第39話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:十三
「……クッソ!」
次の行動に、移らないと
ジャガモースが振り向く。
再び構える、詠唱を始める。
「——天衣無縫」
もう一度――来る。
「ッ!」
頭の中を、思考が駆け巡る。
浮かびやしない。
だが、なりふり構っていられるものか。
チュニドラなら持っているはずだ!
詠唱が終わる前に何としても!
チュニドラの元へ。
足しかないけど。アイテム欄はある。
その中から――大楯を、掴む。
「はっ……!」
でも、構うな。
これしか――ない。
「――飾らずとも」
来る。詠唱が、進む。
私は大楯を――
身体ごと、覆うように構えた。
視界が、消える。
何も見えない。
分かるのは一つだけ。
「――完全であり」
来る方向は――四つ。
上。右。左。
それとも――このまま正面。
防御は、意味がない。
さっき見た。貫通する。
スキルも、装備も。
全部。
「……なら」
選べ。
今、この一瞬で。
「――矢は」
心臓が、跳ねる。
直感で動いた、一切の根拠はない。
――その瞬間。
私は、地面を蹴った。
大楯を捨てて、上へ。
次の瞬間。
「——飛んで行く」
直下。
さっきまで自分がいた場所が。
一直線に、消し飛んでいる。
遅れて、衝撃波。
でも――
「……当たってない」
生きてる。
賭けに――勝った。
また一分、削れている。
でもなんだ、最初のと比べて。
少し――ほんの少しだけ、削れていない。
浮かぶ、一つの可能性。
だが、無意味な仮説。
ジャガモースが、ゆっくりとこちらへ振り向く。
その動きは遅い。
翼の先が砂と化して、風化している。
削っている。
確実に、寿命を。
「なら――削り勝つ」
踏み込む。一歩。
距離を詰める。
ジャガモースの眼が、細められる。
「……来るか」
その声は、静かだった。
だが、その奥にあるのは――
明確な殺意。
再び、詠唱の気配。
「――天衣無縫」
「絶対に通さない」
踏み込みを、加速。
その瞬間。
影をジャガモースを超えた先へと引っかける。
そのまま勢いのまま、加速し続ける。
「【威間】」
ジャガモースが、反応する。
だが――その時には。
私は、彼の眼前にいた。
加速しながら通り過ぎながら、全力でその刀を突き込む!
確かに、それは通った。
次の瞬間。ジャガモースが、顔をしかめる。
だが、浅い。踏み込めなかったその突きでは。残りの寿命を削り切るに至らない。
残り――1分27秒
「飾らずとも」
「それが――最後でしょ」
吐き捨てる。
息が、焼ける。
足が、重い。
頭が破裂しそうだ。
それでも――止まれない。
ジャガモースの詠唱が、続く。
「――完全であり」
この距離、この時間。
次は――避けきれない。
「……ッ」
視線が、落ちた。
そこにある。
マインの――残骸。
装飾品だけが残った、その場所。
「……何か」
躊躇は、ない。
滑り込むように地面を蹴り。
手を、突っ込む。
アイテム欄。
まだ、開いている。
「何か……!」
時間は、一瞬。
掴んだ物は
低級召喚獣のスクロール。
大量にある。戦力になんてならない。
「……これで、いい」
目隠しになればいい!
いや――これしかない。
指が、勝手に動く。
破る。一枚。
二枚。
「全部、来いッ!!」
一斉に、発動。
光が弾ける。次の瞬間。
小型の魔獣、精霊、歪な影。
取るに足らない存在たちが――
空間を、埋め尽くした。
「――矢は」
詠唱が、完成する。
「――飛んで行く」
来る。
見えない。
だが――
その瞬間。
世界が、切り裂かれた。
一直線。
何もかもを無視して。
召喚獣が――消える。
壁のようにいたそれらが。
衝撃で、存在ごと消し飛ぶ。
だが。その一瞬。
ほんの、少しだけ。
逸れた。
「――ッ!!」
避けきれ――なかった。
一瞬、何が起きたのか理解できない。
遅れて。視界の端。
自分の左手が消し飛んでいることに気付く。
でも、生きている。
それでも――立っている。
「……残り、は……」
視線が、砂時計へ向く。
――18秒。
あの技は。
一回ごとに、一分寿命を削る。
もう、撃てない。
耐えきれば――勝てる。
そう思った瞬間。
さらり――音が、響いた。
やけに、鮮明に。
砂時計の最後の一粒が――落ちた。
「……そう」
理解する。
そして。
「――天衣無縫」
「このッ!負けず嫌いが!」




