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己の目的を賭けて

 この頃、あいつの様子がおかしい。

 いつもなら仕掛けてくる悪戯はなく、目の周りには隈が出来ている。食事を取っているところも最近見ておらず、心なしか痩せたように見える。何より不自然だったのは日中は傍を離れずにいることと、夜中はふらふらと外に出掛けていくことだった。現に今も、部屋の端の方で本を読んでいて同じ空間にいる。しかし、その目には覇気がなく、読んでいるというより眺めているという感じであった。


「お前、字読めるんだな」


 文字の読み書きを出来る人は限られている。子供も大人も勉学より労働を優先させるためだ。専属の教師がつく上流階級を除いては。


「ん、嫌々習ってた。将来必要になるからってな」


 上流階級に仕える近衛騎士の家系、シラルガン。

 忠実で真面目である性格な彼らは貴族達に従者、右腕としての役割に重宝された。


 アルゼリータも、まだ城で暮らしていた時にシラルガンの名を持つ者がいた事を思い出した。でも、その時はピンクの髪なんていなかった。大抵が青い髪であり、精悍な顔付きをしていたが。


「シラルガンはいくつかあって、髪の色で分類されるんだ。赤とか青とか。みんな戦いは好きだし頭もキレる。でも、ロゼは元々争いは苦手な平和主義だから。もちろん、活躍してたロゼもいるけど」


 平和主義なロゼでも、シラルガンはシラルガンだ。仕える主がいて、その下で動き真価を発揮した。


「お前も、誰かしら仕えてたのか?」

「いんや、……その前に、全滅、したからな」


 自分の主が決まる直前に、ロゼの系統は滅ぼされた。


「正確には全滅したと思われている。オレがいく予定だった所も別のシラルガンを入れたらしい。実際、オレは生き残っている。他にもあとひ──」


 いいかけて、ロゼイルは突然その場に倒れた。糸が切れたような倒れ方に、思わずアルゼリータが椅子から立ち駆け寄る。


「おい! どうした!」


 声をかけるも、反応は全くない。腕の呪いの進行が頭をよぎったが、苦しむ様子は無く、むしろ穏やかで眠っているように見える。寝ているだけかと思ったが、首筋に細い針のようなモノが見えた。


『毒針か……!?』


警戒し、周囲を見渡すも二人以外に人の姿はない。だが確実に人がいる気配はあった。

 アルゼリータは冷気を放出させ、敵をあぶり出そうとするも一向に出る気配がない。しかし、わずかだが、潜んでいる者の呼吸が乱れた。


 それも、二つ──!


「そこかっ!」


 天井に走っているひび割れに向かって左手を突き出し、ピンポイントで氷風を当てる。

 すると、突然天井が崩れ落ち瓦礫と共に二つの姿がアルゼリータへ突進した。


「アルゼリータ様、我ら悲願のためここで死んでもらいます」

「そこの奴は毒で眠っています。自分が気づかぬ内に死に至るでしょう」


 二人の手には極小のナイフ。手に隠せる大きさとはいえ、急所に刺されば無事では済まない。

 対して、アルゼリータは無手の状態。ナイフ、剣といった物理攻撃を凌ぐ手段を持ち合わせていなかった。


「これで、終わりです」

「貴方も、ロゼも……っ!」


 為す術もなく、立ち尽くすアルゼリータに勝利を、確信したジレーガとジレーザは迷い無く頸動脈と心臓を狙いナイフを振り落とした。


 瞬間、無数の氷塊がアルゼリータの手元に集まる。それは、やがて剣の形を作り出した。

 わずか一秒にもみたない奇跡の具現。アルゼリータは剣を振るい、凶刃を打ち払った。

 剣身から柄まで、全てが氷。光を反射し透き通る青は、美しく幻想的だった。

 言葉を失うジレーガ達。対し、アルゼリータは好戦的に笑う。


「そいつを殺すのはオレだ。オレと、オレの獲物を狙った代償、当然払うんだろうな?」


 金の髪が揺れる。アルゼリータは微笑みを絶やさぬまま、切っ先を二人へ向けた。

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