後顧の憂いとのこと
「よし。もう大丈夫みたいね」
ビコウがスタッフ専用のサーバーにアクセスし、ボースさんと連絡を取り合っていた時だった。
「運営に連絡をして、呪術の発動制限をいくつか修整してもらいました」
「具体的にどんなことなんだ?」
「まず、プレイヤーが鍛冶スキルで作製できるオリジナル装備に呪術を使えなくしたこと。もうひとつは呪術解除ができるNPCや魔法の実装ですね」
ビコウは指折り数えるように説明する。
「ようするに運営が用意した呪い前提の装備品以外は広まらないってことでいいのか?」
「そういうことです。でも、なんであのラプシンは[カース・ノア]なんて上級魔法を? それに兄に調べてもらったら弓師だっていうし」
「レベルは……私たちと同じくらいでしたからね」
壁にもたれるように坐っていたセイフウが、唸るようにつぶやく。
「そもそも、呪術はまだ実装されていない魔法なんですよ」
「ちょ、ちょっと待て? それならケンレンのはどうなんだ?」
オレがそうビコウにたずねると、
「ケンレンの職業である死霊術師のスキルは、あくまで倒したプレイヤーやモンスターの魂を使うものですから呪術とは少し違います。云ってしまえば召喚魔法と似たようなものですね」
と、答えた。
「でも、実装していないはずの呪術をどうやって?」
メイゲツが警戒するように険しい表情でビコウを見ている。
「それがわたしにもよくわからないところね。以前シャミセンさんに教えた結界魔法陣はまだテストの段階だったけどしっかりと発動はできたし、ある程度の条件があるとはいえ、今使っているプレイヤーもいるくらいだし」
チラリとビコウがオレを見る。
たぶん、オレがあれから一度も使っていないことが気になっているのだろう。
理由は簡単。スキル覚えるための魔法の書が高額だから。
さすがにひとつ一万Nは手が出しにくい。
しかもINTのポイントがかなりないとムリっぽい。
「それはそうと」
ビコウは、オレが頭に装備している[玉龍の髪飾り]に手を添えた。
「いくらシャミセンさんの運がいいからって、最初のレイドボスを倒した恩恵に[玉龍の髪飾り]を手に入れるって」
「そういえばこの髪飾りの説明文だけど、途中からバグってたんだが?」
「そうですね。だってそれ……誰も手に入れられるとは思えない確率に設定していましたから、ほとんど装備の設定が手付かずだったんですよ」
ビコウがあきれた表情を見せる。
「それを引き当てるって……」
そうつぶやきながら、ビコウは虚空を指でなぞった。
ちなみに手に入れられる確率は1/65535だったらしい。
もしそれが本当だとしたら、ドロップさせるつもりなんてもともとからなかっただろ?
「よし、今のシャミセンさんのステータスから考えると、これくらいでいいかな」
「な、なにをしたんですか?」
双子が怪訝な表情でビコウを見ている。
「シャミセンさん、[玉龍の髪飾り]の説明を確認してください」
そう言われ、オレは[玉龍の髪飾り]の鑑定をしてみた。
[玉龍の髪飾り] I+30 L+20 ランクSR
通常攻撃のさい、モンスターにマヒ効果を与えることができる。
装備時、LUK以外のステータスの基礎値にLUKの合計値の5%増加される。
どういうこと?
あまりのことに、オレはキョトンとしてしまった。
「LUKの合計値から5%ずつ他のステータスに付加されるといったところですね」
ビコウがそう説明した。
急いで自分のステータスを確認する。
【シャミセン】/【職業:法術士】/7283N
◇Lv:23
◇HP:920/920 ◇MP:1265/1265
・【STR:14+20(10+10)】
・【VIT:9+71(61+10)】
・【DEX:19+10(+10)】
・【AGI:13+50(40+10)】
・【INT:10+100(90+10)】
・【LUK:145+60】
◇装 備
・【頭 部】
・【身 体】紫雲の法衣(V+61 I+40 L+20)
・【右 手】
・【左 手】緋炎の錫杖(S+10 I+20)
・【装飾品】女王蜂のイヤリング(L+10)
土毒蛾の指環+α2(A+40 L+10)
玉龍の髪飾り(I+30 L+20)
◇体現スキル
・忍び足
・蜂の王
・武闘術者
・刹那の見切り
◇魔法スキル
◇取得済魔法スキル
*回復補助系魔法スキル
・ヒール
・キュア
*戦闘補助系魔法スキル
・チャージ
・テンプテーション
・アクアラング
*攻撃補助系魔法スキル
・ファイア
・フレア
・ライトニング
・ライティング・ブラスト
◇魔法スキルストック
[ヒール][チャージ][キュア]
[ライティング・ブラスト][ライトニング][フレア]
LUKの合計は205。玉龍の効果でその合計の5%がLUK以外のステータスに加算されている。
そうなると、だいたい10ずつ付加されているということだ。
それから[紫雲の法衣]の効果で、VITにLUKの30%が付加される。
「それからステータス画面の部分ですが、装備品における付加も加えた合計値も表示するようにしました」
そういうのって最初のころにしません? 前々から計算しにくいとは思ってたけど。
とツッコんだら、色々とデザイン変更もしてるらしい。
「といいますか、シャミセンさんのステータスって傍から見るとほんとおかしいですよね。[紫雲の法衣]なんてLUKが低いとそこら辺の装備品より弱い防御力になるのに、他の装備品やそもそも基礎の時点で150になろうとしているから」
基礎だけでも43の付加はいくってことになるわけですからな。
「まさか冗談半分で決めたプレイスタイルがこんなふうになるなんてねぇ……ははは……」
もう自分でもわけがわからない。笑うしかない。
「これだとあの子にあげた装備品が弱く思えてきた」
ためいき混じりにビコウは頭を抱えた。
「あの子って、セイエイのことか?」
そうたずねるや、ビコウはちいさくうなずく。
「あの子がレベル20にいったあたりのころに私がプレゼントしたんですよ。[忌魂の洋装]というやつですね」
あぁ、あのビキニアーマーみたいなやつか。
「どういう効果があるんですか?」
「倒したモンスターのHPの10%を吸収して回復する、ドレイン系の装備だね」
「それ、今のセイエイに要るのか?」
オレが怪訝な表情でたずねる。
それに応えるかのように、ビコウは両手を大きくひろげ、
「もうやったもんはしかたがないですよぉ」
と、哄笑した。
それこそ、たとえるならあの顔文字のように、あきらめたといった表情だ。
「このゲームを教えたのは兄だけど、ほんとあの子、ゲームの事になると鬼かかってるわ。普段はボーとしていて、つかみどころがないのに」
ビコウ自身も、セイエイのバトキチについては、もはや笑うしかなかったようだった。
「あ、それからシャミセンさん。あなたやセイエイのメッセージにあった[ワンチュエン]についてですけど」
「なにかわかったのか?」
オレは詰め寄るようにビコウを見た。
「[ワンチュエン]というのは中国語で[完璧]という意味があるんです」
ようするに、チャージの限界を超えたやつだったってことですか?
オレがそんな事を聞こうとしているような表情をしていたのだろう、
「完璧なんて攻撃されたり、逆に攻撃が外れてしまったら意味ないですよ。それに私はあまり完璧という言葉は好きじゃないですし」
ビコウはちいさく苦笑を見せた。
「完璧の中にも失敗はあると思いますよ。私から言えば究極――中国語でいえば『ジジアン』とでも云ったほうがいいですかね」
「でもスキル図鑑にそれが入っていないことがどうにもな」
「たぶん、あるとは思いますけどね」
そう言いながら、ビコウは虚空に魔法スキルの図鑑を表示させた。
その項目すべてに魔法の名前が記されている。
「すげぇ?」
「ちょ、ちょっと? これ全部覚えてるんですか?」
オレと双子は、埋め尽くされた項目を目の前に唖然としていた。
「全部はさすがにムリだって。これは体現や魔法のスキルを調べるためにあるだけ」
今、オレたちの目の前にビコウのデータは、あくまでイベントを監視するためのもので、本来のデータは他のフォルダに保管されているそうだ。
「っと、あったあった」
ビコウが、それこそ百を超える魔法スキルの一覧から、目的の[ワンチュエン]を探し当ててくれた。
[ワンチュエン] 属性・陽
チャージの上級魔法。発動条件はチャージの状態で10秒待機。
魔法効果を+50%にすることができる。
使用後、6時間のフレッシュタイムが必要となる。
効果が強力な反面、フレッシュタイムの時間が半端じゃない。
たださっき見た魔法や体現スキルの一覧には載っていなかったことが気になる。
「おそらくですが、チャージの変化魔法だからストックが二重にならないのと間違えないようにじゃないでしょうか。チャージをストックしておいて、条件を満たせば変化すると考えてもいいでしょうね」
つまり表記上[チャージ]のままだが、エフェクトが金になれば[ワンチュエン]に変化するということか。
「でもなんでセイエイはそれを知らなかったんだ?」
「いや、セイエイはあまりチャージ系の魔法を使うってことはないですからね」
あ、それはさすがにオレでもわかった。
「あの子、バトキチになると目の前のモンスターを問答無用で倒すからなぁ」
「ある程度は魔法を覚えてますけど、あの子のステータスはSTRとAGIに特化した、特攻タイプのガッチガチの前線ステータスですから」
おそらくセイエイが一人でプレイをしていて、サクラさんがいないことを考えてだろう。
今では信じがたいが、初期レベルのころはよくデスペナになっていたらしい。
ほとんどの理由が回復忘れ。それを見兼ねたビコウが、モンスターを倒すと自動で回復できる[忌魂の洋装]をプレゼントしたということだろう。
「それから[紫雲の法衣]ですが、もともと装備していた[水神の首飾り]が成長したからじゃないですかね」
「装備品の熟練度って、鍛冶をお願いする時の条件とかじゃなかったんですか?」
「ある程度の条件はあるだろうけど、ほとんど新しい装備品や、それがいいやつだと装備を変更するからね。熟練度はあくまで装備している時間が長いほど成長するから。以前シャミセンさんがセイエイと一緒に『玉女穿梭』のシュエットさんから作ってもらった[玉兎の法衣]は、元々の[火の法衣]が最高レベルの熟練度になっていた。だから本来ないはずのステータス異常の回復効果が出たと言ったところだね」
そういえば、[水神の首飾り]って、最初に参加したあのチーム戦イベントが終わったあたりからずっと装備していたから、時間的にもかなり成長していたということか。
そしてあの瞬間、まるでオレやメイゲツを守るかのように、進化したのだろう。
「ですから私としては、シャミセンさんはそのまま[紫雲の法衣]を装備しておいたほうがいいんじゃないかと思うんです。[玉龍の髪飾り]の相乗効果でかなりVITが強くなっていますから」
ビコウの言うとおりならば、このまま装備しておいてもいいだろう。
メイゲツ……場合によってはセイフウに[玉兎の法衣]を装備させて、イベントが終わったら返してもらうか?
「……ただでさえ攻撃魔法が無効になる確率が60%の時点でおかしいし、五分の一とかならまだしも、二分の一って……」
ビコウが俯きながらブツブツと愚痴をこぼす。
聞こえてるけど、オレ自身そう思ってしまったのでツッコまないでおいた。
「それじゃぁ、私は他のプレイヤーの監視もしないといけないので」
「そうだ。出口のモニュメントの場所を教えてくれないか? いくら探しても見つからないんだよ」
オレの問いかけに、ビコウは人差し指を口に添えながら、
「それはクエストの手助けになってしまいますから、禁則事項です」
とちいさく笑みを浮かべ応えるや、、光の粒子となって消えた。
フレンドリストを確認するとビコウの項目がグレーに変わっている。
「はぁ、あくまで自力で探せってことか……」
ビコウが消えた虚空を見上げながら、オレはヒントくらいは残してほしかったと愚痴を出していた。
書いてる本人が一番おどろいてますが(基本あまり深く考えてない)、シャミセンのステータスはレベルの差はあれど、トッププレイヤーに匹敵するほどまでに成長しています。
近々運営からの装備効果の修整とかありそうですな。




