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第48話 龍鉄の支配者

「どうしたフェルグ!」

「……いや、大した事じゃねえ」


私たちは、村外れの小屋の地下にあった階段を下りていく。

暗く湿った石畳が続き、踏みしめるたびに足音が不気味に反響した。

壁に嵌められたランプが、断続的に揺らぐ。


「どこまで続いてるのかしら」

「もうすぐだ」


フェルグは短く答え、足を止めずに進んでいく。

バルバロスは後ろから豪快に笑っていた。


「クハハハ! 地下とは言え狭い!俺の船も出せんな!」


「……当たり前でしょ」

私は冷ややかに告げた。正直今は騒がしいのが一番の敵だ。

やがて階段が終わり、狭い通路へと出る。


壁際に沿って配管が這い、時折金属音が低く響いていた。


「聞こえるか」


フェルグが足を止め、耳を澄ませる。

確かに――ギィイ、という鈍い駆動音。

心臓の鼓動を思わせる周期的な振動。

そして金属が擦れる音。


「……どこからかしら」

「この先だ」


通路を進むと、やがて空間が開けた。

巨大な地下空洞。

壁一面に歯車が埋め込まれ、幾重にも絡み合って回転していた。

最奥には、巨大な炉。

赤黒い金属の塊が、中心で煮えたぎるように蠢いている。


「さ、来るぞ」


「鉄の龍……あ?」



そこに現れたのは、龍ではなかった。


巨大な炉の前。

赤黒い鉄の光を背負って、ひとりの男が立っていた。


肩から伸びる機械の補助腕。

腕には龍の鱗を思わせる装甲。

胸元には、炉心のように鈍く赤い光を放つコア。


けれど、その顔は。


「ハハ……何で、お前がいんだよ」


フェルグの声は呆れていた。

プレイヤー名は表示されない。

NPC名もない。ただボスという表示だけがある。


「本来ここで出てくるのは、龍鉄炉に繋がれた機械龍だ」

「前はそうだった」


「じゃあRE版で変わったってことね」


「ふざけた変更だな」

フェルグは吐き捨てるように言った。


「まあいい、人が譲った物を惜しげもなく消し飛ばした野郎だ」

「全力で、その顔面をぶん殴ってやる」


「クハハハハ、その意気よ!」



男が腕を上げると同時に地面から小型の龍の形をした機兵が数十体と、翼付きの蛇のようなものも複数出てきた。


「数が多いな!」


男はゆっくりと腕を振るった。

全てがこちらに向かってくる。


「任せろ!」


横にいるバルバロスがそう叫んだ瞬間。

彼の後方、いや。

それだけではない一面に艦砲の発射口が現れる。


「撃ち抜け!」


同時に発射口から風のエネルギー弾が放たれる。

私の前に居る竜の様な機械兵器は弾けるように爆散し、空を翔ける蛇のようなものは粉々に砕かれた。


「マジで!?やるわね」


「当たり前だ、この俺だからな!」


「ハイハイ、今回のは認めるわよ」


だがこの程度の雑魚を一掃しても奥に居るアイツには何も通用していないようだ。


「クハハ、流石に小銃程度では傷ひとつつけられぬか!」

「流石は、この俺の敵にふさわしいな」


バルバロスはニヤリと笑って見せた。


【加羅紅】(カラコウベ)


男が声を発した瞬間、赤黒の炎が巻き上がる。

その炎が収まると現れる機兵。

それは龍人のような姿だ。

巨大な爪と鱗のついた腕。そして紅に輝くは大きな尻尾。

そしてその眼を赤く光らせる。


「……なるほどな。あいつの龍機まで使ってくんのか」


フェルグは、低く舌打ちした。


「知ってるの?」

「見た目だけな、性能は知らんぞ」


私がそう言うと、フェルグは工具鞄を地面へ下ろした。

ガチャリ、と重い音。

鞄の留め具が外れる。

中から覗いたのは、武器――ではない。


釘。金属片。

瓶詰めの粉末。

薄い板状の素材。小さな歯車。

そして、見慣れない錬成器具。


フェルグが片手で釘を数本掴む。

 ただの釘に見えた。

 けれど、彼の指先が触れた瞬間、その表面に赤い紋様が走る。

そしてそれを投げつけるように弾いた。

その釘は龍機師の体を掠め、弾かれた。


「うん、駄目か」


「相当固いようだな!」


「そういうこったな」


龍人は低く唸り、尻尾を振り回して私に攻撃してきた。

尾での突きを低くかがみ躱し。


すぐさま爪での攻撃を、刀で受け流す。

そのままバックステップと同時に銀雷を放ち、そのこめかみに命中させる。

が、ダメージは無いようだ。


(やっぱりいい加減強化しなきゃね『銀雷』も)


「まあ、ここで三人仲良くこいつの相手をする必要は無い!アルヴィ、フェルグ。本体を叩け、こいつは俺が引き受けよう」


そう言い、バルバロスは黒いカトラスを取り出し構えた。


「任せてもいいのよね?」

「無論だ」


私は短く頷くと、前へ踏み出す。

すぐ側にはフェルグが並んだ。


「来るがいい!」


後方でバルバロスが、龍人と対峙する。


「まあ、あいつなら問題ないだろうな」


私は刀を握り直す。

次の瞬間。


【火雷緑王】ホノイカヅチリョクオウ

男の声が聞こえるとともに黒炎の中から出でる。

巨大な機械の龍。


全長は、下手をすればこの地下空洞の四分の一にも届きかねない。

全身を覆う外殻は、焼けた鉄のような黒を基調としていながら、その継ぎ目には脈打つような緑の光が走っている。


背中には、樹の枝にも避雷針にも見える突起がちらほらと。

その一本一本に、緑色の雷が絡みついていた。


「……あれも知ってる?」

「名前だけはな」


 フェルグは顔をしかめる。


「火雷緑王。あいつが一番自慢してた龍機だ」


「性能は?」「知らん」


「でしょうね」


「ただ、名前からして嫌な予感しかしないって事だけ」

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