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第33話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:七


「——ッ」


 第三形態!?純白はただのエフェクト!?

 それに【戴冠の試練】(レクスクエスト)って何?

 死誕?【風化刹命】?砂時計?勝ちたい?


 情報が多すぎる!

 ええい!


「二人とも、考察は後!今はただあのジャガモースを倒す事に集——!」


《戴冠の試練【風化刹命】この戦闘に敗北した場合――》

《その時点で【風化刹命】は《《永久に失敗》》となります》


 空気が――凍った。

「は?」


 チュニドラが間抜けな声を漏らす。


「永久……失敗?」

 マインの声が震える。


「つまり……」

 私は歯を食いしばる。


「ここで負けたら、もう二度と挑戦できないって事ですよね」

 沈黙。そして。


「はは」


 チュニドラが笑った。

 乾いた笑いだった。


「——最高だろ」


 盾を握り直す。

 マインは小さく息を吸うと、ゆっくり吐いた。


「……確かに」

 杖を構える。

「ここで負けたら終わり、ですか」

 彼女は少しだけ笑った。

「じゃあ勝つしかないですね」

 その時だった。


 背後の巨大な砂時計。

 その砂が――落ち始める。


 さらさらと。そして聞き馴染の無い声が響いた。


「――これが最後か……」


 ……喋った?


「実に、刹那の一瞬。だが――これこそが、風化無き輝き」


 ジャガモースの声は、静かだった。

 だがその一言だけで、空気が張り詰める。

 黒金の翼が、ゆっくりと広がる。

 その瞳は、まっすぐ私を見ていた。


「――行くぞ」


 挑発でも威嚇でもない。

 ただ、戦う者としての呼びかけ。


 次の瞬間。

 爆発的な動きで、こちらへ肉薄する。


「――ッ!」


 身体が反射で動く。

 横へ。

 コンマ数秒遅れて、空間が裂けた。

 轟音。

 ジャガモースの拳が通過した場所の地面が、抉り飛ぶ。


 異質な速さ。異質な圧力。

 それまでの動きが、暴れ狂う怪物のものだったなら、今のそれは洗練された死神のようだった。


「アレを避けた!?」


 後ろでチュニドラが驚く、当然だ。私だって驚いている。

 なんだ、やけに体が軽い。

 世界がゆっくりに見える――けど。


 それ以上に速すぎる!

 追撃の翼が、視界の端で閃いた。


 反射的に身を沈める。

 黒金の刃のような翼が、髪先を掠めて通り過ぎた。


 距離、距離を取れ!絶対に近づくな、負ける!

 判断の瞬間。奴の翼が広がる。

 黒金の翼が展開され、次の瞬間。

 私に向かって、一斉に叩きつけられた。


「あーもう!」


 ギリギリだ、ギリギリでCTが上がった【影纏い】を使い逃れた。

 何とか、チュニドラの方に!サシは無理。


 その意図をくみ取ってくれたようで。

 次の瞬間にはチュニドラが前に飛び出してくる。


「受けてやるよ」


 盾が前へ突き出される。

 ジャガモースの拳が振り下ろされ――

 ドォンッ!!

 衝撃で地面が沈んだ。


「っぐ……!」


 チュニドラの膝が一瞬沈む。

 だが倒れない。

 盾の表面に走る青い回路が激しく明滅する。


「重っ……!」


 ガードが成功しているのにスタミナじゃないHPまで削れている。

 第二撃。

 背の翼が大きくしなり、次の瞬間、槍のように前へ突き出された。

 それはいとも容易く障壁を貫きチュニドラの腕を貫通した。

 チュニドラの表情が歪む。


「――ふっざけ」


 言い切る前に、次の一撃が来た。

 黒金の翼が、しなる。

 一瞬、時間が止まったように見えた。

 その軌道が――見えた。

 横薙ぎ、だがガードが間に合っている。


「チュニドラ!!」


 私が叫ぶ。

 チュニドラは笑っていた。


「任せ――」


 翼が、振り抜かれる。

 音が、遅れて来た。

 ギィィィン――という、金属が引き裂かれるような異音。

 そして。一瞬の静止。

 チュニドラの身体が、そこで止まった。

 盾を構えたまま。

 その表情のまま。


 ずるり、と。上半身が、滑り落ちた。

 鎧ごと。

 まるで豆腐を切るみたいに、防具ごと。

 胴から上が、ずれて地面へ落ちる。

 ドサッ。

 遅れて、残された下半身が崩れた。

 ポリゴンが舞いながら粒子が、空気に溶ける。


【チュニドラ 戦闘不能】


 タンクだ……チュニドラはタンクだ!

 ガードだって成功していた。

 なのに――それなのにまるで意味をなしてない。

 私が呆然とする暇もなく。

 視線の先で、マインが杖を掲げている。

 時間を稼がないといけない。チュニドラが立て直すまでの時間。


 瞬時に影を伸ばし、ジャガモースを拘束する。

 一瞬で破壊され、その眼はこちらを睨む。

 肉薄の末迫りくる頭上の即死の翼をパリィで弾いて逸らし。

 次々と迫る連撃を躱し、捌いていく。

 さっきからなんだ世界が、遅い。

 ジャガモースの翼が振り抜かれる。


 その軌道が、はっきり見えた。

 空気が裂ける線。地面が砕ける未来。

 そのすべてが、手に取るように理解できる。

 今までとは動きの質が全然違う……。

 この状態に体が慣れてきた、それにしてもなんで。


「【天地返す逆流】」


 マインの方から声が聞こえる。蘇生が終わったようだ。

 これで少しは―――

 マインは息を整え、再度杖を掲げる。


「今回復とバフをかけます」


「……あの翼、防御できないな」


 チュニドラが、腕をさすりながら呻く。

「ガードしてたのに、完全にやられた。タンクの基本をぶち壊しやがって……」


「見てれば分かりますよ。それとも先輩が戦ってるのに弱音しか吐けませんか?」


「分かってるよ、それでも文句くらい言わせろ」


 チュニドラは盾を地面に立てて、軽く跳ねる。


「バフを速度特化に変えました……先輩にもかけたいんですけど。今なんか、凄い事になってますね」


「とても同じ人間とは思えん」


「ですね……提案があります」


 聞えてるっつうの!私だって何でこんな捌けているか分からないけど!

 ジャガモースの翼が、再び振り上がる。

 だが――見える。

 翼の角度。踏み込み。重心。

 そして。

 その一撃が通過する未来の線。

 それが、すべて鮮明に目に映る。

 動ける。確信と同時、私は地面を蹴り出した。

 迫る黒金の翼。空気を裂くように走る一閃。


 しかし。その軌道の内側。

 瞬時に身体を滑らせ、一歩。 足を踏み込み。

 箔新月が煌めき、空気を切り裂く。

 完璧とも呼べるようなタイミング。

 ――だが。


 箔新月の刃は弾かれた。

 ギィンッ!!

 硬い、という次元じゃない。

 まるで山に叩きつけたみたいな感触。

 刃は外殻を浅く擦っただけで、まるで動かない。


「――ッ!」


 あり得ない。

 今のは、完璧だった。

 軌道も、踏み込みも、間合いも。

 それでも。通らない。

 その一瞬。

 ジャガモースの瞳が、わずかに細められた。

 次の瞬間。

 拳が、振り下ろされる。

 体勢を立て直す時間など無い。


 視界のすべてを覆うほどの黒い影。

 死ぬ。そう確信した。

 だが――

 その翼は、私に届かなかった。


 ドォォォンッ!!

 爆音。

 私の目の前で、黒金の拳が止まっている。


 その間に。二枚の盾。

 交差するように構えられた鋼。


「――はぁ」


 聞き慣れた声。


「一回だけだからな」


 チュニドラが、そこにいた。

 両腕に盾を装着して。

 ガギギギギギッ!!


 ジャガモースの拳が押し込まれる。

 だが。

 盾の表面を、赤い炎の紋様が走っていた。


《【剛勇心火】発動》


 衝撃が、弾ける。

 轟音と共に拳が弾き返された。

 盾の形が、以前と違っていた。

 片手の籠手ではない。


 両腕に装着された、短く分厚い盾。

 装備も変わっている機動に特化させたみたい。

 チュニドラが、軽く拳を打ち合わせる。


「【カルヴァイン】こいつの出番だな!」


 ジャガモースの翼が、ゆっくりと持ち上がる。

 殺意の圧が、空間を満たす。

 チュニドラは、前に出た。

 一歩。

 私の前に立つ。


「ガードするのは無理っぽいからな」


 両腕の盾を、ゆっくり構える。



「これからは――全部ジャスガしてやるよ」


 その言葉に対し、ジャガモースの口元が、わずかに歪んだ。

 それは嘲りではない。

 どこか、楽しそうな笑みだった。


「ああ、そうか。なら――見せてくれ!」


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