第37話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:十一
その言葉を皮切りに彼が肉薄する。
マインのMPを節約するためにも。
最速で当てる。
影をジャガモースへと伸ばす。
それを腕を薙ぎ払い破壊する。
【完全なる一の直感】で次の攻撃の軌道が見える。
でも一回だけだ。
黒金の翼が、迫る。速い。
だが――見えている。
「――ッ!」
踏み込み。
最小限の動きで、軌道に刃を差し込む。
ガンッ!!衝撃。
腕が軋む。
だが――パリィは成功した。
その一瞬。
一歩、踏み出す。躊躇はない。
ここで行かなければ、二度目はない。
ここで決めなければ。
マインのバフは到底持たない。
視界の先。
ジャガモースの中心。
そこに――
「【英雄決断】――」
振り抜こうとした瞬間。
黒金の翼。もう一枚。
速すぎる。
間に合わない。
反射で影を踏む。
「【瞬影】」
――消える。
次の瞬間。
出現位置は、背後。
それを何度も見せてきた。
貴方も分かってるんでしょ。
でも。
「騙してあげる」
消える寸前、私はその言葉を落とした。
――今度は正面だ。
黒金の翼が、背後を斬り裂く。
だが――私は、そこにいない。
真正面。
ジャガモースの視界の外。
「――っ」
踏み込む。
距離は、ゼロ。
そのまま振り抜く――行ける。
はずだった。
ジャガモースの身体が、ぶれる。
「……!」
振り返っている。
いや――違う。
次の瞬間。
右足を軸に、ジャガモースの身体が捻る。
蹴り。
この距離、この速度。
――回避不能。
間に合わない。
だが、その視界にはチュニドラが――佇んでいた。
ガンッ!!!
轟音。
チュニドラの盾が、蹴りを正面から受け止める。
盾が砕ける、腕が砕ける。
ダメージは確かなものだ。
それでも――
「英雄の一撃だ、邪魔すんな!」
歯を食いしばり、笑う。
その言葉で、すべてが繋がる。
息を、止める。音が、消える。
世界が、細く、研ぎ澄まされる。
刃だけが、残る。
「――【英雄決断】」
一点へ、突き刺せ!
決めるための一撃。
黒金の外殻が、裂ける。
抉れ!割れ!突き立てろ!
奥へと、到達する。
砂時計。
さらさら、ではない。
命が、削れている。
その中で。
ジャガモースが、呟く。
「まだだ!」
次の瞬間。
その腕が――伸びた。
「ッ!?」
避けるより、早い。
腕が、掴まれる。
逃げられない。
黒金の翼が、振り上げられる。
来る。
この距離、この拘束。
防げない。躱せない。
――終わる。
「【霞踏み】」
思考より先に、叫んでいた。
消えろ。
消えろ消えろ消えろ――!
速く、移動しろ!!
だが。一瞬
翼が、振り抜かれる。
直撃。
衝撃が、全身を貫く。
《死にぞこない 発動》
――止まるな。
HPが、底で踏みとどまる。
身体が、ほどける。
霞のように。
掴まれていたはずの感触が、消える。
次の瞬間。数歩先。
地面を、転がっていた。
「……はっ」
肺が、空気を求めて痙攣する。
心臓が、暴れる。
生きている。
本当に、ギリギリで。
「あっぶな……」
掠れた声が漏れる。
だけど……使ってしまった虎の子の食いしばりを。
保険は――
何も残っていない。
残り――七分。
それでも、問題はない。
回復のポーションを飲みながら
再度あの超感覚が体に戻る。
七分、ここから全部を捌いて。
私達が――勝つ。
★
何が――足りない。
君たちに勝つには何が足りない。
俺に、命以外の何を賭ければ。
君たちに勝てるんだ?
俺の人生は、ずっと一人だった。
死を恐れ。
生きることを拒み。
終わらない夢の中で、逃げ続けた。
だが。君が教えた。
今は、尊い。
感情は、重い。
誰かと在る時間が――こんなにも、満ちていることを。
だからこそ。
終わりが――惜しい。
「……ああ」
息を吐く。そして。
「もういい」
最後は――ただ、終わる。
この終わりは、受け入れている。
ああ、命を賭けよう。
―――「今も賭けよう」
こんな命一つ。
燃やしてしまえ。
「俺は、君に勝ちたい」




