第4話 千の勝利の上に立て
「……来なさい」
『【人刃一体】』
勝千が静かにそう呟くと、刀身に紅いオーラがまとわりつく。
それはただの力の発露ではない。
(……何かが違う!?)
空気が変わる。圧が変わる。
まるで彼自身が剣そのものになったかのような――そんな異質な感覚に襲われる。
私はすぐさま構え直し、慎重に距離を詰める。
だが――。
「っ!?」
次の瞬間、勝千はすでに目の前にいた。
反応が遅れたわけじゃない。
それどころか、視界にはしっかりと彼の姿が映っていたはずなのに――気づいたときには、すでに斬撃を放たれていた。
(見えてるのに、動けない……!)
咄嗟に剣を振るって受け止めるも、その一撃は重く、衝撃が腕を痺れさせる。
互いの剣が弾かれるが、勝千のほうが圧倒的に体勢を立て直すのが速い。
『【一閃】』
刀が閃いた瞬間には、次の攻撃がすでに放たれている。
目で追うより先に、頬を鋭い感覚が走る――。
(斬られた!?)
すぐさま後方へ飛び退いて距離を取るが、動きを止めている暇はない。
私はすぐに剣を構え直し、攻めに転じる。
『【霞踏み】』
「っ!」
視界が揺らいだ。
――違う。勝千の姿がぶれたのだ。
振り向いたときには、もう真後ろ。
剣の間合いに入り込まれている。
(まずい!)
咄嗟にガードを固めるが――。
「重っ……!」
衝撃に耐えきれず、体ごと吹き飛ばされる。
地面を転がり、全身に衝撃が弾ける。だが、もたもたしている暇はない。
すぐに受け身を取って立ち上がるが――。
『【朧】』
(っ……遅い……!?)
目の前の勝千が、ゆっくりと鞘から刀を引き抜く。
いや、違う。
――私の意識だけが、遅れている。
走馬灯のように、時間の流れが歪む錯覚。
彼が刀を振り抜くまでの時間は、刹那。
咄嗟に剣で受けるが――。
「ぐ、あっ!!」
耐えきれず、またしても吹き飛ばされる。
衝撃とともに転がりながら、なんとか踏みとどまるが――。
「ちょ、連撃きっついわよ!」
(見えてる。だけど、反応して防ぐのでぎりぎり! 【一閃】も【霞踏み】も、さっきと全然違う!)
ガード削りでHP一! 攻撃を食らわなきゃ死なないとはいえ、これ、まずい!
『【砲刀】』
次の瞬間、紅い残光を残しながら刃が閃く。
またもぎりぎりのところで剣を合わせ、受け流す。
「予備動作、どこに置いてきてんのよ!」
叫ぶと同時に剣を振るい、距離を取ろうとする――だが、勝千の動きは止まらない。
『【威間】』
――ゾクリと、悪寒が走った。
『我が【威間】、防ぐこと叶わず』
勝千が刀を突きの形に構えた瞬間、空気が張り詰める。
次の瞬間、私の防御を貫くかのように、切っ先が一直線に迫る。
(あ……)
意識を研ぎ澄まし、姿勢を沈める。最小限の動きで突きをかわし、逆に踏み込む。
長剣を振るい、その切っ先を勝千へ――。
斬撃が、確かに彼の体を捉えた。
「そんだけ見てれば、分かるわよ」
勝千が追撃を警戒してか、後方へ飛ぶ。
そして、そのまま一気に距離を縮めるべく駆け出した瞬間。
『【霞踏み】』
また姿が消える。でも、位置は分かる。
「それ、あんたの悪癖ね!」
勝千の姿がかすれた瞬間、私は後ろを振り向き、全力で走る。
『【朧】』
やはり、私の剣の間合いから一歩外!
全力で勝千に近づき、鞘から刀を引き抜く直前に、その腕を掴む!
その腕ごと刀を振り抜こうとするが、勢いの死んだ抜刀なんて意味をなさない。
体を反らして避け、そのまま逆手に持ち替えた長剣で袈裟懸けに斬りつける。
その攻撃を受け、勝千の体が光となって散る。
『汝の剣、見事であった。我が極技をもってしても、命を散らせぬとは――』
勝千は静かに言葉を紡ぎながら、消えゆく光の中に佇んでいた。
(勝った……のよね?)
実感がまだ湧かない。何度も倒れる寸前だった。何度も刃を突きつけられた。
でも、そのたびに食らいついて、耐えて、最後には――斬り伏せた。
「――あんたこそ、しぶとかったわよ!」
私は剣を収め、最後に勝千を見つめる。
勝千は光となって消えていく中、静かに最後の言葉を紡ぐ。
『我が魂、【白月】。確かな力を持つこの刀も、我が【一騎打ち】においては、ただの刀である』
彼の言葉の意味を理解し、私は思わず眉をひそめる。
(ああ、【一騎打ち】で能力が消えてるのね)
勝千の手元から、光を帯びた一本の刀が静かに浮かび上がる。
それは、彼の魂とも呼べる愛刀――【白月】。
勝千は、それを私のほうへ投げた。
「え?」
『我が刀、汝に譲ろう』
私は一瞬迷いながらも、その柄へそっと手を伸ばす。
――すっと、手になじむ感覚。
不思議な感覚だった。先ほどまで命を削る戦いをしていた相手の武器を、こうして受け取るとは。だが、それは紛れもなく、勝千がこの戦いの証しとして私に託したものだった。
「――ありがたく、受け取るわ」
そう言って【白月】を握ると、勝千は静かに微笑み、光の粒となって消えていく。
『さらばだ、強者よ』
私は最後まで彼を見送りながら、【白月】を強く握りしめた。
戦いの余韻が残る中、突如として視界にシステムメッセージが浮かび上がる。
《EXクエスト『千の勝利の上の怪物』をクリアしました》
(終わった……本当に、終わったのね)
いまだ鼓動の速さが収まらない。手のひらには、【白月】の感触がはっきりと残っている。
「はぁ……しんど……」
力が抜けるように膝をつき、荒い息を吐く。
何度も倒れかけ、何度も刃を交え、それでも食らいついて――最後には勝った。
でも、それは決して楽な勝利ではなかった。
「何よ、楽しいじゃない。……このゲーム」
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【白月】の入手条件は、クエストへの挑戦回数が一回以下、つまり初見であり、かつ
アクティブ系の【スキル】を一度も使用しないことで入手フラグが立ちます。




