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第51話 機緑、相対するは鍛冶屋と提督

 フェルグside

 

その巨体を前にして、フェルグはため息を一つつく。

 赤黒い炉光に照らされる地下空洞。その中心で、機械仕掛けの龍が低く唸っている。全身を覆う黒鉄の外殻。継ぎ目を走る緑雷。背に伸びた無数の避雷針のような突起が、脈打つたびに空気を焦がした。


 自分にあるのは、鍛冶の知識と、錬金術の小細工と、素材の扱い方だけだ。

 それでも。


「俺一人でねえ……」


 フェルグは、黒い釘を数本、指の間に挟んだ。

 龍鉄炉の赤い光が、その釘の表面を鈍く照らす。


「やってやるさ」


 火雷緑王の首が、ゆっくりと動いた。


 今まで龍機師本体の方へ向いていた意識が、こちらへ向く。

 アルヴィが本体を引き剥がしたことで、命令系統が揺らいだのか。それとも、足元で外殻を削り続けるフェルグを、ようやく脅威と判断したのか。

 どちらでもいい。


 こっちを見ろよ邪魔はさせねえ。

「来いよ、鉄屑」


『【電導合金】』


 緑雷が走る。

 床を這い、壁を伝い、空間そのものを網のように裂く雷撃。


 フェルグは回避しない。

 腰袋から鉄粉を一掴み。

 火雷緑王の足元へ投げつける。


 続けて、別の袋から色の違う粉末を掴み、同じ場所へ撒いた。


 黒、赤、鈍い銀。

 三種類の粉末が黒鉄の床に散った瞬間、緑雷がそこへ吸い寄せられる。


「即席の避雷針みたいなもんだ。色々対策してんだよこっちも」


 奴が無意味な放電を続けている間に、

 フェルグは釘を握りしめ、火雷緑王の股下へと駆ける。

 時間は少ない、ある程度の見切りをつけ右前足に数本の釘を打ち込み颯爽と離脱する。



 数歩離れたところで、フェルグは指を鳴らした。

 右前足に打ち込まれた釘が、一斉に赤く染まる。


 次の瞬間。

 連続して破裂音が響き電流が流れていく。

 火雷緑王の右前足が大きく跳ね、巨体がその場で崩れるように傾いた。


『――――ッ』


 地下空洞を震わせる咆哮。

 継ぎ目から火花が散り、緑雷が一瞬だけ途切れる。


 スタンは決して長くない。

 その間に別の道具へ手を伸ばした。


 工具鞄から取り出したのは、赤黒い液体の入った小瓶。

 火雷緑王の傷口へ向けて、それを投げつける。

 ガシャンッ。

 瓶が割れ、中身が外殻の裂け目に流れ込む。


「腐食溶液は効くだろ」

「龍鉄用に対策してきてんだよ」


 黒金の外殻がじゅう、と音を立てて溶ける。

 火花が散り、機械龍の動きがさらに鈍った。


(此奴は予想通り部位破壊ができるタイプだな……右足だけ執拗に虐めといてやるよ)


 フェルグは間髪入れず、新たな釘を数本掴む。


「次も右――」


 そこまで言って手が止まる

 火雷緑王の右前足。

 腐食液で溶け、炸裂した釘によって継ぎ目が捲れ上がったその場所へ――緑雷が集まり始めていた。


「修復かよ……」


 雷が流れ込むたび、外殻が再生していく。

 溶けた部分が盛り上がり、ひび割れたところが閉じていく。

 その速度は決して速くない。

 だが、放っておけば元に戻る。


「面倒な機能を付けやがる」


 だが、問題はない。

 その間、動けないのなら。回復を上回る速度でその足をぶっ壊す。

 それが最も合理的だ。

 フェルグは再び釘を掴む。


「時間稼ぎ、もう少し付き合ってもらうぜ」


 火雷緑王の右前足へ狙いを定める。

 その瞬間だった――轟音。

 地下空洞そのものが揺れた。


「……あ?」


 あまりの衝撃に、フェルグが思わず顔を上げる。

 加羅紅とバルバロスが戦っていた方角から、砕けた岩片と赤黒い火花が大量に舞い上がっていた。

 何か、とてつもなく重いものが落ちたような音。


《 加羅紅 撃破 》


 ログが視界に流れる。

 フェルグは無言でそれを眺めた。


「マジで言ってのかよ……派手好きが」

「クハハハハハ!!」


 聞き慣れ始めた笑い声が返ってくる。

 瓦礫の向こう。

 黒い外套を翻しながら、バルバロスがこちらへ歩いてきていた。


 肩にはカトラス。

 その背後ではひっくり返ったプリズムアズールがゆっくりと土の中へと沈んでいく。


「待たせたな、フェルグ!」


「別に待ってねえよ」


「ハッ!無粋を言うな、こういう時はこう言うのだ」

「大波が来た!」


 バルバロスは火雷緑王を見上げる。


 再生を続ける右前足。全身を走る緑雷。

 そして、その巨体。

 バルバロスがカトラスを掲げた。


「足を止めたのなら――」


 その周囲に、次々と砲門が現れる。


「後は沈めればいい!」


 フェルグは盛大にため息を吐く。

 口元だけは、僅かに上がっていた。


「……まあいい」

 火雷緑王が低く唸る。


「だったら、さっさとやるぞ」


「無論!」


 その瞬間だった。

 火雷緑王の右前足へ集まっていた緑雷が、不意に止まる。


「……あ?」


 フェルグが眉をひそめた。

 修復途中だった外殻。

 閉じかけていた継ぎ目。

 そこへ流れ込んでいたはずの雷が、逆流する。


 背中に並ぶ、無数の避雷針のような突起へ。

 一斉に緑雷が収束した。


「おい、待て」

 バチ、バチ、と嫌な音が響く。

 背中の突起一本一本が、強く発光していた。


「……回復じゃねえな」


「この俺に任せるがいい!」


『【雷殻充填】』


 火雷緑王が咆哮する。

 何十という緑雷の電撃が、こちらの方面へ一斉に伸びてくる。


 最早回避は間に合わない。

 だが、焦る様子はない。

 二人の前方。

 岩盤が、大きく盛り上がった。

 先ほど土の中へ沈んでいったはずの巨大な船体が、再び地面を割って姿を現す。

 プリズムアズール。

 ひっくり返ったまま沈んでいた船が、岩盤の中を泳ぐように回頭し、その巨大な船腹を二人の前へ滑り込ませた。


 緑雷が殺到する。

 何十もの雷撃が、プリズムアズールの船体へ次々と突き刺さった。


 七色の帆が激しく揺れる。

 黒蒼の船体を緑雷が這い回り、表面のあちこちで火花が弾けた。


「うお……」


 フェルグが思わず目を細める。

 雷撃は止まらない。


 船体を焼き。帆柱を打ち。

 側面の装甲を焦がしていく。

 だが、プリズムアズールは沈まない。

 巨大な船腹が、壁のように二人の前へ立ちはだかったまま、全ての雷を受け止めていた。


「良いのかよ、お前の相棒ボロボロにしてよ」


「構わんな、どうせ治すからな!」

「さあ、目的地まですぐそこよ!」






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