王子の身内事情---交渉するのは令嬢---
「はーくしゅっ! へーくしゅっ!」
二度にわたる氷の猛攻を受け、すっかり風邪をひいてしまったロゼイルは、リビングで優雅に紅茶を飲んでいるミリエラを発見した。
「あら、ご機嫌よう」
「……どうも」
「ちなみにハヴィラルはまだ寝ているわ。力、使いすぎたんでしょうね」
「なんで、知ってんだ」
すると、ミリエラは口元を横に引き伸ばし微笑みの形を作る。
「当然、そのために来たんですから」
そう言って紅茶を啜る。やがて、リビングのドアが開く音がし、アルゼリータが顔を出す。髪は結われてなく、おろしている。疲労の濃さが伺えた。
「久し振りにあんなに使った……」
ぐったりしながら椅子に座る。どうぞ、と紅茶を出され、それを受け取る。
「もう一度聞くが、お前の目的は北の富豪マグノリアと戦争をするためにオレに力を借りたいと言うんだな?」
紅茶に口を付けながら問う。
「ええ、コンフィート家はマグノリア家を吸収するために、戦うつもりですわ。そのために、戦力が必要なのです。どうか、お力添えを──」
揺らぎのない強い視線にアルゼリータは困ったように頭をかく。アルゼリータは女性の目が苦手だった。
「オレ以外にも、精霊を使える奴はいるだろ。富豪らしく、金使って雇ったらどうだ?」
「もちろんそうしようとしましたわ。けど、その考えはわたくし達だけではなかった……」
アルゼリータは全てを察した。
「なるほど、使える奴らはマグノリアに取られたか。それで、オレのところまで来たというわけか」
少しでも強い戦士を──
先手を取られたコンフィートは、埋もれた結婚話を掘り起こしてまで、精霊を宿した婚約者に近付いたのだ。
「不躾だとは思っています。ですが! どうか!」
頭を下げるミリエラ。オレンジのロングヘアーが前に垂れ下がる。
アルゼリータは考えていた。
──コンフィートは何を考えている?
娘を単独で王子出兵の交渉に行かせ、マグノリアと戦争を始める? 一体何故?
アルゼリータの疑問は尽きなかった。だが、縋る視線に気付き思考を止める。
「前も言った通り滞在は認める。だか、オレもここは離れられない。返事は期待するな」
そもそも、こちらも休戦中とはいえ戦争の最中だ。しかも、相手は王族。それどころではなかった。
「分かりました。貴方からいい返事を貰えるまで、わたくしはここにおります──」
再び、頭を下げる。
さて、とアルゼリータが立ち上がる。
「ロゼイル、さっきから存在すら薄い空気だったが、何か言うことあるか?」
背後にいたロゼイルが、びくっと肩を震わせた。
「え、ええと。ロゼイル・シラルガンです。側近やってます」
「よろしくロゼイル。ミリエラ・ツヴィリ・コンフィートですわ」
すると、急にロゼイルの目が輝きだした。
「よろしく! ミツコさん!」
「はあ!?」
「ぶっ!」
ミリエラは絶句し、アルゼリータは思わず吹き出す。
「な、何よミツコって!」
「全部は長いだろ! だから名前の頭とってミツコ! いいあだ名だろ!」
我ながらいいあだ名をつけることができ、喜ぶロゼイル。それとは対称的に怒りに震えるミリエラ。
「は、ハヴィラルっ! わたくしはどうしたらいいのかしら!?」
「……さあな、自分で考えろ」
怒りでぶつけ所を失っているミリエラに、アルゼリータは冷たく返した。




