第30話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:四
次の瞬間、霧が晴れていく。視界が戻った。
「遅せぇよアルヴィ……てっ、お前、何したんだよ」
「何って、ただタイマンに付き合ってあげただけよ」
「えぇ……」
マインも呆れたようにこちらを見る。
何でもいい、とにかく――
「さ、続きしましょう?」
私は再び武器を構えた。
チュニドラとマインは、何も言わずともすぐに動いてくれる。
空気がざわつく。何かが起きる予兆だ。
私たちは構えたが、次の瞬間、予想外の動きを見せた。
血の羽は大きく広がったまま、だが――その色が、ゆっくりと失われていった。
赤黒い血管が、逆流するように白へと戻っていく。
「……ん?」
チュニドラが眉をひそめる。
さっきまで空間を覆っていた赤い粒子が、今度は逆に奴の身体へ吸い込まれていく。
まるで、世界から色を回収しているみたいに。
次の瞬間。
――【純白】
音が、消えた。
視界が――真っ白に染まる。
「……まずい!!」
叫んだのは私だった。
「チュニドラ!防御――」
言い切る前に、世界が弾けた。
それは、到底間に合うわけもなく一瞬で私は白に包まれた。
《スキル【死にぞこない】発動》
HP1で食いしばる……そんなものが意味をなさないように連続で襲いかかる白の奔流。堪え切れる訳もなく……逆に視界を真っ黒に染めた。
そして観戦視点へと切り替わる。
【アルヴィ 戦闘不能】
「だぁ!何だよこれ」
チュニドラはギリギリで【光界】を発動しマインと共に防御していた。
次々と障壁が割られていくのに対し、別のスキルを使いさらに延命。
数秒――
ようやく、世界を埋め尽くしていた白が引いた。
「マイン!アルヴィを蘇生しろ。その時間は稼ぐ」
「はい!」
マインは短く息を吐き、杖を強く握り直し、私の死体へと駆けていく。
だが。
――【裂ける血の祝福】
また、そのスキルだ。
大地を這う血管が、床へと広がっていく。
(ッ……この技に対しては。私は自分とチュニドラに回復し続ければいけない。でも、これをやっている間は向こうも何もできない)
(時間を稼ぐだけ、蓄魔石に貯めたMPはまだまだある!)
だが――そんな思考を裏切るように。
手を地面に突けていなければ発動できない、今までの前提を覆して。
ジャガモースは動き始めた。
羽が空を斬り裂き、チュニドラに牙を剥く。
「嘘だろ!」
盾を構えるが、先ほどまでより明らかに速度と威力が上がっている。
更に割合で削れていくHP。
「マイン!回復はいい!アルヴィを蘇生しろ」
チュニドラの声は短く、しかし迷いはなかった。
「切り札を切る」
ガントレットが低く唸る。
腕の装甲の隙間から金色の光が滲み出し、まるで内側から焼けるように輝き始めた。
「【金剛覇邪】」
瞬間、チュニドラの全身が黄金の光に包まれる。
地を這う血管がその足元を覆い、割合ダメージが削っていく――はずだった。
だが。赤黒い光は、チュニドラの身体に触れた瞬間に弾かれた。
「――来いよ」
チュニドラが盾を構える。
ジャガモースの羽が空気を裂き、一直線に襲い掛かった。
ドンッ!!
凄まじい衝突音。
だがチュニドラは一歩も退かない。
「効かねぇよ!」
羽が叩きつけられ、拳が振り抜かれ、血の粒子が爆ぜる。
それでも黄金の光は砕けない。
完全無敵。
マインは私の元へと滑り込むように駆け寄り、魔導書を開く。
「先輩、聞いてますか。復活後の一秒間、無敵があるんでその間に何とかしてくださいよ」
足元に、回転する淡い光の紋様が浮かび上がった。
下から上へ。
時間を巻き戻すように、世界が逆流を始める。
「――【天地返す逆流】」
鼓動が――逆に打つ。
一拍、空白。
次の瞬間、強引に叩き起こされる感覚。
HP0 → HP1
「――っ、は!」
気持ち悪さを振り切り。
飛燕を発動し壁に指を引っかけ滞空する。
「ごめん、油断した」
「大丈夫です、今回復します」
マインはバフと回復をかけ直す。
「……さて」
私は再度、ジャガモースを見据える。
こいつを、今度こそ倒す。
でも今はチュニドラの番かな。
奴の攻撃なんて、物ともせずにその拳を叩き込んでいく。
完全無敵は伊達じゃない。
その時、ログが落ちた。
【英雄決断——使用可能】
ああ、ようやく。
「そろそろ切れるからな!」
「了解」
こっちも、準備完了だ。
地面のダメージ判定が無くなると同時に、チュニドラの身体を包んでいた黄金の光がゆっくりと薄れていく。
最後の一撃を叩き込むように、チュニドラが拳を振り抜いた。
ドンッ!!
鈍い衝撃音と共に、ジャガモースの身体がわずかに揺れる。
だが、倒れない。
白い身体はゆっくりと姿勢を戻し、血の羽を大きく広げた。
「っ、切れた!」
黄金の光が弾けるように消える。
チュニドラはすぐに後退し、再び盾を構えた。
「アルヴィ!」
「分かってる!」
私は壁から飛び降りる。
空中で身体をひねり、そのまま着地と同時に踏み込んだ。
ジャガモースの視線が、こちらを捉えた。
――【血脈暴走】
ログが落ちた瞬間。
地面を走っていた血管が、風船のように膨れ上がる。
次の瞬間――爆ぜる。
赤黒い槍が、地面を突き破って噴き上がる。
私は横へ跳ぶ。
頬を掠める赤い刃。
着地した足元から、さらに槍が突き上がる。
躱す。
捻る。
跳ぶ。
「チュニドラ!マインを!」
「分かってるよ!」
マインはチュニドラが守っている、それなら問題ない。
槍の合間を縫い、さらに前へ。
距離が、縮まる。
二十メートル。
十五。
十。
理想郷の中心。
白い怪物が、こちらを見ていた。
私は箔新月を静かに構える。
終わりにしてあげる。
――貴方の理想郷。




