学院の扉を叩いて
王国にある数多くの精霊学校の中でもここ、フラメル精霊学院は優秀な精霊契約者・通称『魔導師』を沢山輩出している名門高校である。
その膨大な生徒数もさることながら、在籍している指導者達の質も高く、さらに敷地面積も広大で『魔導師』を目指す若者達にとっては憧れの学校だった。
精霊の力を利用した様々な分野のコースも設けられており学べることが大変多く、なによりも精霊契約者志望の者達にとって魅力的である『精霊契約の場』をとても多く所有しているのだ。
『精霊契約の場』とは名前の通り、精霊と契約するための場所のことである。
通常、精霊達は自分が契約をしたいと思った人間と契約を交わしその力を契約者に貸す。
しかし、今までの歴史から契約者を管理したい王国側にとっては、いつでも何処でもホイホイと契約されては管理ができずに困ってしまうのだ。
そのために設けられたのが『精霊契約の場』であり、人間との契約を望む精霊達はその場所でしか契約ができない。
そしてそれぞれの精霊学校にはその契約の場所がいくつか存在するのだが、なかでもフラメル精霊学院は一際多くの精霊契約の場を設けており、精霊契約者になる一番重要な精霊との契約のチャンスが他の精霊学校よりもある。
この契約のチャンス多いことが、どうして重要かというのにも理由がある。
通常は精霊契約者になりたければ、精霊について学ぶ『学問の部』を修めた者が、次の段階の『技量の部』を修めた後に国家試験を合格して初めて国家精霊契約者『魔導師』として認められることになる。
この過程で『学問の部』は誰でも学べるいわば通常の学校みたいなものであり、学費さえ払えば特に問題なく学ぶことができるのだ。
しかしその次の過程である『技量の部』は精霊の力の扱い方を学ぶ段階になり、精霊と契約しないとその過程に進めないことになる。
これにより、精霊と契約してその力を使役できることが『技量の部』の条件であり、いわば入試にあたる。
しかし、王国により契約を管理されている今の時代、精霊契約者になりたくても自分と契約をしてくれる精霊が見つからない場合がある。
そうなれば当然『技量の部』は学ぶことが出来なくなり、その後の国家試験を受けることもなく国家精霊契約者『魔導師』にはなれなかったことになる。
なので少しでも契約の場が多ければ多いほど、魔導師になれるチャンスが増えることに繋がることになる。
そのような理由からフラメル精霊学院は条件が整っている上に、魔導師への一番の近道として誰もが憧れるのだ。
そんな誰もが憧れる魔導師を目指す少年、テオフラトス・ホーエンハイム(通称・テオ)もそのうちの一人である。
幼い頃に魔物に襲われているところを魔導師に助けられて以降、自分も人々を助ける立派な魔導師になろうと誓った彼も、魔導師への一番の近道であるフラメル精霊学院に入学するための試験を今現在、受けていた。
既に彼は『学問の部』を修めており、残りはフラメル精霊学院に入学して『技量の部』を学ぶだけになる。
そしてその後の国家試験に合格すれば晴れて魔導師になれる………のだが、彼は今とても落ち込んでいた。
「はぁ……あと一箇所しか契約の場所がないよ……」
精霊契約の期間は二週間、その間に用意された契約の場を周り精霊と契約を済ませる。
普通はフラメル精霊学院の用意した契約の場はとても多いので、契約が出来ないというケースはこの学院の場合、極少数である。
しかし、そんな恵まれた環境にありながら彼は、精霊との契約が今だできていないのだ。
「うぅ……僕はこのまま試験に落ちてしまうのだろうか……」
そう思うとテオは泣きそうになる。
残りの契約の場は一箇所、『神聖なる領域』と呼ばれる深い森だけだ。
精霊契約の場は様々な土地に設けられ、どの土地にも共通しているのがその土地に『魔力』が多いことである。
魔力とは精霊達の力の源であり、精霊達は自分達の魔力を人間に貸し与えることで、人間はその力を自らの力として行使することができる。
そうして魔力を貸し与えることにより、人間に力を貸すことで精霊は自分達は人に危害を加えることはないという意思を伝えた。
その形が契約である。
そうやって精霊達は人間と共存していこうと望んだのだ。
そして契約の際には魔力を多く必要とするので必然的に契約の場は魔力が多く存在する場所になるのだ。
まあ、もともと精霊は魔力の多い場所に多く存在するのであまり関係無いといえば関係無いのだが………
「ここがラストチャンスだなんて………うぅ」
地図を開いて場所を確認しながらテオは嘆く。
実はこの『神聖なる領域』と呼ばれる森には、大きな問題が二つあるのだ。
一つ、この森はとても魔力が多く溢れ出しており、その魔力の量からとても高位の精霊しか存在しないこと。
二つ、魔力が多いので精霊だけではなく、危険な魔物も多く潜んでいること。
二つ目の理由はとても危険ではあるのだが、魔導師になるためなら仕方ないとテオも覚悟を決めていた。
だが、それよりも問題なのが一つ目の理由である。
「低位の精霊とすら契約出来なかったのに、高位の精霊なんて……はぁ」
精霊には個々に力の差があり、俗に高位と呼ばれるほどの力を持つ精霊は力の低い精霊よりも気難しい。
言うなれば契約しにくいのだ。
そんな訳で精霊と契約がいまだ出来ないテオは、自分が高位の精霊と契約なんて到底無理だろう……と落ち込んでいるのだ。
「でも……行かないよりはましだよね……うぅ」
口ではそういいながらもテオはさらに落ち込んでいく。
もともと彼は自分に自信があるほうではない。
そのため、魔導師になりたいと精霊学校に入学したこと自体、かなりの勇気が必要だった。
そんな彼が精霊との契約…まして低位の精霊と契約が出来ないのに、高位の精霊との契約に自信なんて持てるはずはなかった。
「諦める覚悟を決めなくちゃなぁ……うふ、ふふふふ……」
彼の気持ちは沈んでいくばかりである。
「でもやっぱり……なりたいよなぁ……」
そういいながら彼は幼き頃の記憶を思い出す。
あの時魔物から自分を助けてくれた魔導師はとても素晴らしく、格好よく見えたのだ。
そんな魔導師に憧れてテオは立派な魔導師になろうと決めた。
「……やっぱり行くしかないよね」
なにもやらずに諦めるよりかは……そう思いテオは最後のチャンスに賭けようと契約の場を目指すことにした。
立派な魔導師になると決めたのは自分自身なのだから……。




