第5話 月光を映す白月
ふと笑みが零れる。
それと同時に気付くのは視界に長いこと映る連続レベルアップの表示。
「やば、何レベ上がってるのこれ」
最終的に私のレベルは3から34まで上がっていた。
「よお、おつかれさん」
「おつかれさんって……」
私は息を整えながら、チュニドラを睨むように見上げる。
「あんたね、どれだけ苦労したか……」
「はいはい、お前ならできると思ってたぜ」
チュニドラは肩をすくめ、どこか呆れたように笑う。
「それにしても、レベル3から34って……笑うしかねぇな」
「開始一時間で34、いいスタートダッシュは切れたみたいね」
「誘ったのは私だが、良いどころじゃねえな……」
ちらりとステータス画面を確認する。
レベルアップに伴い、ステータスポイントもスキルポイントも大量に溜まっていた。
——そして、クランメンバーたちの驚きの声が耳に入る。
「マジかよ、ほんとに初見でクリアしやがった」
「うげぇ、バトクロ不動の最強は伊達じゃねえな」
「いやいや、偶然だろ」
「てか、アルヴィが持ってるその剣、勝千のじゃね?」
その言葉にチュニドラが反応する。
「は?」
「え、何で私の時貰えなかったのに」
「条件は?ジョブかそれともフラグ立てか、それとも初見クリアか?」
クランメンバーたちの視線が一斉にこちらに向かう。
彼らの間で、すでに勝千の【白月】を手に入れるための議論が始まっていた。
「いや、そんなの私が聞きたいわよ……」
「たく、型破りな奴だよお前は」
「逆ギレしてんじゃないわよ……はあ、なんか気が抜けたわ。しばらく休憩するわね」
私は大きくため息をついて、地面に寝ころんだ。
するとチュニドラは呆れたように笑う。
「ああ、そうしろ」
そう言って彼は私の隣に座り込み、同じように空を見上げた。
「……なあアルヴィ」
「なによ?」
「楽しいだろ?」
その問いに、私は少し考えてから答える。
「ええ!最高にね!」と。
★
あの熾烈な戦いの余韻を感じながら、空を見上げる。
広がる景色はゲームのものとはいえ、どこか現実味があって、心が落ち着く。
「とりま、ステータス確認だろ。ステータスポイントとスキルポイントあと称号、そして何より《ののの》の目玉勝千のスキル獲得」
「はいはい、分かってるわよ」
そう言ってステータス画面を開く。
ステータスポイントが124P。スキルポイントもがっつり溜まってる。
【称号】・千の勝利を超える者。
そして【スキル】
・【霞踏み】 効果:使用すると姿が霞の様に消え任意の場所に移動する。
・【威間】 効果:防御力、ガード・パリィ貫通の強烈な突き。クリティカル率が高い。
・【飛燕】 効果:空を蹴るように移動し、空中での自由度を大幅に向上させる。連続使用可能だが、スタミナ消費が激しい。
「うげぇ……スキルも私より多く貰ってやがる……」
チュニドラが頭を抱えながらぼやく。
「まあ、初見クリアの特典ってことでしょ?」
「いや、確かにそうかもしれねえけどさ……なんつーか釈然としねぇな」
チュニドラがまだ何か言いたげな顔をしているが、私はステータス画面を閉じると、ふぅっと息をついた。
「ねえ、チュニドラ」
「ん?」
「私、クラン抜けるわ」
その言葉に、チュニドラの表情がピクリと動く。
だが、彼はすぐに肩をすくめて、あっさりと答えた。
「……まあ、そうだろうな」
「いいの?」
「別に私がお前を縛る理由はねぇしな。正直、最初からこのクランには合わねぇと思ってたし」
チュニドラはあっさりとそう答える、だがクランメンバーの反応は、思ったよりも露骨だった。
「おいおい、利用するだけ利用してそりゃねえだろ」
「恩ってもの知らねえのか、残ってくれよアルヴィ」
そんな言葉が次々とかけられる。
「ごめんなさい、でも私クランとか苦手なのよね。恩知らずなのは謝るわ」
私は素直にそう謝るが、それでも彼らは納得しないようだった。
「抜ける? 冗談だろ?」
「勝千を倒して、白月まで手に入れたあんたを、そのまま出ていかせると思うか?残らないなら、あんたをPKして白月をいただく」
「な、何言ってんだ俺達はPKクランじゃ」
「うるせえ、お前も欲しくねえのかよ【白月】」
「……」
その言葉に、チュニドラは呆れたようにため息をついた。
「おいおい、いくらなんでもそれはねぇだろ」
チュニドラが肩をすくめながら言うが、クランメンバーたちの表情に迷いはない。
彼らは本気で、私をPKして【白月】を奪うつもりらしい。
「お前ら、本気でやるつもりか?」
「ああ、本気だ。ここで消えりゃ【白月】はドロップする。誰か一人が賞金首になるくらいなんてことはない」「お前が持ってるのは、ただのレア武器じゃない。あの【白月】は、クランの力になれる」
「自分だけ持って行こうなんて、そりゃ通らねえよな?」
「恩知らずってのは分かるわ。でもね、脅しで無理やり残らせようとするのは、もうクランでも何でもないわよ」
完全に狙われている。あまりにもレベル差があるし戦って勝てる?
いや無理……
数人が武器を抜き、私を囲むように陣を取る。
あたふたして残ってるメンバーもいるようだが、大多数がやる気だ。
その瞬間——
「……悪いが、私もクラン抜けるわ」
隣にいたチュニドラが、ゆっくりと立ち上がった。
クランメンバーたちが驚いた顔をする。
「は? チュニドラ、お前まで……」
「元々抜けようと思ってたんだよ、バトクロの縁だと思って今までやってきたけど。お前らとやるゲームは楽しくない」
チュニドラの言葉に、クランメンバーが怒りをあらわにする。
「こっちは8人いんだぞ、てめえら二人ごとき!」
クランメンバーの一人が吠える。
……分かってる。
数で言えば完全に劣勢だし、レベル差にスキル差を考えても勝ち目はない。
でも、それでも——
「いいじゃない。やってみる?」
私は微笑みながら【白月】を構える。
「このまま大人しくやられる気はないわ」
チュニドラも、持っていた大盾を地面に突き立てる。
「ま、私もただじゃやられねえけどな」
一触即発の空気。
クランメンバーが一斉にスキルを発動させ、こちらに向かってくる——
だが、その瞬間。白煙が私達を包んだ。
「逃げるぞ、アルヴィ!」
「はは、そういう」
私は思わず笑い、チュニドラと共に走り出す。
「逃げるな!……くそ」
「追いかけろ!」
クランメンバーたちの叫び声が背後から響く。
だが、私たちは振り向かずに駆け抜けた。
白煙の正体は、チュニドラがいつの間にか使った【スモークボム】のスキル。
視界を奪い、一定時間の間ターゲット指定も不可能になる。
「おい、どこに行った!?」
「分かれて探せ!見つけてから合流でいい」
混乱するクランメンバーたちを尻目に、私たちは一気に距離を取った。
「まったく……正面からやり合うつもりかと思ったわよ」
苦笑しながら言う。
「バカ言うな。数の暴力に叶うもん無しだ」
「はは、確かに」
走り続け、森の影へと身を潜める。
マップを確認すると、既にクランメンバーたちとはかなり距離が開いている。
「よし、撒いたか」
「そうね。でも地の果てまで折って来そうな雰囲気」
「アイギスに頼るか」
「アイギス?」
効きなれない単語を発するチュニドラ。
「アイギスって言うのはな」
どうやら、運営ではなくプレイヤーたち自身が作った。
《治安維持ギルド『アイギス』》が存在する。そこに証拠付きでPK報告を送れば、違反者は即座に懸賞首リストに登録され、腕に覚えのあるプレイヤー達がこぞって追跡に動くのだ。
さらに、このギルドだけが保有する特別なアイテム——
『監視者の眼』がある。
これは事件現場に持ち込めば「その場の行動」を映し出すことができ、プレイヤーの言い逃れを完全に封じる。「誰が誰を攻撃したか」を可視化できるため、嘘はバレるし言い逃れは出来ない。しかも公平性を保つため、公式ディスコードで常にライブ配信をしているという徹底っぷりらしい。
「逃げるのって、ちょっと癪だけど……今はこれが最善ね」
「はは、また正面から勝てる日を目指すか」
私たちは笑い合い、森の奥へと姿を消した。
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アイギス
初期GEOにおいてPKにデメリットが少なかったころ、PK被害が横行し。
一部のプレイヤーが運営に訴えるも、
その事対し運営は介入しない方針を明言。ただこんな言葉を残した。
『殺すのも、奪うのも等しく自由。なら罰を与えるのも、罪を問うのもそれもまた自由、GEOは君たちプレイヤーが作る世界だ』
この言葉によりアイギスは生まれた。
PKマークの付いたプレイヤーをひたすら狩り続けた。
報酬も契約も無いあるのは怒りと自己満足。
それでも彼らは狩り続けた。
やがて噂は広がった。
「PKをすると、追ってくる連中がいる」
盾のマークを掲げ『アイギス』と名乗り、人斬りを切るPKK。




