彼らの戦いは終わる
アルゼリータが剣を構えると、ジレーガ達も再びナイフを眼前に掲げた。傍らに横たわっているロゼイルを見遣り、まだ呼吸があることを確認すると、アルゼリータは、一気に駆け出した。氷の剣の細やかな結晶が空に軌跡を作る。振るう度に結晶がアルゼリータの周囲を舞い、彼を美しく飾らせた。
高らかに響く剣戟は幾千にも重なり、一進一退の攻防を繰り返していた。
「はっ……あああー!」
気合いの声をあげながら、剣を振り下ろす。鉄のナイフに当たった氷の刃は砕け、飛沫が霧散する。しかし、一瞬で形が形成され、再び戦う為の武器となる。
「くっ……うう!」
この無尽蔵とも言える再生力に、ジレーガ達も苦戦した。元々、正面きっての戦闘は専門外のベルデは、長期戦に向いていない。長引けば長引く程、追い詰められていく。
しかし二対一ということもあり、分はジレーガ達にあった。
止まぬ攻撃にアルゼリータは確実に体力を消耗していく。
お互い致命傷はないが顔や服には無数の傷がつけられていく。油断すればそのまま死、根比べにも思える戦いが、突然の少女の制止で終わりを告げた。
「もうっ! やめてっ!」
悲鳴にも似た叫びを聞き、ジレーガとジレーザは動きを止めた。
「ミリエラ様……っ」
「なぜ、ここに」
彼らの計算ではまだ眠っているつもりなのだろう、心底驚いた様子でミリエラを凝視した。
「睡眠薬とか、毒とか、慣れてるから……。声は、聞こえてた。でも体は動かなくて……。もうだめ。傷つけたり、傷ついたりするのは」
走ってきたのか、髪は整われておらず息も絶え絶えに話すミリエラに、ジレーガ達はゆっくり近付く。
「約束……したわよね?」
「申し訳、ありません」
「主の為に、他者の為に剣を使う……。それを、我々は私的な理由で破りました。貴女を守る剣ではなく、私欲を満たすために剣を執ってしまいました」
ジレーガ達はうなだれていた。目標を仕留められなかった事と、主との約束を破った事への後悔が彼らの顔に滲み出ていた。
「ハヴィラル、いえアルゼリータ。わたくしの従者が失礼な事を致しました。二人に代わり、謝罪致します」
ミリエラはドレスの端を摘まみ、アルゼリータに頭を垂れた。その様子を黙って見ていたアルゼリータは、口を開き沈黙を破った。
「お前らは、元々ミリエラに仕えていた者だったのか?」
質問は、ジレーガ達に向けられたものだった。
「……拾われたのです。シラルガン一族の紛争に巻き込まれ、俺たちの一族も生き残りは二人だけになりました。傷ついて路頭に迷っていた所をミリエラ様に救われたのです」
シラルガン……
ロゼイルも、一族を根絶やしにされたと言っていた。
「もう一つ答えろ。お前達シラルガンに、一体何があった」
ジレーガ達の表情が一瞬強張った。しかし、その動揺はすぐに隠される。
「それは、彼に聞いた方が良いでしょう」
「撃ち込んだ毒は水を飲ませて体外へ排出させて下さい。そうすれば、少なくとも死ぬことはありません」
床に転がっているロゼイルを見る。相変わらずの安らかな寝顔である。
「……取引を持ち掛けられていました。我々も、シラルガン一族の中では弱い方なのです。ベルデを残す代わりにロゼを討て、と」
「オレたちは、それを受けました。紛れもなく己の弱さの所為で」
ジレーガとジレーザは滔々と語る。それは、自分に向けた懺悔の言葉だった。二人は、救ってくれた主の前で弱さと対峙しているのだ。
そんな二人にミリエラは声をかけた。
「もう行くわよ。家に帰るの。ほら、早く身支度して頂戴。こんな格好じゃ外歩けないじゃない。アルゼリータ、出兵の事はひとまず取り消すわ。」
踵を返すとジレーガ達と後に続く。アルゼリータは三人の背中を見送ると、解毒の準備の為に部屋を出た。
起きたら、洗いざらい吐かせる事を心に決めながら。
「寝てんのに、水飲めるんかな?」




