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第49話 火に緑雷つまり機龍の王

 火雷緑王が顎を開いた。

 喉奥に赤と青の光が渦巻く。

 熱と雷が混ざったような、不快な音が地下空洞に広がった。


 その直後、火雷緑王の顎から雷を帯びた火球が放たれた。

 フェルグの方向に向けられた火球が、正面で破裂し周囲に雷が奔る。


 フェルグは咄嗟に横に回避するが避けきれず電流を喰らう。

 しかし倒れてはいない。体力は半分以下だが耐えきれたようだ。


「なんつう威力だよ、掠っただけだぞ!」


 フェルグは愚痴を溢しながらすぐに体勢を立て直す。


「私は慣れてるわよ」


「知るか!防御捨てたビルドと一緒にすんな」


『【電導合金】』


 私が攻撃をしようと近づいた瞬間。

 避雷針のような背中の棘から幾つもの電流が迸る。

 まるで嵐の様に電流が降り注ぐ。


 右前から来る電流を左へと避け、足元を掬うように這う物もジャンプして避けると嫌がらせかの様に狙い撃ちされた上段の電流が見えた。

 ギリギリでそれをパリィではじくと何とか私は無傷でその攻撃を乗り越える事が出来た。

 フェルグの方は?そう思い見れば彼は何かに覆われていた。


「何してるの?」


「防御スキルだ。あんなもん避けられるか」



 そう言って、腰袋から黒の釘を引っ張り出す。



「そろそろいい加減反撃するぞ!」


「ええ!」


 フェルグは指の間に四本の釘を挟み込み、左手に持っていた鉄粉のような物に釘を付けると。

 それをそのまま投げつけた。釘は龍に刺さると同時に赤く変色し炸裂する。


「うわ、何それ」


「サブジョブだ、錬金術師。基本戦うジョブじゃあねえけどな」


 火雷緑王は顔を上げ雄たけびを上げた。

 刹那、体表に這うように緑の雷がほとばしった。


 なるほどねー、じゃあ私も。


「そろそろ行きましょうか」


 私は箔新月を握り直し、目の前の巨大な龍機――火雷緑王を見上げた。


 黒鉄の外殻。脈打つ緑雷。

 炉心のように燃える赤い光。


 まともに斬って通る相手ではない。

 なら、まともじゃない手札を切るだけだ。


「【影纏い】」


 足元の影が揺れた。

 まるで生き物のように這い上がり、私の脚を、腰を、腕を包んでいく。

 袖口から伸びた二本の黒い帯が、風もない地下空洞でゆらりと揺れた。

 そして――


「【風化刹命の冠】」


 頭上の冠が、静かに黒金の光を放つ。

 瞬間、空気が変わった。

 炉の熱も、歯車の軋む音も、龍機の駆動音すらも遠のいたように感じる。

 黒金の光が背後で弾け、空間そのものを裂くように翼が広がった。


 ジャガモースが遺した、風化刹命の残響。

 背に宿った黒金の翼が、ゆっくりと開く。

 その一枚一枚に刻まれた模様が、炉の赤光を受けて妖しく輝いた。


「……それが、かよ」

 フェルグが低く呟く。



「おい! 俺を抜いてド派手だな!」

 後方でバルバロスが叫ぶ。


 私は振り返らずに返した。


「あんたはそっちに集中しなさい」


「クハハハ! 言うではないか!」

 笑い声を背に、私は一歩踏み込む。


 黒金の翼が、私の意志に応じてわずかに角度を変えた。

 影が地を這い、帯が揺れ、箔新月の刃が炉の光を映す。

 火雷緑王が、低く唸った。


「さあ」


 私は笑う。


「派手に行きましょう」


 翼が翻り、風を裂くように私は地を蹴った。

 ――が。


「……っ、速っ!?」


 想定していたより、ずっと加速が強い。

 一歩踏み込んだだけで、身体が弾丸みたいに前へ飛び出した。


「ちょ、行き過ぎ……!」


 止まれない。

 制御しきれないまま、私は火雷緑王の懐へ一気に飛び込んでしまう。

 その瞬間、巨大な鉤爪が振り下ろされた。

 黒鉄の爪が、私の身体を切り裂こうと迫る。


「――ッ!」


 咄嗟に横の岩壁へ影を撃ち込む。

 影が壁に食い込み、私の身体を強引に引っ張った。


 同時に地面を蹴り、跳躍。

 さらに【飛燕】で空を蹴って軌道を変える。

 爪が、さっきまで私がいた場所を抉り取った。


「危なっ……!」


 けれど、その勢いを利用して高度は取れた。

 私は空中で体勢を整え、火雷緑王の背へ視線を向ける。

 そこに、龍機師本体がいた。


 龍の背に立ち、こちらを見ている。


「さあ」


 私は箔新月を握り直し、黒金の翼を広げる。


 そのまま落下し龍の上に乗れば、そこはもうデスマッチ。


「ぶん殴ってあげるわよ」


 その時、龍機師は手を上げた。

 その瞬間、火雷緑王は胴を反り上げる。


 このままだと私は地面へ叩きつけられてしまう。

 すぐさまそれを察してすぐさま前に出る。

 背中の棘を掻い潜り、目の前の男を真正面から蹴り飛ばした。


 蹴りは、確かに入った。


 足裏に伝わる硬い感触。

 龍鉄の装甲に覆われた、重い人型を蹴り抜く感触。


「――ッ!」


 龍機師の身体が、火雷緑王の背から浮いた。


 吹き飛ばされる。

 その先は、地下空洞の最奥。

 巨大な炉の前。

 赤黒い光が渦巻く、龍鉄炉の目前だった。


 龍機師は地面を数度跳ね、火花を散らしながら滑っていく。

 だが、倒れきる直前。

 背中から伸びた機械腕が床を叩き、強引に姿勢を立て直した。


「……硬いわね」


 私は火雷緑王の背に着地する。

 だが、足場としては最悪だった。

 背の突起から緑雷が走り、黒鉄の外殻が上下に大きく揺れる。


 火雷緑王が咆哮した。

 龍機師を落とされたことに反応したのか、巨大な首が反転する。

 私を振り落とそうと、主を守ろうと。

 その巨体が、まるで生き物のように捻じれ、躍動する。


「ちょっと、めんど――」

 言いかけた瞬間。

 火雷緑王の胴体に、赤い炸裂が走った。


 ドンッ!!

 黒金の釘が、外殻の継ぎ目で爆ぜる。

 火雷緑王の巨体がわずかに傾いた。


「さっさと行け」

 フェルグの声が、下から響く。


 見ると、フェルグは龍の足元に立っていた。

 工具鞄を開き、片手に黒金の釘。

 もう片方の手には、赤い粉末をまぶした鎚を握っている。


「頼もしいじゃない」


「余所見してる暇あんのかよ」


「ないわね」

 私は短く笑い、火雷緑王の背を蹴った。


 空中で身体を沈め、最奥へ落ちるように飛ぶ。

 その先で、龍機師がこちらを見上げていた。

 胸元の炉心が、鈍く光る。

 両肩の機械腕が展開し、鋭い刃と砲身を形作った。

 迎撃する気だ。


「いいわよ」


 私は箔新月を構える。


「今度こそ、誰の邪魔も入らない」


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