とある日の、闇の帳で
風も星もない静寂の夜。
国民連盟が構える屋敷の近く、二人はようやく語り合う瞬間を迎えた。
「よっ! 久し振り」
「ああ、元気そうで何よりだ」
ロゼイルとガルツァーは、軽く挨拶を交わし、ブロック塀の上に座る。
「髪も染めず……よくこれまで生きてたものだ。苦労したんじゃないか?」
「ああ、これでなんとか生きてきたよ。オレを生かしてくれたみんなにも、少しは顔向け出来るようにはなったかな?」
束ねられた長いピンク色の髪を触るロゼイル。口元は笑っているが、目は懐かしむように寂しげだった。
「ロゼイル、ところで……」
「よせやい。名前知ってるくせに。前みたいに呼んでくれよ。ガルツァー兄」
「そうだな。我が弟ライトイール」
一族は、皆兄弟という考えの各シラルガン一族。そのため、直接な血の繋がりが無くとも兄、姉、弟、妹と呼び合うのだ。
「ライトイール、お前の前にベルデが現れていたが、あれからどうだ? ……ちょっと痩せこけたように見えるが……」
「毎日ヒヤヒヤさ。誰かの傍にいないと落ち着かない。夜もまともに寝れていない」
ライトイールは深く溜め息をついた。
「そっちこそ、王子様元気?」
「ああ、とても健勝だ。あれから吹っ切れたように振る舞っているが、夜になると毎日思い出し泣きしている。本当にせわしない方だよ」
笑うガルツァーにライトイールはふと質問をした。
「ガルツァー兄、6年前って何してた?」
途端、穏やかに話していたガルツァーの顔が険しくなる。
「……そうだな。いつも通り、当たり前に過ごしてたよ。オレにはもう主がいたから、いつも通りお仕えしていた」
「だよな。オレはようやく主が見つかった時でさ。ロゼで最後の子供が主を持つってんで家族総出で送ってもらっていた途中だった」
その最中に、事は起きた。
一瞬にして、ロゼの系統は別のシラルガン一族に絶滅の危機に追いやられた。
ガルツァーは居場所を追われ、ライトイールは家族を全員殺された。
「今でも思い出す。シラルガンに妄言を吹き込まれ今まで仕えていた主が、手の平を返し殺しにかかる瞬間を……。まあロゼは所詮ロゼ。他のシラルガンと比べたら多少は劣るだろうがな……」
「ガルツァー兄は強かったじゃん。多分その人がバカだっただけだよ。……オレは、何にもしなかった。泣くことしか、しなかった。」
「出来なかったんだろ? お前は独り立ちが一年早かったからな。」
シラルガン一族は15の誕生日を迎える時に、初めて主に仕える。ところが、ライトイールは14歳で主を持ったのだ。
「あんまり変わらないけどね。ところでガルツァー兄、さっきの続きなんだけど……」
言いかけて、それを遮られた。
「ライトイール、6年前誰に襲われたか覚えているか?」
「え、ロートじゃないのか?」
赤髪を持つロートのシラルガン。
ライトイールからの返答にガルツァーは少し考え込んだ。
「ロートか……? オレの所は、ベルデだったんだ」
「違うシラルガン……? それって、一斉にロゼの一族を殺しに来てたってか?」
ガルツァーは静かに頷く。
「ああ、恐らく。シラルガンの中で一番非力なロゼを一気に絶やせるように、口裏合わせて同じ時間帯に実行出来るようにしてたんだろう。……助けを呼ぶ前に、殺せるようにな」
ガルツァーは続けた。
「そしてそれを実行するために、指揮をとった奴がいる……そいつが、オレたちの真の仇だ」
ロゼイルは、息を飲んで聞いていた。ロゼが集中的に攻撃されていた、そのことに言葉が出て来なかった。
「恐らくの話だが、オレはそうだと確信している。何故かまでは分からないがな」
ライトイールはそう、と呟いてゆっくり立ち上がった。
「ライトイール?」
「ありがとう、久々に仲間と話せて楽しかったよ。でも、もう終わりにしようガルツァー。オレも、ライトイールからロゼイルに戻るよ」
別れの時を告げるように風が吹き始める。
ガルツァーも立ち上がり、天を見上げる。雲が流れ星が顔を覗かせる。
「そうだな。オレたちにはもう、互いに敵同士の主がいる。ならば仕えるオレたちも敵同士。……だが、生きていてほしい、これはオレの本心だ」
敵といいつつ心配するガルツァーを見て、ロゼイルはあははっと声を出してわらった。
「優しいところ、ぜんっぜん変わってない! ガルツァーも元気でな! オレの、本!心!」
元気よく、大きく手を振るロゼイルの声が夜空に響く。
「じゃあな、ライトイール……」
もう二度と呼ぶことのない名を呟き、同胞を見送る。6年前から生き残った同じロゼ──
「お前も……てきとーなところ、全く変わってないがな」
彼もまた、兄から王子の従者に戻り、暗い夜道を歩き出した。




