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第52話 龍装機甲

side:アルヴィ


「今度こそ、誰の邪魔も入らない」


両肩の砲身からガトリング銃の様に弾丸が発射される。

瞬時に横にそれながら前進、この翼のスピードがあれば避けられる。

足に力を入れ勢い良く踏み込むと、瞬時に奴と肉薄する。


奴の眼はこちらをよく見ているようで、踏み込んでくる私に対しその展開した刃を振り下ろした。

それに対して翼で受ける事を選択。

その刃は黒金の翼を切り裂けず弾かれた。

「切れるとか、貫けるとか思わない方が良いわよ」


弾かれたその一瞬を逃しはせず、その胸に箔新月を突き立てる。

『——ッ』

そのまま蹴り飛ばし、壁際まで吹き飛ばす。

壁にめり込む様にして着地した奴はその傷を押さえ呻き声をあげている。


『集え……械竜蟲』

龍機師の男がそう呟くと魔法陣が地に刻まれる。

そこから出てきたのは、虫の様な機械。いや竜?

タツノオトシゴと虫を合体させて機械にしたような小型の敵が十数体出てくる。

「はあ?邪魔は入らないって言ったばっかなんですけど!」

「てか最初にも、やってたわね。忘れてたわよ!」

そして、その小さな虫竜機械がこちらに殺到した。


「全員 スクラップにしてあげる」


最初に頭上から落ちてきたそれを、箔新月で真っ二つにする。

左脇から飛び込んできた個体へ黒金の翼を振るう。

翼の先端が刃のように細く変形し、虫竜の胴体を横から叩き切った。

正面から来る奴らを蹴り飛ばし、

「邪魔!」

軽い機体が弾丸のように吹き飛び、後ろから迫っていた二体をまとめて巻き込んだ。

砕けた部品が床を転がる。


更に迫る虫共を次々に切り伏せて、叩き潰していく。

多少のかすり傷を負いながらも、片っ端からスクラップにしていく。


最後に正面から飛び込んできた一体を箔新月で斜めに斬り裂き、そのまま勢いを殺さず黒金の翼を振るうと、残っていたもう一体の胴体もまとめて切断された。

機械片が床を跳ね、歯車や細かな部品が音を立てて転がっていく。


「これで全部――」


そう言いかけた瞬間。


『……紡げ、壊れ物』


龍機師が低く呟いた。

足元に散らばっていた械竜蟲の残骸が一斉に青白い光を帯びる。

砕けた頭部や千切れた脚、真っ二つになった胴体。その全てから細い電流が伸び、別の残骸へと繋がっていった。


一本、二本と増えていった電流は瞬く間に数を増やし、床だけではなく頭上にまで伸びていく。


「はぁ!」


気付いた時には遅かった。

械竜蟲の残骸を支点にして無数の電流が張り巡らされ、私を中心とした檻が出来上がっていた。


『【械竜蟲・雷獄】』


「えー……警戒を怠った私が悪いけども、そんなことまでできるのね」


どうやらあの小型機械共は、ただ襲わせるために出したわけではなかったらしい。

壊されることまで含めて、この陣形を完成させるための部品。

雷の格子が徐々に狭まり、床を焼きながらこちらへ迫ってくる。

隙間を抜けようにも左右だけではなく上まで完全に塞がれている。


「いやまあ、私以外なら結構効いたんじゃない」

「【霞踏み】」


視界が一瞬だけ霞み、次の瞬間には身体が雷の檻の外へ抜け出していた。

直後、先ほどまで立っていた場所へ電流が一斉に収束し、耳をつんざくような破裂音と共に床を真っ黒に焦がす。


出現したのは奴の目の前、そのまま刀を振り上げ攻撃を行うが。

それは奴も反応し突如腕から伸びた剣が防ぐ。

そのまま鍔迫り合いの形になるが、私にはこの翼がある。

例え手がふさがろうと、もう関係のない事だ。

即座に翼を振りぬき、奴の腕を弾いた。

(斬るつもりだったのに……やっぱり弱体化はしてるか)

そのまま刀を振りぬき裂傷を与える。


ジャガモースが振るっていた翼なら、今の一撃で腕ごと持っていっていた気がする。


私が得たのは、そのままの翼じゃない。

まあ当然か形は似ていても。

性能まで完全に同じだと思う方がおかしい。


ダメージを受けた龍機師は、また後ろに下がる。


それと同時に、後方で轟音が響いた。

この空洞全体を揺らす振動と、耳をつんざくほどの衝撃音が地下を満たす。

衝撃は離れた場所にいる私の足元まで届き、思わず体勢を崩しそうになる。

思わず背後を振り返ると、プリズムアズールが加羅紅を踏み潰していた。


少し遅れて、システムログが視界に流れる。

《 加羅紅 撃破 》


「嘘ぉ!」


思わず、素の声が出た。

馬鹿じゃないの、船を質量攻撃にした!?

頭のねじ外れてんじゃない?


遠くからバルバロスの笑い声まで聞こえてきた。


「クハハハハハ!!」

「元気そうね」


私はすぐに視線を戻す。

目の前では龍機師が体勢を立て直し、こちらを睨んでいる。

さっきの一撃で傷ついた胸元からは赤い光が漏れ、両肩の機械腕もまだ動いている。

加羅紅が倒された事に何か反応するかと思ったけど、少なくとも目に見えて動揺している様子はない。


それと同時に……黒金の翼が風化して消えていく。

(時間制限がきたわね。4,5分くらい?まあ、そんな物でしょう)


黒金の翼は端から崩れるように消えていき、最後には光の粒だけを残して完全に姿を消した。

身体を包んでいた軽さも消えている。

さっきまで当たり前のように使っていた加速も、防御も、追加の攻撃手段も無くなった。

少し惜しいけど、別に困りはしない。


今までも全部無しでやってきたから。


『戻れ……火雷緑王』


龍機師がそう呟いた瞬間。

遠くでフェルグとバルバロスを相手にしていた火雷緑王が、大きく首を持ち上げた。


「……は?」


何をする気かと思った直後、火雷緑王は二人への攻撃を完全に止めた。

巨体を反転させ、そのままこちらへ向かって駆け出してくる。


「おい待て!」

「逃がすと思うか!」


フェルグの声とバルバロスの叫びが飛ぶ。


すぐさま後方から砲撃が放たれ、火雷緑王の背へ直撃した。

外殻が弾け、緑雷が散る。


それでも止まらない。


フェルグが右前足へ打ち込んでいた釘も一斉に炸裂し、傷ついた脚が大きく沈み込んだ。

一瞬だけ体勢を崩したが、火雷緑王は無理矢理踏み込み、そのままこちらへ突っ込んでくる。


「ちょっと、こっち来るんだけど!」


私は龍機師から距離を取りながら、火雷緑王の進路から外れる。

巨体がすぐ横を通り抜けた。

近くで見るとやっぱり馬鹿みたいに大きい。

龍機師が片手を上げる。

すると火雷緑王の身体から、甲高い金属音が響いた。


「……何?」


黒鉄の外殻が動く。

首元から装甲が開き、胴体を覆っていた巨大な装甲板が左右へ展開される。

背中に並んでいた避雷針のような突起が折り畳まれ、緑雷を纏いながら形を変えていった。

脚も、尾も、翼も。


龍として形作られていた全てが分解される。

壊れるのとは違う。

最初からそうなるように設計されていたみたいに、各部位が次々と別の形へ組み替わっていく。


「……何それ」


巨大な頭部が割れた。

内部から幾つもの機構が露出し、それぞれが龍機師の身体へ向かって伸びていく。


龍機師の全身へ、火雷緑王の部品が次々と接続される。


龍鉄の装甲が胸部を覆い。

巨大な前脚が腕部装甲へ変形し。

後脚は腰から脚部へと重なる。

長大な尾は背後へ接続されたまま、地面を擦るように伸びている。


最後に背中の突起が一斉に開いた。

緑雷が走る。

バチバチと音を立てながら、龍機師の周囲へ雷が迸った。


「……鎧?」


いや、どっちかって言うとアーマーか。

龍機師の身体を中心にして、火雷緑王そのものが巨大な外骨格になっている。


元々人型だった龍機師の姿はほとんど見えない。

頭部だけが龍の顎の奥へ収まり、胸元の赤い炉心と火雷緑王の炉心が重なるように光っている。

全高もさっきまでの倍に膨れ上がっていた。


そんな姿。

『【龍機装甲・火雷緑王】』

システム表示が浮かぶ。

「そんな使い方も出来るのね……」


「センスだけは認めてやるよ」

後ろからやってきたフェルグが吐き捨てるように言う。


「本人に言えば?喜ぶかもよ」


「言ってどうすんだよ、もうアイツの物じゃねえ」


「それはそうね」


「なあに、的は一つに絞れた」

バルバロスはそう言いながらカトラスを肩へ担ぎ、目の前の【龍装機甲・火雷緑王】を見上げる。


「ならば後は三人で沈めるだけよ!」


「簡単に言うわね」


「簡単な話だからな!」


まあ、言っていること自体は間違っていない。

さあそろそろ終わらせましょう。

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