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第8話 後悔した所で、反省しか出来ません

 その後、私はアウラティラの街道に戻り、まっすぐ街を目指した。

 アルタラと話した事で少し寄り道をしてしまったけど大して変わらない。


「それにしても……あのNPCは一体何だったのかしら」


 私は湖で出会った少女の姿を思い出す。

 白髪のケモミミに琥珀色の目、どうも普通のNPCには見えない。

 まあいいか、暇なときにでも調べておけば。

 私は軽くため息をつき、街の入り口に着いた。

 ゲームの中とは言え、中世風の街並みはなかなかに美しく、どこか懐かしさすら覚える風情だった。ヨーロッパの旧市街のような石畳の街路を歩き大通りに出る。

 露店や屋台が並び多くのNPCやプレイヤーが行き交っていた。


「で、何処に行けばいいんだっけ」


 ウィンドを開きクエストを確認する。

《アウラティラの冒険者ギルド》に辿りつけというクエストだ。

 画面には現在地とマーカーが表示されているけれど、街は初めてで勝手がわからない。とりあえず、表示された方角へと歩き出す。


「それにしても……やっぱり人が多いわね」


 リアルタイムで動いているNPCとプレイヤーが混在する街の喧騒は、まるで本当に生きている都市のよう。

 酒場からは賑やかな笑い声が漏れ、道端の演奏家が奏でる旋律が風に乗って届く。

 そのまま最新ゲームのクオリティに感動しながらギルドへの道を歩いて行った。


 ★


 そして、私は冒険者ギルドまでたどり着いた。


「無事にご到着おめでとうございます、これで貴方は一人前の冒険者として認められました。こちらがギルドからの報酬となります」


 ウィンドにアイテムが表示される……なになに。

 まず目に入ったのは――

『帰還の紋章』

 → 刻まれた場所に転移する旅人の印。使用すると、ルミナスに瞬時に移動可能。

 安全な所でしか使えず、PVEなどは勿論。PVP中もだめらしい。


 そのほかにも、いかにも序盤向けといったアイテムがいくつか並んでいた。


 ・『冒険者の薬草セット』

 → 小~中回復アイテムの詰め合わせ。


 ・『簡易鍛造石』×3

 → 武器や防具の消耗を微修復できる消耗品。


 ・10000ダール

 →GEOにおける通貨。


「貴方の冒険が良きものでありますように。何かあれば、またいつでもこちらへどうぞ」


 ・ メインクエスト「冒険者登録」達成!

 ・新たなクエストが解放されました。

 ・アウラティラの施設が開放されました。

 それと同時に、ミニマップ上にいくつかの新しいアイコンが追加された。

 武器屋、防具屋、鍛冶屋、宿屋、クエストアイコン。

 ま、本来ならここからがゲームの本格始動なのだろうけど。


 一度ここでログアウトしましょうか。

 もう既に22時、夕食を食べるにはずいぶん遅い時間だ。

 そう思いながら、私はログアウトボタンに指を伸ばした。

 一瞬、視界がスッと暗転する。

 ゆっくりと意識が現実へ戻る。

 視界に天井が映り、頭に被っていたフルダイブ機のカバーがゆるやかに解除された。

 私は仰向けのまま深く息をつく。


「……やっぱり、すごい。これは、流行るわけね」

「ま、焦らずやっていきましょ。まだ始まったばかりなんだから」


 私はそのまま椅子から立ち上がると、少し伸びをして、キッチンへと歩き出した。

 今日は簡単に済ませよう。パスタでも茹でればいい。


 ★


「えーと……『GEO アルタラ』で検索と」

 めんつゆとマヨネーズをぶっかけた貧乏パスタをすすりながら、私はスマホで検索をしていた。

「……は?」

 思わず、口にしていたパスタが喉に詰まりそうになる。

 咳き込みながら水を口に含み、なんとか落ち着いたところで、画面をじっと見つめた。そこには、いくつかのプレイヤー掲示板やGEO非公式Wikiの書き込みが並んでいた。

 検索ワード「GEO アルタラ」にヒットした情報の中でも、目を引くのは――


【スレッド名】

【遭遇報告】白髪ケモミミの少女に会った奴いる?


 No.12 :

 湖で見た。10歳くらいの外見、白髪ロング、獣耳、目がやばいくらい綺麗だった。最初はNPCかと思ったけど、なんか会話ログに残ってなかったんだよな……。


 No.59 :

 あの対価を支払えば。望んだ情報を確実にくれるって噂のNPCか。

 クソ羨ましいんだけど!


 No.61:

 マジで!?全世界で未だに報告が二件しかでて無いっていう噂の?


「……マジ、だったんだ……」


 私は画面を見つめたまま、パスタを持ったフォークを止めていた。

 一度見た夢を思い返すように、あの琥珀色の瞳と、白く長い髪の少女の姿が脳裏に蘇る。


(……じゃあ、私が見たあの子って……)

 今の時点で全世界プレイヤー数は1000万人を超えているというのに、「アルタラ」という名前が明確に言及されている遭遇報告が、ほんの二件しかないという異常さ。


 しかも――

「会話ログに残っていなかった」

 これが、決定的だった。

(普通、どんな会話でもログには残るはずよね……?)

 私が遭遇したあの少女。


 確かに、名前表示もなければ、システム的な反応もない。

 ウィンドも開けて、強制イベントでもない。にもかかわらず、確かな存在感を放っていた。



 しかも、掲示板の別コメントではこんな書き込みもあった。


 No.68:

 あれって「出会える条件が人によって違う」ってやつでしょ。

 場所や時間だけじゃなく、プレイスタイルとか所持アイテムとかにも影響してるとか。ガチで都市伝説級の存在。



「……色々、考えてたらお腹が空いてきたわね」

 私はフォークを口に運びながら、ゆっくりと思考を巡らしていた。

 そして思考は一つの答えにたどり着いた。


「ふぅ……聞いとけばよかったーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


 あったのに、何も!何も聞いてない!なぜ私は、何一つ調べようともしなかったのか。いやむしろ何故興味を持たなかったのか。罠だ何だとカッコつけて、何にも得ていない!


「……でも」


 あの少女は確かに言った。

 また会いそうな気がするよ、と。

 あれは一体、どういう意味だったのだろうか。

 私の人生の中で今ほど情報が欲しいと思ったことは無いかもしれない。


「……よし」


 私は食べ終えた食器を手早く片付ける。

 明日は全休だ、つまり今日はオールして問題ないということ!

 正直寝るつもりだったけど。

「やってやるわよ、アルタラ」

 私はそう呟いて、再びゲームにログインした。

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