるとは思っていた。



『偶然なのかなんなのか、ちょうどシャミセンさんたちがいる場所は、水晶宮の中にあるボス部屋以外の休憩所になっていました。』


 …………らしい。


「まぁ、クレマシオンも自分が隠れている場所にモンスターが出てきたらセイフウ置いてきぼりにしてそうだな」


「怖いこと言わないでくださいよ。ただでさえ呪術でなにもされてないのに痛い思いしてたんですから。身体の背骨や肋骨にヒビが入ったみたいな」


 セイフウが涙目になってオレに詰め寄る。


「まぁ、助かったんだからいいじゃないか。それにあいつらより先に出口用のモニュメントを見つけて、さっさとこのステージからおさらばしようぜ」


 オレは頬をふくらませるセイフウの頭を撫でるようになだめる。


「それは……反論しませんけど」


 あら、けっこうしおらしい。

 オレはそう思いながら、メイゲツを一瞥する。

 そのメイゲツも、セイフウはあまり普段こういう態度を取らないのだろう。

 おどろいたような、複雑な表情を見せていた。



「さて、周りが暗くなったのは、たしか残り時間が五十九時間の時だったな」


「その時間が夕方六時とかそこらへんなら、五十時間になった時に、いちど外に出て確認してみたらどうですか?」


「それだとここでしばらくは休んでいたほうがいいですね。ほかにもプレイヤーが来るかもしれませんけど」


 話がまとまった。とりあえずはここで宿を取ろう。

 そしてメイゲツの言うとおり、五十時間になった時に行動を再開する。

 最悪、クレマシオンとかプレイヤーキラーじゃなければ、もう誰でもいいです。



「それにしても……」


 セイフウはクンクンと自分の腕のにおいを嗅いている。


「あいつらになにかされたのか?」


「あ、いや……砂埃とか汗とか臭うかなって」


 ゲームなんだからそこまでリアルにはならないだろ。


「それじゃなくても、私結構汗をかきやすいですから」


 あぁ、たしか子供弓道やってたんだっけ?


「セイフウの弓道着姿かぁ、一度見てみたいな。さぞかしキリッとしていて凛々しいんだろうよ」


 オレがそうボソリとつぶやいた時だった。


[メイゲツさまからメッセージが届いています]


 インフォメーションにメッセージが届いたことが表示され、確認してみると、メイゲツからメッセージが届いていた。

 中を確認してみるとメッセージはなく、ただ一枚の添付画像があるだけ……。


「…………」


 オレはただ静かに流凪ちゃんを見た。


「えっ? どうかしたんですか?」


 首をかしげるように楓ちゃんがオレと流凪ちゃんを交互に見渡す。


「なんでもないよ。ほら食材アイテム出して、お腹が空いては戦はできぬってね」


 流凪ちゃんはちいさく笑みを浮かべる。

 それが納得いかず、楓ちゃんは流凪ちゃんのあとを付いて行きながら、さっきの態度についてたずねていた。

 そんな双子をオレは目で追いながら、流凪ちゃんから送られてきた画像に視線を向けた。


「あはは、これで凛々しいとは言えないか」


 流凪ちゃんから送られてきた画像は、楓ちゃんが大会で好成績を出した時の写真。

 凛然としたものとはだいぶかけ離れた、はしゃぐように喜悦の表情を浮かべている弓道着姿の楓ちゃんがそこに写されていた。



 さて、あれからしばらくしてのことだ。

 今現在、オレの両サイドに双子がいる。

 二人は目を点にしており、この状況が把握できないでいた。

 もちろん……オレも――なにがどうしてこうなった?



「うぉ、いい匂いじゃねぇか」


「きゃぁ、焼き肉よ。焼き肉っ! あっ! 玉ねぎ持ってる人いない? こっちナス出すだわよ」


「ピーマンはありますかい? もしくはミンチ状にしたお肉。これで肉詰めして上にチーズを乗せた蒸し焼きとか」


「なにそれ? 食いたいっ!」


「こっちは牛鬼の肉持ってるぜっ! Tボーンもあるぞ」


「うぉっ、マジですかい? ならこっちはトントン豚のヒレがあるぜ」


「うほっ! じゃぁこっちは手製の豚足だ。甘辛醤油でじっくり漬け込み、焼いた絶品だ」


「えっ? 豚足って焼くの? 茹でるんじゃなくて?」


「なんか地域によって調理の仕方が違うらしいな。あ、ちなみに俺は焼くほうです」


「あれ、美味しいけど手がベタベタして食いにくいのよねぇ」


「それがいいんですよ奥さん。あ、こっちはリンゴの漬け酒があるぞ」


「なら、こちらはワインと洒落込もうか」


「牛のステーキなら赤だろ」


「ってか、飯ないの? 飯。焼き肉には白い米だろうが」


 と、休憩場所には、フィールドが完全に暗くなってきていたのか、他のプレイヤーがワンサカ集まってきており、各々(おのおの)所持していた食材アイテムや加工食品アイテムを肴に宴会が始まっていた。



「え、えっと……どういうこと?」


 メイゲツが唖然とした表情でつぶやく。

 まぁ、この部屋自体は誰でも入れる場所だから、文句は言えないのだけど、かと言って集まり過ぎな気がする。


「あぁ、すまんねぇ。元はといえばうちの子があんたらの邪魔をしちまって」


 大柄な男が繭尻を下げながらオレに声をかける。

 その男の足元にはちいさな狼モンスター。どうやらコンバーターらしい。


「いや、別にいいですよ。さすがにこんだけ集まるとは思ってませんでしたけど」


 なんかそのテイマーの話だと、双子が料理をしていた匂いに連れている狼が気付き、ここまで連れてきた。

 で、せっかくだからその人のパーティーメンバーをここに呼び、東海のフィールドで探索をしていたフレンドにメッセージを送った。

 それこそ数珠つなぎとなってこの状況である。



「でもみなさん、ボスを倒したんですよね?」


 セイフウが、焼肉パーティーをおっ始めているプレイヤーたちにたずねる。


「あぁ、でも出口用のモニュメントが全然見つからないんだよ」


 そう言いながら、一人の、剣士系のプレイヤーがメダルのかけらを掲げる。

 他のプレイヤーたちも、皆、同じようにメダルのかけらを掲げた。

 みな、東海ステージで手に入れられるメダルのかけらで、デザインが一緒だった。


「バグッてるとかそんなんじゃないですよね?」


「まさかぁ、いくらなんでもそれはないでしょ」


 女性プレイヤー二人の会話が耳に入り、オレは肩を落とす。

 その仕草に気付いた、その女性プレイヤーが二人とも目を点にした。


「えっ? マジ? ありえるの?」


「あり得るかもしれないっすねぇ。ほら『魔の日曜日』」


 オレがはじめてデスペナを食らった日か。

 たしかにアレも盛大なバグみたいなものだったけど。


「し、信用ならねぇ。もしかしたらオレたちをここに閉じ込めて、トッププレイヤーだけ先に進めるつもりか」


 一人、また一人と、運営に対して不満をぶちまけ始めた。



「シャミセン……さん」


 声が聞こえオレはそっちに振り向くと、そこにはマリカとそのパーティーを組んでいる剣士・戦士・弓師のメンバーが一緒にいた。


「もしかして、キミたちも?」


「はい。あれから私たちもしばらく見て回ったんですが、どうやらフィールドにそのようなものがあるというメッセージがないんです」


 オレがフレンド登録しているので、今クエストに参加しているのは、双子とセイエイだ。

 そのセイエイはすぐに他のステージに行っているから、やはり出口用のモニュメントがないのはおかしい。



「ここで皆さんが集まったのもなにかの縁かもしれません。会食をされながら聞き流すだけでもよろしいので、オレの話を聞いてください」


 オレがそう言うと、皆、箸を止めはせずとも、意識をオレに向けてくれた。


「実はここにいるマリカというプレイヤーがデスペナを喰らうほどの穴に落ちたそうなんです。そういうトラップになにか心あたりがある人はいらっしゃいますか?」


 その問いかけに、五人ほどのプレイヤーが挙手をする。

 しかもそのほとんどが一撃で死亡。スタートの時点まで飛ばされたそうだ。


「その場所がどこなのか、覚えてますか?」


 オレはその五人とマリカを自分のところに呼び寄せ、フィールド画面を拡げてみせた。



 六人の話をまとめると……皆、水晶宮を中心に、ふたつの三角形になる形で落ちていた。



「これって見ようによっては六芒星ですよね?」


 セイフウがそうオレに言う。


「その中心にモニュメントが?」


「いや、これだけみんなが探しているんだ。そんな安易なものじゃないだろう」


 なにか……他にやるべきことがあるということか?


「普通、クエストのボスを倒したら、その近くに現れるはずですよね?」


 メイゲツが何気なしにといった表情を浮かべる。

 ボスであるゴウコウを倒した後、オレと双子はボス部屋を隈なく調べている。

 そのさいに、なにか変化があったのかというと、ほとんどなかった。


「でも、その落とし穴、ほんといきなりだったんですよ。なんか急に足を引っ張られるみたいな」


「あ、オレの時もそうだった」


 ……と口々にそうだった、そうだったと、マリカと穴に落ちた人たちは同意している。共通して、皆足を引っ張られたと言うようだ。



「……六芒星か――」


「なにかわかりました?」


 メイゲツがオレの顔を窺うように聞いてきた。

 それを応えるようにオレは首をふる。

 いや、まったく全然……というかヒントが漠然としていてわからん。


「そういえば、ここって海の世界らしいですね」


 一人の女性プレイヤーが口を出した。


「海の中……か――」


 オレは、不意に上を向いた。

 そしてあることが思い浮かんだ。

 マップでの水晶宮は、ただたんに四角い影絵でしかない。

 それなら図面で見るより、上から見たほうがいいな。



「あのみなさん、要らなくなった布とかってあります?」


 突然のことに、その場にいたプレイヤーが全員が、なにをいってるんだろうかと首をかしげた。


「いちおう素材用に持っていた法衣とか、素材用の布ならあるけど、それがどうかしたのか?」


「その四隅を結びつなげて、大きな布にして欲しいんです。最悪オレが落ちても死なないように」


 その言葉に、プレイヤーたちは更に唖然とした。



 それから二時間後、その場にいたみんなで協力し、使い古しの法衣や素材用の布を寄せ集めたものをつなぎ合わせ、一枚の大きな布へと作り上げた。


「よし、それじゃぁ、それを持って力や回復魔法があるプレイヤーはオレについてきてください。他の皆さんにもちゃんとあとで説明します」


 オレはそう言うと、もしもオレがみんなをおいて逃げないという証拠として、[紫雲の法衣]を皆の前で脱いだ。

 これで裸……とはいかないけど、完全に無防備だ。


「そこまでされては、オレたちは別にシャミセンさんを信じていないわけではないですが、とにかくなにかわかったら連絡をください」


 部屋に残るプレイヤーと、フィールドに出るプレイヤーの二組に別れる。

 ちなみに双子は残る側になってもらった。

 最悪[紫雲の法衣]が盗まれるかもしれない。そのための保険だ。



 さて、オレと外に出るプレイヤーは水晶宮から出ると、すこしばかり広い場所へと進んだ。


「周りにモンスターが出たらどうする?」


「そこはオレたちに任せろ。お前たちはしっかりシャミセンさんがなにをしようとしているのか見ていてくれ」


 大柄な戦士系プレイヤーがそう周りを鼓舞する。

 パーティーのリーダーだけあって、頼りになりそうだ。



「ほんじゃまぁ、確認しますか」


 右手を高々と掲げるや、[土毒蛾の指環]の効果でオレの身体はゆっくりと浮揚し始めた。


「すげぇ、空飛んでやがる」


「これが[土毒蛾の指環]の実力か」


「もうさ、シャミセン、トッププレイヤーでもいいんじゃね? オレたちの斜め上いってるし」


「オレ、今度別のゲームをやるとしたら、運に極振りしようかな」


 なんか下の方で布を四隅で引っ張っているプレイヤーたちがオレのことを言っているけど、気にしないでおこう。

 というか極振りはやめたほうがいいし、まずオレのステータスは基礎の時点で極振りじゃない。



 [土毒蛾の指環]の効果は、あくまで浮揚時間で、空が飛べるというわけじゃない。

 もし効果が切れて下に落下しても、マット代わりに作った布で助かるかもしれない。

 いや助かる。……助かってほしい。



 上空から水晶宮を見下ろしてみると、ある違和感に気付いた。

 水晶宮は完全に四角の中に円ができていた。

 そしてその中心に、モニュメントが設置されているが、どこからどう入ればいいのかわからない。


「中からじゃ気付かないわけか。どんだけ人をおちょくってんだ?」


 さすがに運営には怒りを覚える。

 ダンジョンは四角だ。円形の中に四角を作るというのは無理な話だけど、もしかするとフィールドとダンジョンはもともと違うデータだったと考えられれば辻は通るかもしれない。

 ふと、ビコウもそれを知っていたのかもしれないと思った。

 だからこそヒントを与えなかった。

 もしかするとオレだったら、このことに気付くんじゃないか、そう思ったのだろう。

 さすがに買いかぶり過ぎな気がするけど。

 ただ、そこまでどうやっていくべきか。

 そう思いながら、スクショを撮った時だった。



「あっ?」


 途端、ガクンと足が引っ張られ、オレは地面へと引き寄せられていく。

 どうやら[土毒蛾の指環]の効果が切れたようだ。


「オーライ、オーライッ! ちょっと右、いや左か?」


 下で救援に入るプレイヤーの声が聞こえた。

 落ちていくオレは運良く布に身体が包まれたのだが、思いの外落下速度が早かったのか、大きくバウンドしてしまい、布から食み出て地面とくちづけ……そのまま気を失ってしまった。


汀線【ていせん】……海面または湖面と陸地との境界線。

というタイトルどおり、今回はフィールドとダンジョンがそもそも違うデータという暗示でした。

そろそろ第一ステージも佳境です。

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