第29話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:三
side:チュニドラ
「で、出れねー!」
必死に霧の壁を押して見るものの、アルヴィが言っていたような弱弱しい反発じゃない。まるで空間自体が硬い壁のように押し返してくる。
まずいまずいまずい……!
何かあるってこと?トリガーはなんだ?
時間経過?一発攻撃を当てる事?
そう考えている時、血管の羽が脈打つ。
次の瞬間、ジャガモースが地面を蹴った。
尋常じゃない速さで肉薄する。
「ちっ」
右上から迫る翼を、盾で受け流す。
さっきのよりもさらに重い、スタミナが尋常じゃない勢いで削られる。
違う、パッシブスキルが無くなってるからだ。
【盾術】も【鉄壁】も【身体強化】も全部。
続けて、左斜め上から。拳、掌で受け止めるも拳を押し込んでくる。
拳が押し込まれ、HPがどんどん削れていく。
このままだと死ぬ!
そう思った私は強引に拳を掴んだ。
追撃で来る羽の攻撃も甘んじて受け。
「うぉおおお!」
そのままジャガモースを投げ飛ばす。
ジャガモースの身体が地面を滑り、赤い霧が大きく揺れた。
だが、倒れない。
すぐに羽で地を掴み、低く構える。
「もう十分だろ!」
そう言って再度霧の壁を触ると、今度は確かに押せる感触があった。
確信を得ると同時に霧の中から外に飛び出す。
「遅かったじゃない」
チュニドラの身体が霧の外へと転がり出る。
「はぁっ……はぁっ……!」
地面に片膝をつき、荒く息を吐く。
「おかえり」
アルヴィが軽く手を振る。
「軽く言うなよ……死ぬかと思ったぞ」
★
チュニドラのHPは半分以下、スタミナゲージもほぼ空だ。
「あの技はやばすぎる……スキル使えなくて、バフも消えた」
「バフもね……やりすぎでしょ」
「そして、すぐには出れない。何か条件がある」
「……了解」
それでも死ななかっただけで上々だ。
こっちには【命黎巫女】がいる、立て直しならいくらでも聞くだろう。
私は立ち上がり、ジャガモースを見据える。
霧が晴れ中から現れたジャガモース。
血管がより赤黒く輝き、羽が大きく膨張していく。
――【ジャガモースは怒りを蓄積した】
「……来たか」
チュニドラがポーションを一気に飲み干し、再度ガントレットを構える。
ジャガモースの周りの赤い粒子が、一気に収束していく。
――【荒ぶる血の賛美】
奴がこちらに手のひらを向けると、視界一杯に血の散弾が広がる。
私たちはそれぞれ動き出す。
チュニドラが前方に立ち、その後方に集まる。
「【光界】」
盾にエネルギーが収束、盾を構えると前面に光の障壁が展開される。
血の散弾に障壁が削れながらも、何とか攻撃を凌ぐ。
そして視界一杯の赤が消えると。
チュニドラのそのすぐ前に……奴はいた。
慌てたチュニドラが盾を構えるも。
もう遅かった。鋭い回し蹴りが、腹部に突き刺さる。
「がっ――ッ」
チュニドラの身体が大きく吹き飛び、そのまま壁へと叩きつけられる。
背中を強打し、地面へと崩れ落ちた。
「……う」
ジャガモースは悠然とした様子で佇んでいる。
血の羽が、大きく広がる。
(何なのだろうか……この感情は。理解しがたい、安泰を望む感情ではないもっと下らない――別の何か!)
ジャガモースの様子が変わる。
血管の羽がゆっくりと脈打つ。
ドクン。ドクン。
その度に、赤黒い粒子が空間へと滲み出していく。
迂闊には近寄れない……だが時間はある。
その間にチュニドラはマインの回復を受け戦線復帰&再度バフ掛けだ。
――次の瞬間。
ジャガモースの肉体が膨張しはじめる。
白い体が黒に侵食されるように。
血管が浮き出るように現れては、周囲の赤黒い粒子を吸収していく。
そして、血管が膨れ上がり赤黒く光る。
最後に、その身体が軋むような音を立て、ゆっくりと羽が大きく広がる。
――【華舞化】
次の瞬間、世界が切り替わった。
足元に生えていた雑草は枯れ、空には赤い霧が渦を巻きはじめ。
私は隔離された。
「また、これ」
何か変わったように見えたけど、結局は同じだった。
ジャガモースに対処しながら考える。
攻撃を避けるだけなら、大して難しいことじゃない。
距離を取ればいい。
間合いさえ見切っていれば、反撃はできずとも死ぬことはないだろう。
――時間さえ稼げば、この檻は開くのだから。
でも。
それじゃあ、楽しくないだろう。
攻略は攻略。
クリアすることはゲームの第一目標だ。
だがプレイヤーは違う。
プレイヤーの第一目標は――楽しむことだ。
「私、結構根に持つタイプなの」
口元を吊り上げる。
「やられたら――思う存分、やり返す!」
そう言いながら一度バックステップで距離を取り
左手で【銀雷】を取り出しそのまま前方の奴に発射する。
体をひねり、羽でガード。それを続けこちらの情報を与えずに前進。
中の弾薬を打ち切ったころ、奴の前方に私はおらず。
既に真横、箔新月を振りかぶり羽を叩き切りながら。
さらに踏み込み振り上げ、その一撃で鮮血を散らす。
私は高らかに笑う。
「笑ってくれたわよね。こっちも思う存分嘲笑ってあげる!」
ジャガモースが、驚愕の感情に支配されていた。
自身の攻撃を一つも食らうことも無く反撃すらされたのだ。信じられないだろう。
『ウガアァァ』
瞬時に羽を使い振りまわして近づけなくし、私と距離をとる。
(これは……この感情は怒りなのか?それとも……衝動か?)
奴は何かを逡巡し。拳を構えた。
こちらもリロードを済ませ見据える。
正直、ここで戦う事は非効率だ。
ダメージが出ない。パッシブスキルも、バフも消えて火力は2/3程度まで落ちている。だが、そんな思考はここに置いていく。
互いに肉薄……右上から羽が突き掛かる、それを躱し懐へと潜り込む。腹部を狙い刀を斬り込む。
それを拳で弾き、左の羽でさらなる追撃を狙うジャガモース。
その瞬間に大きく開脚し、身を屈める。
頭の上を羽が通過し、今度はこちらが下からジャガモースの足元を斬りつける。
そのたじろいだ一瞬に、地に手を付け起き上がりと同時に蹴りを喰らわせる。
反動で上へ飛び上がり着地。
瞬時に間合いをとって銀雷を乱射。
羽で守られているため、ダメージは無い。
互いに後退、互いに相手を見定める。
気づけば、胸の奥が燃え上がっていた。
冷静では無いな、と自分でも分かる。
だけど、止められるものでは無い。
これがエンジョイプレイってやつだ。




