第34話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:八
ジャガモースが動く。
瞬き程の一瞬でチュニドラに肉薄。
そのまま体勢を変え上から下へと強烈な蹴り込みを繰り出す。
チュニドラは左腕の盾で防御する。
それをジャスガして弾いた。
しかし、ジャガモースは地に手を付きながら翼をしならせながら突き出す。
それよりも速く、盾を滑り込ませて弾く。
私は後ろへ跳び、距離を取る。
そのまま地面を滑るように後退しながら、視界の端で戦いを追う。
チュニドラは――まだ生きている。
黒金の蹴りが落ちる。
カンッ!!
左腕の盾がわずかに角度を変え、衝撃を横へ流す。
直後、地面を擦るように伸びた翼の突き。
ガギンッ!!
右腕の盾が滑り込み、刃の軌道を弾いた。
速い。
だが――全部、間に合っている。
いや……おかしい
ジャガモースは速い。
この異常な感覚があってようやく防げている。
それを。
チュニドラが、全部ジャスガしている。
でも、それならそれでいい!
私は手を振り、メニューを開く。
視界の端に、半透明のウィンドウが浮かび上がる。
ステータス欄を勢いよく。スクロールする。
HP。
スタミナ。
スキル。
そして、そこに――見慣れない文字があった。
《状態:覚醒》
その下。
バフの一覧。
【英雄覇道】
心臓が、一拍強く鳴る。
(……これか)
世界が遅い理由。
翼の軌道が見える理由。
踏み込みの重心まで理解できる理由。
全部。この状態のおかげ。
その時。
前方で、再び轟音。
ドォンッ!!
ジャガモースの拳が叩き込まれる。
だが。カァン!!
チュニドラの盾が、完璧な角度で弾いた。
衝撃が横へ逃げ、地面を抉る。
続く翼の斬撃。
チュニドラの身体が、わずかに揺れる。
その瞬間。
ジャガモースの目が、僅かに見開かれた。
そして、盾が動く。
ガギィン!!
また弾いた。だが今のは――
見てから動いた速度じゃない。
私は視線を横へ向ける。
マイン。
彼女は杖を握りしめていた。
その口が、小さく動く。
「……【完全なる一の直感】」
小さな光が、チュニドラへ流れる。
なるほど。大体わかった。
バフだ。
マインの顔色は、明らかに悪い。
「マイン」
私はすぐさまマインに近づく。
マインは、杖を握りしめたまま小さく呟いた。
「……長くは、持ちません」
「このバフ【完全なる一の直感】は」
「一回、攻撃を予知できます」
私は眉を寄せる。
つまり。今の連撃。
そのたびに。
「……かけ直してるってこと?」
マインは小さく頷いた。
「はい、MPの消費も大きい魔法です」
「蓄魔石のストックも半分を切りました」
「……本当に、あんたが居てよかったわよ」
まだ半分、それだけでも朗報だ。
本当に頼もしい。前方。
ジャガモースの翼が、ゆっくり広がる。
空気が震える。次の攻撃が来る。
チュニドラが盾を構える。
「先輩!それと一つ伝えたいことを言います!」
「多分このクエストは砂時計が落ちきるまでの耐久クエスト」
「そして、落ちた砂と経った時間からこのクエストの耐久時間は……30分」
「——残り26分です」
沈黙。
その言葉が、空間に重く落ちた。
二十六分。
この怪物を相手に。
この速度、この威力、この理不尽な外殻。
これを――あと二十六分。
生き延びなければならない
いや――もしかしたら。
「チュニドラ!」
影を伸ばす。
瞬時にそれがチュニドラの身体へ絡みつき、強引にこちらへ引き寄せた。
「え?おい、ちょま――」
そのまま位置を入れ替えるように前へ踏み出す。
「スイッチ!」
私は叫んだ。
「マインのMP節約!」
チュニドラの目が見開かれる。
一瞬。
そして、すぐに理解したように口元が歪んだ。
「……了解」
チュニドラが後ろへ跳び、私が前に出る。
ジャガモースの視線がこちらへ向く。
「行くわよ」
「——いや、こちらから行こう」
一瞬で肉薄、その蹴り上げをパリィで逸らしながら。
次々来る連撃を何とか捌いていく。
次の瞬間――黒金の翼が翻る。
だが、私には見えていた。
一挙手一投足。攻撃のタイミングも全て。
一つ目は横から来る、そのまま身を屈め滑り込み脇腹辺りを狙う。
回避成功と同時に下から掬い上げるように箔新月を振るう。
――が、やはり弾かれた。
間髪入れずに右斜め上から、死の翼が迫る。
「——【瞬影】」
翼は私の影を砕き、私は振り切った翼側の側面に回り込む。
「【威間】」
箔新月の切っ先が、一直線に走った。
ガッ!!
今までとは違う、鈍く重い感触。
刃が――入った。
黒金の外殻を、わずかに抉る。
「……!」
ジャガモースの瞳が、大きく揺れた。
防御も、ガードも。
その瞬間だけ――意味を成さない。
「――我が威間。防ぐこと敵わず」
外殻の奥。
白い肉が、ほんのわずか露出する。
次の瞬間。
黒金の翼が、私のいた空間を真っ二つに裂いた。
私はもうそこにいない。
地面をに引っ掛けた影で移動し離脱する。
その背後。
巨大な砂時計。
さらさらと落ちていた砂が――加速する。
明らかにさっきよりも速い。
マインが息を呑む。
「砂が……!」
私は視線だけを向ける。
砂時計。
確実に、勢いよく砂が落ちている。
だが、一瞬だけ。またすぐに落ちる速度は戻っていく。
予想通りだ。ダメージを与えると
砂時計を一瞥する。
「残り時間を削れる」
「……あれは、俺の寿命を指しているのだろう」
視線の先で、ジャガモースは。
「短いな、分からない事が多すぎる」
「でもこの刹那で俺は――君達に勝ちたい」
真っすぐとそれは清々しい程に、言葉を紡いだ。
黒金の外殻に、わずかに露出した傷。
すぐさまに再生していく。
私は、箔新月を構え直した。
「——そう。ねえ、ジャガモース」
ゆっくりと息を吐く。
「楽しみましょう」
「貴方に残された、この刹那を――」
ジャガモースの黒金の翼が、わずかに動いた。
風が変わる。
「ああ……そうだな」
奴は、わずかに微笑む。
残り――二十三分。
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【完全なる一の直感】かなり説明がわかりにくいのですが
一回だけ見聞色の覇気を付与してくれるって感じのバフです。




