表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/43

第31話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:五

(……この感情は何だ、

 胸の奥で何かが渦巻く。本能が拒絶する。

 だが。

 それでも――これは大切な気がした)


槍が、止まる。

地面に広がっていた血管が、ゆっくりと萎んでいく。

あと三メートル。

私はさらに踏み込む。


その瞬間――

【ジャガモースは×××を蓄積した】


奴が動く。

右から羽の斬撃。

足に力を溜め、寸前で止まる。

拳。

回転しながら紙一重で躱す。

血管の羽が大きく開く。

反射的に体を沈める。

頭上を羽が薙ぎ払った。

――見えている。


狙うのは一つ。

私が狙うのは――以前と同様に、【瞬影】からの【英雄決断】。

だが、今回違うところはカウンターを気にしないでもいいという事だ。

マインの蘇生はあと二回残っているし、チュニドラも控えている。 以前のような相打ちでも十分な成果を得られる。

相打ちでも勝てる。


――だが。

私は口元を歪めた。

そんな勝ち方。

つまらないでしょう?

やるなら――完璧に勝つ。


真正面から突き上げるような拳が来る。

私は踏み込む足を止めない。

拳が胸元を抉る軌道を描く、その寸前。

身体を半歩だけ捻る。


風が裂ける。

拳は私の肩口を掠めただけで、空を切った。

そのまま滑り込むように懐へ。

近い。

近すぎる距離。刀すら振れやしない。


ジャガモースの目が、僅かに揺れた。

だが次の瞬間、奴の羽が動く。

背後から包み込むように――突く。


「――【瞬影】」


視界が歪む。

影がその場に残り、奴の背後へと瞬時に移動する。

羽は空気を裂いた。

奴もこちらに気付く。

更に力強く踏み込んで。箔新月を、振り抜く。

それよりも速くジャガモースの拳が私を捉えた。

――だが、殴り飛ばされるはずの私は霞の様に崩れ去るだけ。


「——【霞踏み】」


もう既に、そこに私はいない。

――【英雄決断】

ログが、落ちる。


世界が、一瞬だけ静止した。

鼓動だけが聞こえる。

その一拍の間に、すべてが収束する。

判断。覚悟。

踏み込み。

迷いの無い一撃。

箔新月が、白い胸部へと吸い込まれる。

刃が、通った。静かな音。

まるで、水面を裂くような。


一拍遅れて。

ジャガモースの身体に、一本の線が走る。

白い外殻。血管の羽。

その中心を、真っ直ぐに。

世界が、止まる。

そして。

次の瞬間。

亀裂が――弾けた。


赤黒い光が、内側から噴き出す。


『ア……』


声にならない何かが、空気を震わせた。

羽が崩れる。

血管が千切れる。

白い身体が、ゆっくりと傾く。

理想郷の中心で。

怪物は、倒れた。

私は刃を振り払う。


赤黒い粒子が、静かに空へ溶けていく。

後ろを振り向く。

チュニドラが、数秒固まってから言った。


「いやお前……」

盾を下ろしながら。

「格好つけすぎだろ」


マインは、ほっとしたように息を吐いた。


「でも……先輩らしいです」


背後で。

ジャガモースの身体が、ゆっくりと崩れ始めていた。

理想郷は、終わる。

 

         ★


ようやく分かった気がするんだ……もう今更だけど。

この衝動が、感情が分かった気がする。


崩れていく白い身体を見つめながら、頭の中で思考が回る。

胸の奥で燃えていたもの。

怒りでもない。

恐怖でもない。

ましてや、生への執着でもない。

ただ――

楽しかったんだ。

純粋に。戦うことが。

この瞬間が。


        ★

その時だった。

崩れ落ちていくジャガモースの身体が、ふっと止まる。

崩れていたはずの白い外殻が、光を帯びていく。

赤黒い粒子が、空へ逃げるどころか――逆に集まり始めていた。

吸い寄せられるように。

怪物の身体へ。


「嘘ですよね……」


チュニドラの声が低くなる。


「まだ終わってねぇ!」


私は振り返る。

ジャガモースは、既に立っていない。

膝をついたまま、ゆっくりと崩れている。

だが。

その身体は、今――

光になっていた。

白い。

あまりにも、白い光。


「最後の最後に!」


ログが、静かに落ちる。


――【 純 白 】


「チュニドラ!!」


私は叫んだ。

だが、世界は静寂に、視界は白に染まる。


―――――――?


何も起きない。

衝撃も、ダメージも無い。

ただ、静寂と白。

その中で。

ログが降ってくる。


《ユニーククエスト【我、理想郷。決して変わらず風化せず】をクリアしました》


一拍。


《続いて》


戴冠の試練(レクスクエスト)【 風 化 刹 命 】を開始します》


ゆっくりと――息をのんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ