令嬢は1人じゃない
ミリエラが訪れてから3日がたった。
アルゼリータから手渡された箒を手に、ミリエラは1人呆然と立っていた。掃除をしろと、言われたのはいいものの、生まれてこの方掃除をしたことがないミリエラはやり方が分からなかったのだ。
そして、箒を壁に立て掛けた。
「なんでわたくしが掃除、をやらなくてはならないのかしら……」
ドレスは動きやすい簡素な服に変わり、頭に埃除けの布を被せている。この格好からは、とても富豪のお嬢様とは思えなかった。
「働かざる者ここにいるな、だ。前来てたマルイスも一生懸命働いてくれてたぞ。ほら、仕事は溜まる一方だ」
雑巾と水の入ったバケツが床に置かれ、立ち去るアルゼリータの背中を恨めしそうに見つめると、一瞬、空中に銀の線のようなものが見えた。
「────!」
反射的にミリエラはかがみ、アルゼリータはその正体を右手で掴んだ。
それは、一本の矢だった。
「ッ! なんで、こんなものが……」
「ふむ……、あいつが飛んでこないって事は、刺客ってとこかな」
もしコレがロゼイルの仕業だったら慌てて来るはずだ。
掴んだ矢を燃やし消滅させる。灰が風に流れ散らばった。
「言っただろ。オレたちも戦争中なんだ。特にオレはいつ何があるか分からない。お前のお家事情に付き合っている暇は無いんだ」
再び立ち去るアルゼリータ。
沈黙の空間になり、1人になったミリエラに、2つの影が舞い降りた。
「参上遅れて申し訳有りません。お嬢様」
その影はミリエラに膝をつき頭を垂れた。緑色の髪と瞳、よく似た顔つきの青年だった。
「お怪我は──」
「大丈夫よ。ジレーガ、ジレーザ。それより、マグノリアの動きは?」
「はい。今のところはまだ……。」
「そう、じゃあ早く王子に来てもらわないとね」
「はい……我々にも、1つ目的が出来ました」
意味深な言葉を残しその場を去るジレーガとジレーザ。
この双子の従者はいつもこうだ。掴みどころがなく、用が終わるとすぐにどこかへ消えてしまう。
「全く! お父様も、もう少し扱い易いのつけてよねー!」
ミリエラは愚痴を言いながら、床に散らばった灰を箒で掃き始めた。




